結成当初の疎外感、コロナ禍で失ったもの…困難に負けず挑み続けるDragon Ashの四半世紀

今年、デビュー25周年を迎えたロックバンドDragon Ash。ロックやヒップホップなど多岐にわたるジャンルの壁や、邦楽・洋楽の壁を果敢に乗り越えながら、日本の音楽シーンにおいて「ミクスチャーロック」を確立したバンドだ。

彼らは今もなお、次々と新しい表現に挑みながら、ロックの可能性を果敢に追求し続けている。その原動力は何か、バンド結成当時からのメンバーであるKj(Vo/G)と櫻井誠(Dr)に話を聞いた。

Kj(左)と櫻井誠(右)

「ライブをやるたび疎外感」結成当時のジレンマ

Dragon Ashは、1997年に3ピースバンドとしてデビューして以降、次々とジャンルを越境しながら、日本の音楽シーンに新しいロックの形を提示してきた。しかし、バンド結成当時には葛藤もあったという。

Kj:バンドを始めたばかりの頃は、たしか普通に実家の自分の部屋で曲を作っていて、正直「俺たちが日本の音楽シーンをひっくり返してやる」っていう感覚はなかったです。

Kj:単純に自分がやりたいこと、良いと思うものを集めていただけで。だから"ジャンルの越境"っていう感覚すらもなくて。サク(櫻井)はテクノを聴いたり、ビジュアル系を聴いたりしていたけど、それもたぶん越境とは思っていないだろうし。

Kj:俺も、当時聴いていたLAメタルやパンクを一つにして表現しようとしていた感じですね。ジャンルというくくりにそんなに意味はないというか、「自分たちで決めるもんじゃないから」みたいなところもあるし。

櫻井:あとは、俺らが音楽を始めた頃、既に新しい音楽を鳴らしている先輩たちがたくさんいて。

Kj:スケボーキングがいたりね。年齢もみんな上だったし、当時はみんな「兄さん」「姉さん」って感じで。

櫻井:だから「ジャンルを飛び越えて新しいことをやっているんだ」っていう感覚はあんまりなかったです。ただもちろん、当時のライブシーンには、いわゆるミクスチャーではないロックやポップスのバンドもたくさんいて。

櫻井:そういうバンドのお客さんたちに、どうアプローチしていけばいいのか分かんない時期もありました。俺たちがステージの上に立つと「何この人たち、怖い」って言われたり。

Kj:「こっちが怖いわ!」って(笑)。

櫻井:いろいろなバンドのツアーに交ぜてもらって、よく一緒にライブハウスを回っていたんですけど、ライブ一本やるごとに疎外感を覚える時期もあったり。

櫻井:「俺らがやっていることってそんなに難しいかな?」「単純に聴けば格好よくないかな?」っていうジレンマがずっとありました。

「陽はまたのぼりくりかえす」で感じた手応え

そうした葛藤の日々を乗り越え、バンドとして一つの大きなブレイクスルーを果たすきっかけとなった楽曲が、1998年にリリースされた「陽はまたのぼりくりかえす」だ。

「陽はまたのぼりくりかえす」ジャケット

同曲を収録したアルバム「Buzz Songs」は、ブレイクビーツやスクラッチなど、ヒップホップの要素を大胆に導入した野心作となり、日本の音楽シーンに大きなインパクトを与えた。

櫻井:「陽はまたのぼりくりかえす」が発売されたころ、ちょうど大阪でライブがあったんですけど、その時に近くのタワーレコードに見に行って、(Dragon Ashの頭文字の)「と」の棚を探すじゃないですか。でも、その棚に俺たちのCDが入ってなかったんですよ。

Kj:基本、TRICERATOPS(のCD)しかないんですよ(笑)。

櫻井:「あーそっか」みたいな感じで、ちょっと落ち込んでライブハウスに戻ろうとした時に、ベースの馬場(育三/IKÜZÖNE)さんが「ちょっと待て待て!」って呼び止めたんです。

櫻井:で、入り口の所を見たら、一番目立つブースに並べてくれていたんですよ。もう「まじか!」みたいな。当時、レコード店がああやってプッシュしてくれるのが、一番パワーが大きかったんで。

Kj:ディスクレビュー書いてくれたりね。

櫻井:「これで光が見える可能性があるね」って、みんなで歓喜したのを覚えています。

Kj:「Buzz Songs」が出る頃には、俺らでも分かるぐらいライブのお客さんが増えたし。

「Buzz Songs」ジャケット

櫻井:その1年ぐらいの間にけっこう目まぐるしく変わって、俺らを目的としてライブハウスに来てくれるお客さんが、ぶわーっと増えた体感がありましたね。

「刺さる人には刺さる」リアルな歌詞

その後Dragon Ashは、日本の音楽シーンにおける最重要バンドの一つとして大きな認知と支持を獲得していく。

その過程で彼らは「百合の咲く場所で」をはじめ、同じ時代を生きるリスナーへ向けた数々のメッセージソングを歌い鳴らしながら、ファンとの絆をより深いものへと育んでいく。

