優しい珈琲で悩める人々を救うマンガ『珈琲いかがでしょう』に涙腺崩壊

たんぽぽ・川村エミコが愛するほろ苦くて温かい物語

出会いは2年ほど前で、もともと珈琲が好きだった私は東京のお洒落なお店が立ち並ぶ清澄白河でカフェ巡りをしたり、 休日の度に代官山やら渋谷やら、表参道にもなりふり構わず繰り出したりして珈琲を楽しんでいました。

「あ、 深煎りが好きだわ」「フルーティーなのは物足りなくない?」「でも、時に飲みやすくサッパリといただけるじゃない!」「今日はラテでたっぷり自分を甘やかしたい気分だわ」と一人で楽しんでおりました。

そうやって「今日はどこに行こうかなぁ」とネット検索をしている時に出てきたのが漫画『珈琲いかかがでしょう』(コナリミサトさん著)でした。

「珈琲屋さんの話かな?」「『美味しんぼ』的に幻の珈琲の事とか描いてあるのかしら?」「 そしたら珈琲のこともっと知ることが出来るかな。これは、みんな大好き『ご縁』ってやつだわ」

そんな気持ちで漫画を手に取りました。正確にはネットでポチッとです。

『珈琲いかがでしょう』1~3巻表紙 ©Konari Misato/MAG Garden

「珈琲の漫画は珈琲屋さんで!」と思い、渋谷のフグレントウキョウさんに出掛けましたがあいにくの満席。そこで、大学生の時から20 年通っている、まったりと過ごせる老舗のお紅茶のお店で初めて珈琲を注文して、そおっと表紙を開きました。

みんなの心を救う移動珈琲屋さんの物語に号泣

1話目から心をガシッと鷲掴みされました。

『珈琲いかがでしょう』は移動珈琲屋さんの主人公・青山一さんがいろんな町でいろんな悩みを抱える人たちの心を美味しい美味しい珈琲で解かしていく、心温まるお話です。

青山さんのお店の名前は「たこ珈琲」です(『珈琲いかがでしょう』1巻より ©Konari Misato/MAG Garden)

毎話出てくるお客さんにはどこか自分の心を投影出来る部分があり、青山さんの珈琲を一緒に飲んでいる気持ちにもなります。

心が解けてウルウルと泣いてしまいます。

飲んでいる珈琲の苦さが余計引き立ち、すぐに飲み込めなかったのを覚えています。

そして話を読み終わるたびにいつも思うのです。「前を向いてみよう」と。

愛すべき登場人物たちと珈琲を一緒に飲んでいる気持ちになることで、ググっと力が入ったような気分になり、頑張れそうなのです。

そんな『珈琲いかがでしょう』から今回は私が好きなお話を3つばかりご紹介させていただきます。

ネタバレを含みますので、これからこの作品を読みたいなぁって方はこの後飛ばしてください!

筆者撮影

初めて珈琲を飲んだ時の感動が蘇る素敵な一話

一つ目は「人情珈琲」のお話です(『珈琲いかがでしょう』では各話に「○○珈琲」というタイトルがついています)。

登場するのは垣根志麻さんという「丁寧に誠実に」、そして「義理と人情」を大切にする女性です。

職場の中で浮いた存在となっていた垣根さん (『珈琲いかがでしょう』1巻より ©Konari Misato/MAG Garden)

この垣根さんは世の中がどんどんデジタル化する中でも、仕事のお礼状を手書きするような性格です。しかし、上司からは「誰も求めてないってば!!」と怒鳴られ、同僚たちからも白い目で見られます。

そんな職場環境のなかで、垣根さん自身も丁寧に仕事をすることが「無意味なのかも」と悩んでしまいます。

そこで出会ったのが、移動販売車でお店を出している青山さんと彼の淹れる珈琲でした。

次第に垣根さんの心の支えとなっていく珈琲を淹れながら青山さんは言います。

「見てる人はちゃんと見てくれてますから」と。

最初はそれを信じることのできなかった垣根さんですが、お話の終盤、青山さんの言葉は間違っていなかったことが発覚するのです。

ページをめくりながらポロポロ涙が出てきます。私自身も救われた気持ちになれます。

ラテアート初作品(筆者撮影)

私は珈琲がとても好きなのですが、垣根さんが初めて青山さんの珈琲を飲んだ場面で、自分自身が「わぁぁぁ! なんて美味しいの」と初めて珈琲に感動した日を思い出しました。

「私だって小花柄の下着付けたい!!」と思わず感情移入

二つ目のお気に入りは「死にたがり珈琲」の回です。

「死にたくなるくらいドラマティックなつらいことがないことがつらい」と無難すぎる日々に悩む"アラサー"の女性がお客さんです。

青山さんはそんな女性をちょっと強引に、だけど爽やかに日常の外に誘います。

青山さんは美味しい珈琲を淹れるだけではなく、悩めるお客さんに手を差し伸べていきます(『珈琲いかがでしょう』1巻より ©Konari Misato/MAG Garden)

