読めば「あの歌劇団」が見たくなる漫画『かげきしょうじょ!!』

「選ばれし者たち」の等身大の成長譚

これを読み始めてから、宝塚歌劇団が見たくてたまらない。40年近く生きてきて、そんな気持ちになったことはなかったのに、あのキラキラしたステージを生で見てみたいという思いが日に日に強くなっている。

歌劇団を目指す少女たちを描く『かげきしょうじょ!!』

斉木久美子さんの『かげきしょうじょ!!』(白泉社)は、宝塚歌劇団をモデルにしたと思しき、「紅華歌劇団」の劇団員育成を目的とした「紅華音楽学校」の記念すべき100期生として入学した少女たちの姿を描く青春群像劇だ。

『かげきしょうじょ!!』1巻 表紙 ©️斉木久美子/白泉社

大正時代に設立され、未婚の女性のみで構成される「紅華」の内幕は、女子校以上に男子禁制の花園といった感がある。現実の宝塚同様に、「女性が女性にあこがれる世界」であり、男性である筆者には近寄りがたい印象があった。

しかし、いま自分は「銀橋」(作中では、トップ俳優だけが立てるエプロンステージのことを指す)を目指す彼女たちがこれからどのように成長し、どういう役者になっていくのか、そんな先行きを思うと、楽しみであると同時に不安にもなってしまう。要するに、純粋なファンになってしまっている。

舞台に迷い込んだ主人公の渡辺さらさ『かげきしょうじょ!!』1巻より ©️斉木久美子/白泉社

これはキャラクターへの単純な「共感」とは、ちょっと違うかもしれない。合格倍率がウン十倍の狭き門を突破した紅華の生徒たちは、「隣のクラスのかわいい子」どころではないエリート。作中でも自分は平凡だと落ち込む生徒が先生から励まされるように、紅華に入学できた時点で「他人とは違うもの」を持っている。

そんな彼女たちが織りなす日常は、一般の女子高生が体験できない瞬間に満ちている。だから、「あるある」「わかるわ~」と共感するのは難しい。ましてや男性読者ならなおさらだ。

物語だけでなく、キャラクターにも魅力

エンタメのジャンルとして、普通なら見ることができない世界の裏側を覗き見る面白さを狙う場合もある。例えば、女子高校の日常を男性教師の目線から描いた『女の園の星』(和山やま著、祥伝社)は、そういったジャンルの近年における名作だろう。

もちろん『かげきしょうじょ!!』にも、そういう面白さはある。しかし、裏側の描き方が面白いだけでは、少女たちの成長をドキドキしながら見守る心境にはつながらない。「かわいい」とか「健気」だけでもない。「かっこいい」とか「すごい」でも足りない。まさに「この気持ちは何だろう?」と思い続けている。

クラスメイトでありライバルでもある少女たち『かげきしょうじょ!!』6巻より ©️斉木久美子/白泉社

はっきりとわかるのは、自分は彼女たちを身近な

存在として眺めていることだ。漫画の設定上、みんな才色兼備であるにもかかわらず、ひとりひとりのキャラクターに親しみを覚える。それはなぜか。

世の中には「長所は短所、短所は長所」という言い方がある。「話がうまい」は「おしゃべり」という否定的評価になるかもしれないし、「寡黙でつまらない」は「クールでかっこいい」になるかもしれない、といったやつだ。それと同じように「美人」も、実はいいことばかりではないと作中では描かれる。

長所が最大の「壁」に。葛藤する少女たち

例えば、同作の中心人物には「誰から見てもかわいくて、すごくモテる女の子」がいる。国民的アイドルグループ「JPX48」の元メンバー、奈良田愛。彼女は美人ぞろいの校内でもひときわ目立つほどの容姿で、先輩や同級生からも褒められる。

ジュリエット役を演じる奈良田愛『かげきしょうじょ!!』1巻より ©️斉木久美子/白泉社

しかし、本人はちっとも喜ばない。小学生時代から美少女だった彼女は、ある過去により男性恐怖症になっていた。だから、見た目を褒められることは面倒しか呼び込まないと思っている。気が付けば男性だけでなく、同性に対しても心を閉ざすようになっていた。

飛び抜けた容姿という多くの人が羨む才能がありながらも、それを自身は厄介にすら感じている。本編の前日譚にあたる『かげきしょうじょ!! シーズンゼロ』は、そんな奈良田愛が、いかに自分が築いた「心の壁」を壊していくのかという過程が見どころになっている。

『かげきしょうじょ!! シーズンゼロ』上巻 表紙 ©️斉木久美子/白泉社

そして、主人公の渡辺さらさである。『ベルサイユのばら』の「オスカル様」になることを夢見る彼女は、天真爛漫な性格で周囲を振り回すこともしばしば。178cmの長身で入学当初から目立つ存在となるが、素行について陰口もささやかれる。余談だが、さらさの身長は「オスカル様」の漫画における設定と同じである。

彼女には天才的な演技の才能があり、他人の仕草や芝居を完璧にコピーできる。その姿は圧倒的で、ルームメイトである奈良田からも「夜空に輝く星」にたとえられるほどの存在感がある。しかし、この才能こそがさらさにとって最大の「壁」である。

誰かのマネは完璧でも、「渡辺さらさ」という俳優の個性がわからない、と講師にも評されてしまう。世の中では長所でしかない「のめり込む力」が俳優としての足かせになっている。

講師に演技について指摘を受ける渡辺さらさ『かげきしょうじょ!!』1巻より ©️斉木久美子/白泉社

他人にとっての長所が、当の本人にとっては乗り越えなければならない壁となる――。それが『かげきしょうじょ!!』の生徒たちに共通する葛藤なのだ。

実際の宝塚歌劇団の舞台も身近に

そのようなキャラクターの描き方は、「選ばれし者たち」を「悩みながら成長する少女たち」という等身大の存在に見せることに貢献している。だから、男性・女性を問わず幅広い読者が、渡辺さらさたち100期生を身近に感じることができる。

『かげきしょうじょ!!』は雑誌「MELODY」で連載中であり、現在も彼女たちは夢に向かって走り続けている。誰もが他人から羨ましがられる才能を持ちながらも、厳しい競争に身を投じ、それぞれの壁を乗り越えようと奮闘している。

そうまでして彼女たちが目指す歌劇団の舞台は、どれだけ輝いているのだろうか。『かげきしょうじょ!!』を読むと、そんな気持ちが湧いてきて、宝塚歌劇団を見てみたくなってしまうのだ。


Written by

小山田裕哉