Kj:歌詞を書くときは、毎回、具体的な題材があって。

櫻井:建志(Kj)の身近にいる人に向けた歌詞なので、リアルに仕上がるし、響く人がいて当たり前なんですよね。

櫻井:最初から何十万人、何百万人に向けて歌詞を書くって相当難しくて、全員が受け取ってくれるような曲を作ろうとすると、どうしても安パイをとっていくことになると思うんですよ。

Kj:そうだね。

櫻井:内容が濃い方が刺さる人には刺さるし、1ワードでも強ければ、例えば「サビの1カ所がすげぇ耳に届いてくる」で十分だと思うんです。

櫻井:その後、改めて歌詞を読んだときに曲のメッセージを深く知ってもらえればいいし。そういう言葉の強さが、リスナーに響くポイントなんじゃないかなと思いますね。

W杯の年に起きた熱狂 リスナーの変化

2002年、「FIFAワールドカップ」のオフィシャルソングとなった「Fantasista」がリリースされる。

「Fantasista」ジャケット

それまでDragon Ashが既存の音楽シーンに提示し続けてきたミクスチャーロックの精神が、一つの大きな結実を見せたこの曲によって、音楽シーンを超え日本中が熱狂するような大きなムーブメントが巻き起こった。当時の熱狂の中心で、彼らは何を感じていたのだろうか。

櫻井:やっている俺たち自身は、あんまり変わったっていう感覚はないですよね。相変わらず、好きな音楽を表現しているってことだと思うんで。

櫻井:でもその頃にTMC(Dragon Ash主催の音楽イベント「Total Music Communication」)をやったりして、仲間もいっぱい増えましたね。

Kj:確かに。

櫻井:ヒップホップとかジャンルをごちゃまぜにしてイベントやったら、意外とみんな楽しんでくれて。お客さんもひっくるめて「この音楽格好よくね?」という感覚を理屈なしで楽しんでもらえる時代になったかなと思います。

櫻井:そのきっかけを俺たちが作ったとかじゃなくて、たぶんその頃って、携帯電話が出てきたり、インターネットのBBS(電子掲示板)が出てきたりして、デジタル化が始まるような時期だったんです。だから、そういうものを通していろんなことに興味を示す若者が増えたって背景もあると思いますね。

GREENROOM FESTIVAL'22 出演時の様子 | Photo by: TAKAHIRO TAKINAMI

フェスシーンが拡大した10年 深まった絆

Dragon Ashの2000年代の歩みは、日本でロックフェスが定着し始め、広く浸透していく10年間と重なる。

彼らはフェスに限らず、数多くのイベントや対バンライブ(1公演に複数のアーティストが出演するライブ)を通して、同じ時代を生きるバンド、またリスナーとの連帯を深め合ってきた。

Kj:選択肢が自分たちにあるのであれば、今でも絶対にワンマン(単独公演)より対バンを選ぶんですよ。それぐらい、今も昔も対バンやフェスが好きで。やっぱり、バンドを始めたばかりの頃にそういうカルチャーに強烈にぶちのめされている世代なんで。

GREENROOM FESTIVAL'22 出演時の様子 | Photo by: TAKAHIRO TAKINAMI

Kj:山嵐が「湘南音祭」を始めて、それが初期のアーティスト主体のフェスだったと思うんですけど。すごくオープンで、それこそ出番が終わったらみんなで酒を飲んで、仲間のライブをステージ袖から観るっていうその時の経験を強烈に覚えていて。

Kj:その後、(10-FEET主催の)「京都大作戦」とか(SiM主催の)「DEAD POP FESTiVAL」、(氣志團主催の)「氣志團万博」とかができたりして。今もいろんな素敵なロックフェスがあるけど、自分にとっての原体験として「湘南音祭」は相当強烈だったし、バンドマンの楽園だと最初に思えた場所っていう感じですね。

コロナ禍で「余白を味わえない」日々

2012年、オリジナルメンバー・馬場育三(IKÜZÖNE)さんの急逝というあまりにも大きな喪失を経験するが、それでもDragon Ashは、ロックバンドとしての歩みを止めることはなかった。

2014年に発表されたアルバム「THE FACES」には、「The Show Must Go On」をはじめ、ロックバンドとして歩み続ける決意を刻んだ楽曲がいくつも収められている。実際に彼らは、幾多の困難を乗り越えながら、新曲を生み出し、ステージの上に立ち続けてきた。

「THE FACES」ジャケット

そして2020年、新型コロナウイルスの感染拡大という新しい壁がDragon Ash、そして音楽シーンの前に立ちはだかった。コロナ禍におけるバンド活動について、彼らはどう考えているのだろうか。