登場する珈琲もちょっとだけ"いつもの"とは違うもの。ほんのちょこっと何かを変えたら、思わぬ出会いがありますよ、って話です。

この話を読んだ後は、いつもの帰り道を少し変えたくなります。私は割と行くお店やメニューを気にいるとずっと同じにしちゃうタイプですが、「今日はちょっと冒険してみよう」と思えます。

いつもジェノバパスタだけど、勇気を出して魚介のスープパスタにしてみたら思わず美味しくて、「早く色々、試せば良かったなぁ」と。

物語の中で、「没個性」の象徴としてベージュの下着がたくさん出てくるのですが、まさに! 私そのもので。

登場人物が抱える悩みにいつの間にか自分を重ねてしまいます(『珈琲いかがでしょう』1巻より ©Konari Misato/MAG Garden)

胸が割と大きいもので、下着屋さんにいっても、「こちらの濃いベージュはいかがでしょうか?」「こちらの薄いベージュは?」とベージュの下着ばかり薦められます。

思わず叫びます。

「私だって小花柄の下着付けたいです!! 抱かれたくない男にだって抱かれたいのっ!!」と。

そんな重なる部分も登場人物にあるからか、とても好きな回です。

「大人になったら…」小学生男子の涙の叫びに感動

三つ目は、「男子珈琲」。

子どもも大人も「誰かを仲間外れにすること」は苦しいよねというお話です。

自分の心では「ダメだ!」って分かっていてもなかなか出来ないことは誰にでもあって、もどかしくて。

登場するのは公園で遊ぶ子どもたちとゲートボールに励むおじいちゃんたちの2つの男子グループです。どちらにも仲間外れされているメンバーがいて、そのことにちょっとだけ心を痛めている男子たちがいます。

青山さんの人柄は常にいろんな人を巻き込み、優しい世界に引き込んでいきます(『珈琲いかがでしょう』1巻より ©Konari Misato/MAG Garden)

そんな悩める男子たちは青山さんの珈琲をきっかけに変わっていきます。

「男の人の世界でもこういう事あるんだなぁ」とか、「女とか男とか関係ないかなぁ」とか。

「でもやっぱりみんなで仲良くしてたいなぁ」と思えます。

物語終盤、自分の心の弱さに気がつくことができた小学生の男の子が口にする「大人になったらこういうだせえの全部なくなるんじゃねえのかよ」という台詞には心が締め付けられました。

勇気を貰えるお話です。

私も青山さんみたいな珈琲を

『珈琲いかがでしょう』にはこの3つ以外にもたくさんの素晴らしい物語が並んでいます。私は、青山さんの珈琲を飲んで心が解けて、登場人物たちが悩みを話せるようになるシーンがどのお話でも好きです。

まるで自分の悩みを聞いてもらっているような気持ちになります。

苦くも甘くもなり人生の後押しをしてくれる美味しい珈琲を淹れてくれる青山さん。こんな素敵な方が近くにいたらなぁと思います。

私もまだまだ詳しくはないですが、いま、珈琲の淹れ方を習いに行っています。

珈琲はその日の心の落ち着き具合や気温や湿度なんかでも味が変わりますし、不思議と同じ豆でも淹れる人によって全然味が違います。

恐れ多いですが、私も青山さんみたいな珈琲をいつか淹れられたらなぁとも思います。

私も誰かを一生懸命愛したい!

『珈琲いかがでしょう』は何度も繰り返し読みたくなる漫画です。何度も青山さんの珈琲に会いたくなるし、飲みたくなります。

お仕事前にいつも飲むルーティーンアイスコーヒーのこと、別れ話の時の珈琲、宿題しながら飲んだ珈琲、いろんな珈琲を思い出させてくれます。

登場する珈琲もさまざまです(『珈琲いかがでしょう』3巻より ©Konari Misato/MAG Garden)

そして、最後に忘れちゃならないのが、青山さんの珈琲の師匠と奥様の愛のストーリーです。

一緒にいなくても繋がっているステキな関係性です。

私は愛し合える男性には出会えていないので分からないのですが、いつも会っている訳ではないのに、何年振りかにあっても、楽しい雰囲気に一瞬でなれる関係性のお友達がいます。

会えている時間は関係ないのだなぁと嬉しくなります。

もちろん師匠と奥様の関係性には遠く及びません。でも、ちょっとだけこんな感じのことなのかなぁと思ったりします。

青山さんの過去が明かされていく終盤、師匠と奥様の関係性に心を打たれます(『珈琲いかがでしょう』3巻より ©Konari Misato/MAG Garden)

「私も誰かを一生懸命愛したい!」と心から思えます。

「小粋にポップに生きたいです」となります。

大好きな漫画を紹介する文章を書いていたら、またあの素敵な香りが蘇ってきました。

あー、今日は豆から挽こうかしら。お気に入りの喫茶店に行こうかしら。

素敵な作品を読みながら、みなさんも一杯「珈琲いかがでしょう」。