『シン・仮面ライダー』前に予習したい、石ノ森章太郎氏による“漫画”版『仮面ライダー』

映画をより楽しむために押さえておきたい3つの特徴

『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に続く”シン・シリーズ”(実際にシリーズとして明言はされていませんが、庵野秀明氏を中心とする制作構造や作品間コラボキャンペーン等の視点から便宜上こう表現します)作品『シン・ウルトラマン』が大ヒット上映中ですが、その最新作として期待を集めているのが2023年3月公開予定の映画『シン・仮面ライダー』です。

『シン・仮面ライダー』が参照する”2つの原点”

気がつけば公開まであと10ヶ月を切り、Twitterアカウントや公式アプリを通した情報発信からも期待が高まる『シン・仮面ライダー』ですが、その予習作品リストにおいて1971年放送開始のTV版『仮面ライダー』と並んで筆頭に挙げられるのが、今回紹介する石ノ森章太郎氏による漫画版『仮面ライダー』(連載:『週刊ぼくらマガジン』『週刊少年マガジン』)です。

というのも、『シン・仮面ライダー』制作発表時のコメントにおいて、監督を務める庵野秀明氏は「50年前にテレビ番組から受けた多大な恩恵を、50年後に映画作品という形で少しでも恩返しをしたいという想いから本企画を始めました。」と、企画の出発点はテレビ版『仮面ライダー』であるとしながら、同作で目指す作品像の一つを「石ノ森章太郎先生と東映生田スタジオが描いていたエポックメイキングな仮面の世界を現代に置き換えた作品」と定義していました。

注目したいのは”仮面の世界”という言葉。これは漫画版『仮面ライダー』の最終話タイトル「仮面の世界」からの引用であり、『シン・仮面ライダー』に漫画版の要素を取り入れることへの言及とも予想できるのです。

石ノ森章太郎氏による漫画『仮面ライダー』1巻 表紙 (講談社「石ノ森章太郎デジタル大全」 ©️石森プロ )

ここで一度整理しておきたいのが、「TV版『仮面ライダー』は漫画版『仮面ライダー』の映像化作品ではない」ということ。もともとはTV局と東映による子供向け番組の立ち上げに、石ノ森章太郎氏へ特撮ヒーロー作品のアイディアを依頼し、そこから生まれたのが『仮面ライダー』という企画であり、それをもとにTV版と漫画版それぞれの『仮面ライダー』が同時並行で制作・発表されたという図式です(正確な例えではありませんが、『機動警察パトレイバー』や『新世紀エヴァンゲリオン』のTV版と漫画版との関係性を思い浮かべてもらえればわかりやすいかもしれません)。

ともかく、『仮面ライダー』シリーズには2つの原点があり、『シン・仮面ライダー』はその両方を参照しそうだということを理解してもらえればと思います。

さて、そんな漫画版『仮面ライダー』の魅力や特徴を、できるだけ重大なネタバレを避けながら、3つピックアップして紹介しようと思います。そのポイントは「TV版よりも対象年齢が高い」「仮面ライダーの”仮面”が違う」「ショッカーの性質が違う」です。

※以下、若干のネタバレが含まれるため、完全にまっさらな状態で『仮面ライダー』を読みたい方はご注意ください。

漫画版の特徴その1.「TV版よりも対象年齢が高い」​

漫画版最大の特徴がこれ。シリアスでダークな作風です。TV版も序盤はダークヒーローや怪奇ホラー的なシリアス要素が色濃く、『ウルトラマン』よりも対象年齢高めの印象なのですが、TV版の第14話『魔神サボテグロンの襲来』で仮面ライダー2号が登場してからは変身ヒーローもの然とした明るめの作風に変化していきます。

それに対し、漫画版『仮面ライダー』は後半にややギャグ要素が入ってくる以外ほぼシリアス。石ノ森章太郎氏によるダイナミックかつ緻密な絵で、人間が人ならざるものに変貌する恐怖や、改造人間の悲哀が描かれていきます。

改造人間であることに葛藤する仮面ライダー2号『仮面ライダー』3巻 より(講談社「石ノ森章太郎デジタル大全」 ©️石森プロ )

また、物語中盤からは公害問題が扱われ、大企業の傲慢に対する反対デモを行う庶民が大迫力の見開きページで描かれます。そして後半では被曝二世の問題や、ジョージ・オーウェル『1984』的監視社会への警鐘が提示されていきます。

しかし、作品全体を見直すと、それらの社会的テーマは中盤以降から突如現れたものではないことがわかります。

本作第1話は、手術台に横たわる主人公・本郷猛のカットから始まります。本郷猛の視界に見える手術室の円形ライトが、回転するバイクの車輪と重なり、なぜ手術を受けるに至ったのかを思い出していきます。バイクレースの練習中だった本郷猛は正体不明の2台の自動車に追跡され、はさみ撃ちを

間一髪かわしたことで自動車同士が正面衝突。ボンネットが開き、エンジンなどの内部メカが露出し、大爆発を起こします。間一髪切り抜けたかと思いきや、突然現れた3台目の車によって本郷猛が乗るバイクは転倒。空回りする車輪が再び手術室の照明に重なり、正体不明の声から、本郷猛の肉体が改造手術によってサイボーグになり、脳手術を残すだけであることが明かされます。

ショッカーに改造手術を施されたことを告げられる本郷猛『仮面ライダー』1巻より(講談社「石ノ森章太郎デジタル大全」 ©️石森プロ )