Kj:Dragon Ashは、あくまで、部活の延長線上でいたいんですよ。それが音楽的に優れている・優れていないとか、自分の精神年齢とフィットしている・フィットしていないとかとは、もう完全に別の問題というか。ほんと、"青春延長ボタン"を押しまくってやってる感じ。俺にとってDragon Ashは、そういう場所なんです。

Kj:コロナ禍に入って「止まってたまるか」っていう精神でやっていますけど、やっぱり一人じゃなくてバンドで音楽をやっていて何が楽しいかって、みんなでスタジオ行って、「せーの」で音を合わせて、晩飯一緒に食って、与太話して…っていうのがロマンですから。今は、そのロマンが全部抜けているわけですよ。

櫻井:実務のみで、余白を味わえないよね。

Kj:それぞれが家で録音したデータを納品するって、理想とするロックバンドじゃないですから。だから戻れるんだったら、今すぐにでもコロナ前の世界に戻りたいです。やっぱりDragon Ashは「楽しい」ってことが一番の原動力だから。

Kj:だけど、それで何もできないっていうよりは、ブーブー言いながらも音楽を奏でるっていう方がバンドマンとしては格好いいかなと思って、コロナ禍でも新しい曲を作っている感じです。

「できないことを数えるのは簡単」今、目指すのは

2022年4月、Dragon Ashから、シンフォニックで壮大なサウンドが感動的な新曲「Tiny World」が届けられた。高橋一生が主演を務める「インビジブル」のために書き下ろされた、バンドにとって初となる連続ドラマの主題歌だ。

「Tiny World」ジャケット

緻密に構築されたトラックと躍動的なバンドサウンドの新結合が美しいこの曲は、絶え間なく進化を続けてきたDragon Ashだからこそ、たどり着くことができた最新型のミクスチャーロックだ。

Kj:今まで俺たちって、あえてスタンディングのライブしかやってこなかったんですよ。でも、コロナ禍になって、ぎゅうぎゅうになって声を出すとか、あらゆることから解放されて楽しむこととか、俺たちのライブにとって一番大事なところが全部ダメになっちゃったんです。

GREENROOM FESTIVAL'22 出演時の様子 | Photo by: TAKAHIRO TAKINAMI

Kj:できなくなってしまったことを数えるのはとても簡単だけど、じゃあこうした条件の中で何ができるかっていう試行錯誤を、前作シングル「NEW ERA」の時から続けていて。

Kj:こうした環境下で、自由に体を動かせないとしても、違う形で心を揺さぶることは不可能ではないですから。今は楽曲の構成にこだわったりしながら、できる限り俺たちの表現だけで完結するような音楽に重きを置いています。

櫻井:これまでは、満員のライブハウスで演奏することがメインだったんですけど、最近ではわりとホールでやるようなライブも増えて。椅子があって、空間的にも広いので、そういう会場で一体感を生み出すようなイメージですね。

櫻井:隣に人がいないことが、一種の居心地の良さにつながるような、そういう新しい体験を目指しています。それは「Tiny World」においてもいえることですね。

生きている限り、ずっと演奏し続けたい

Dragon Ashは、これまで四半世紀にわたり、変化・進化を繰り返しながら、新しい表現に挑み続けてきた。

彼らが掲げる「The Show Must Go On(ショーを続けなければならない)」の精神は今もなお不変であり、だからこそバンドの物語はこれからも絶えず更新され続けていくはずだ。

櫻井:Dragon Ashは自分の人生になくてはならないもので、やめようって思うこともないし、やり続けられる限りは、ずっとやっていたいっていう感じですかね。本当に、腕がもげて、足がもげて、ドラムが叩けなくなっちゃう、そこまでは。

Kj:大丈夫、その状態で「やろうぜっ」とはなんないから(笑)。

GREENROOM FESTIVAL'22 出演時の様子 | Photo by: TAKAHIRO TAKINAMI

櫻井:体が動く限り、まあイコール生きている限りは、ずっとやり続けたいですね。こうして活動を続けられるのは、本当に応援してくれているファンのおかげです。ファンがいなかったら、勝手に演奏しても誰も聴いてくれないし。

Kj:本当そう。

櫻井:本当に、ファンの皆さんへの感謝ありきです。


Staff Credit

Text: 松本侃士

Photo: 大橋祐希

Movie: 水島英樹、 二宮ユーキ

Edit: 前田将博(LINE)、奥村小雪(LINE)


Articleとは?

NAVERから2022年6月にBeta版としてリリースされた、簡単に表現豊かなコンテンツを作成することができる新しい投稿プラットフォームです。写真、イラスト、動画、音声、テキストなど、様々な表現に最適化された"Stylizer"を利用し、より美しく表現できます。


Written by

LINE NEWS編集部