憂鬱な梅雨の朝に沁み入る温かな音楽から、世界を思う

Vampire Weekend - Hold You Now (feat. Danielle Haim) [Father of the Bride]

雨が続くじめじめとした日々。低気圧のせいか、身体がだるい。

「早く夏にならないだろうか。」

起き抜けにそう思いながら、のそのそとリビングへ向かう。朝日を浴びたくてカーテンを開けるが、雲で覆われた空は薄暗く、目が覚める気がしない。

憂鬱な気分から抜け出すために、音楽でもかけよう。ジャケット写真が並ぶスマートフォンの画面をスクロールしていく。

「そういえば、フジロック初日のヘッドライナーは彼らだったな。」

表示された地球のイラストをタップする。再生ボタンを押すと、Bluetoothスピーカーから男性の穏やかな歌声が流れ出す──。


2008年にデビューしたNY出身のバンド、Vampire Weekend。この十数年のロックシーンにおける最重要バンドのひとつといえる存在だ。

ガレージロックやポストパンクのリバイバル、ニューレイヴが起こった2000年代。そんな分かりやすいムーブメントが落ち着いてきたころに、突如として現れた彼らは、アフロポップをはじめとするワールドミュージックの要素を取り入れたトロピカルなインディーサウンドで、シーンに新しい潮流を築いた。

そんな彼らが2019年、4作目のアルバム「Father of the Bride」をリリースした。1991年に公開されたスティーブ・マーティン主演の映画「花嫁のパパ(Father of the Bride)」(1950年公開の同名映画のリメイク)にちなんだこのアルバムは、結婚や恋愛、人間関係をテーマにしている。

複数のミュージシャンをフィーチャリングゲストに迎えるという、いわばヒップホップアーティスト的な手法で制作された約6年ぶりの新作は、全米チャート初登場1位を記録し、第56回グラミー賞で最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバム賞を受賞した。


今日の始まりを飾る音楽は、そんなアルバムの1曲目「Hold You Now」にしよう。スピーカーからフロントマン、エズラ・クーニグの穏やかな歌声が流れ出す。アコースティックギターの音色とともに始まるこの曲は、3姉妹バンドHaimの次女ダニエル・ハイムとのカントリーデュエットソングだ。

懐かしいメロディに乗せて、お嫁に行く娘とその父の掛け合いを歌っているのだろうか。「あなたをずっと抱っこすることはできないけれど、今ならあなたを抱きしめられる」という歌詞が切なくも温かい。

この曲にはゴスペルのようなコーラスサウンドも盛り込まれているのだが、サンプリングしているのは太平洋戦争を描いたテレンス・マリック監督の映画「シン・レッド・ライン(The Thin Red Line)」のサントラだ。日本軍と連合軍の激戦の舞台となったソロモン諸島ガダルカナル島に伝わるメラネシア語の賛美歌だという。

実はこのアルバム、続く2曲目の「Harmony Hall」では人種による分断が深刻化するアメリカを憂う心情が歌われているし、ラストの「Jerusalem, New York, Berlin」ではパレスチナ統治をめぐる宗教的対立を主軸に現代の世界に対する強い危機感が込められている。

ユダヤ教徒として育ったエズラは、どんな思いでこのアルバムを作ったのだろう。アルバムのリリースからおよそ2年が経った今、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関するニュースが毎日流れている。

梅雨明けは必ず訪れるが、世界に降り続く火の雨が止む日は来るのだろうか。Vampire Weekendが奏でるピースフルなメロディとともに、世界を思う。


Written by

奥村小雪