ここから先の展開は本編を読んでいただければと思いますが、つまり漫画版における仮面ライダーは、機械の体と人間の心(意志)、テクノロジーと自然のハイブリッドである改造人間なのです。一辺倒にテクノロジーを否定するのではなく、それを利用して、テクノロジーの悪用に立ち向かうヒーロー。

本作の物語中盤以降、公害問題や被曝二世の問題が表出することは先述の通りですが、実は冒頭から、仮面ライダーの成り立ちを通して、あらゆる社会問題の根底に「テクノロジーをどう扱うのか」という選択があり、それこそが本作最大のテーマであることが提示されているのです。

これを現代社会に置き換えるならば、諸刃の剣である原子力やSNSをどのように扱うかという問いと言えるのではないでしょうか。

『シン・仮面ライダー』も特報映像からはより漫画版に近いシリアスな印象を受けますし、山を背景としたカットは漫画最終話との関係を連想させます。そして後述する敵組織・ショッカーの成り立ちからも、より現代的な問題に切り込んだ作品となるのでは無いかと予想されます。

漫画版の特徴その2.「仮面ライダーの”仮面”が違う」

あるいは、変身の違い、仮面の違いこそがTV版と漫画版の最大の違いかもしれません。

TV版『仮面ライダー』の本郷猛は変身することで、全身が仮面ライダーの姿となります。しかし、漫画版の本郷猛は、肉体までしか変身せず、顔は人間のままなのです。

では、あの仮面はなんなのか? 目には赤外線カメラ、アンテナには改造人間の脳波をキャッチする機能、口には鎖を噛み切ることができるクラッシャーが搭載されているため、ショッカーが本来意図した改造人間として不可欠なパーツであることは間違いないでしょう。

ですが、中途半端な改造人間である本郷猛にとっては、改造手術でついた顔の傷(怒りや悲しみによって浮かび上がる)や、改造人間としての傷ついた自我を隠すために使われる、まさに”仮面”なのです。そして、やがて本郷猛は、この仮面こそが本当の顔であると語り、人間のために、同胞であるはずの改造人間たちと戦う孤独の道を歩むことを決意します。

仮面を外した時の顔を「にせものの顔」と語る本郷猛『仮面ライダー』2巻より(講談社「石ノ森章太郎デジタル大全」 ©️石森プロ )

『シン・仮面ライダー』は、この”変身”がさらに違うのではないかと言われています。というのも、現在まで公開されている『シン・仮面ライダー』映像や写真では、池松壮亮氏演じる本郷猛が洋服を着ているカットが一枚もなく、肉体は常に変身状態である可能性が示唆されているのです。改造人間としての姿を隠すように黒いコートに身を包み、戦闘時には仮面を被る。そんな仮面ライダー像が提示されるのかもしれません。

ともかく、先述したように、制作発表に寄せた庵野秀明監督のコメントに「仮面の世界」という言葉が含まれていることからも、マスクの着用や匿名の情報発信が世界的日常となった現代において、仮面になんらかの強い意味が込められた作品になるのは間違いないのではないかと思います。

漫画版の特徴その3.「ショッカーの性質が違う」

今回ピックアップした大きな特徴のうち3つ目は、仮面ライダーを生み、そして対峙する悪の組織「ショッカー」の性質が違うことです。

TV版のショッカーは、ナチス・ドイツの残党を核とした国際的犯罪組織であり、優生思想のもと優秀な能力の持ち主を改造人間化して操り、世界を征服することを主な目的としていました。

しかし、漫画版のショッカーは「人間の心から私利私欲や無益な闘争心を無くし、秩序ただしい平和でおだやかな世界をつくる」と​劇中でその理念が語られ、人間のロボット化による平和と秩序の実現を目指した組織であると描かれます。まるで『エヴァンゲリオン』の人類補完計画にも通じる発想とも受け取ることができるのでは無いでしょうか。

仮面ライダーが最初に対峙する怪人と戦闘員『仮面ライダー』1巻 P63より(講談社「石ノ森章太郎デジタル大全」 ©️石森プロ )

さらに彼らは物語終盤では日本政府とも繋がりがある組織であることが判明します。日本政府発案による国民を番号で整理する「コード制」というアイディアにショッカーが便乗して手を加えた洗脳計画が明らかにされ、「恨むのなら日本政府を、自分らで選んだ政府なのだから自分自身を恨め」と語られます。

すでにマイナンバーが施行され、数々の失策や公文書改竄が明らかになっている現代は、この辺りの皮肉が当時よりも痛切に響く気がします。

そして『シン・仮面ライダー』における「SHOCKER」は「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling」の略称であることが明かされており、現実にスマホアプリが展開されていることからも、秘密裏に動くTV版や漫画版と比べ、オープンに活動するカルトとしての側面を持っていることが予想されます。

『シン・仮面ライダー』まであと数ヶ月。漫画版とTV版を見比べて得られる発見も

ここまで漫画版『仮面ライダー』の特徴と見どころを紹介してきましたが、最後に朗報です。

実は、漫画版は全3巻しかありません(今だと電子書籍の石ノ森章太郎デジタル大全が手軽)。その結末がどんなものになるのかはぜひ本編を読んでいただければと思いますが、大きな金額も時間もかけずに読むことができますよ。

順番については、人それぞれ好みがあると思いますが、個人的にはそういった読破・視聴ハードルの違いからは、漫画版を読んでからTV版(こちらは全98話に及びます)にチャレンジすることをおすすめします。

公開までのワクワクや予習タイム、予想&妄想タイムが一番楽しい時間。

ぜひ一緒に『シン・仮面ライダー』に“御期待”しましょう。