過去の自分に"刃"を突き立て、命を削った。Creepy Nutsが進むその先は

「作詞って、命を削っていく作業だと思うんですよね」

何度も、何度も、自分自身に鋭い刃を突き立てる。消すことのできない過去を掘り返しては、精神をすり減らしていく。

そんな姿を隣で見てきた相棒は、目を伏せ、ゆっくりとその思いを口にする。

「このやり方を続けて、待っているのは"死"だと思うんですよ」

DJ松永(左)とR-指定(右)

音楽活動だけにとどまらず、テレビやラジオなどのメディアでも活躍し、お茶の間にも広く知られるヒップホップユニット・Creepy Nuts。ラッパーのR-指定は作詞、DJ松永は作曲で全力をぶつけ合い、ヒット曲を生み出してきた。

作品を通して会話し、お互いを理解し合い、共にステップアップし続けてきた2人が、不安を乗り越えたどり着いた先とは──。


日本最高峰のMCバトル(即興のラップバトル)で3連覇を成し遂げたR-指定と、世界最大規模のDJ大会でチャンピオンとなったDJ松永。

持ち前のスキルを極め、高みに上り詰めた彼らも、中学時代は強まる自意識に悩む少年だったという。そんな彼らの人生を変える契機となったのが、ヒップホップとの出会いだった。

クラスの女子の笑い声から逃げ出したかった

DJ松永:俺、もともと自意識過剰な性格で。中学生の頃は「めっちゃプライドが高いのに自信と実力は伴っていない、なおかつ他人の目が気になる」っていう状態だったんですよね。

DJ松永:クラスの女子がクスクスって笑っているのを見て「自分のことを笑っているんじゃないか」と思う…みたいなレベルじゃなく、動悸がしてその場から逃げ出したくなる。そんな中学時代を過ごしていました。

当時は、学校だけが世界の全てであるかのように感じていた。「スクールカースト」にとらわれ、常にクラス内での自身の立ち位置を気にし、もがき苦しんでいた。

DJ松永:不安で不安でしょうがなくて、1人でのたうち回ってましたね。当時は自分の感情をうまく言語化できなくて、「何がつらいのか分かんないけど、とにかくつらい」っていう感覚でした。

そんな暗闇から救い出してくれたのがヒップホップだった。友達から借りたCDをきっかけに、DJ松永はヒップホップの世界へとのめり込んでいった。

DJ松永:新潟の田舎の、さらに学校の中っていう小さな世界とは別に、ヒップホップというもう一つの世界ができたんですよね。それがシェルターとしての役割を果たしてくれた。ヒップホップのおかげで、生きるのが楽になったんです。

「不良じゃなくてもラップはできる」開けた視界

DJ松永と同様、R-指定も中学生の頃にヒップホップや日本語ラップに触れた。韻を踏みながら自らの人生を歌うラッパーたちに強く惹かれ、自分も歌ってみたいと憧れたが、「自分の人生とは関係のない人たちの音楽」だと尻込みしていた。

R-指定:カラオケで韻を踏む真似事とかはやってましたけど、当時の俺は自分の言葉をまだ持ってなかったし、一方的に好きなだけだったんですよ。

R-指定:不良性が強いカルチャーだし、若い頃の武勇伝や派手に遊んでいた話、数奇な人生を歩んできたバックボーンを歌詞にしているラッパーが多くて。そうじゃない俺には「言えることは何もないや」って思ってたんです。

いちリスナーだった少年の背中を押したのは、ヒップホップグループ・RHYMESTERの楽曲だった。

2022年4月 RHYMESTERとのライブ共演時のオフショット(Photo by: hiroyabrian)

R-指定:「だから私は酒を呑む」という曲に、「口だけ達者『現代っ子』『モヤシっ子』『ひとりっ子』で『カギっ子』」っていうフレーズがあるんですけど、それを聴いた瞬間に、初めて「俺の話や!」って思ったんです。

R-指定:その時に「好きになった瞬間からやる権利があるんだ、だからやってみろ」って言われた気がしたんですよね。

「不良じゃなくても、ハードな生い立ちがなくても、ラップはできる」そう気が付いた瞬間、一気に視界が開けた。

R-指定:自分の言葉を無理やり持つ必要はなくて。何もないなら何もないってことを歌えばいいし、今の自分のことを、リズムを刻みながら話してみたらいいんだって思えたんです。

出会ってすぐに「ブラザー」と呼び合う仲に

2人が出会ったのは10代後半の頃。同世代のラッパーやDJを全国から集めたイベントが、大阪で開かれた時だった。

R-指定:18歳くらいやったかな。イベントに参加してるラッパーたちは、やんちゃな人が多かったんですけど、その中で(DJ)松永さんは「圧が全然ない!」って。

R-指定:すぐに打ち解けて、「ブラザー」と呼び合う仲になりました。​

DJ松永:当時はmixiが主流だったので、その場でマイミク申請しました(笑)。​

RHYMESTERが好きだという共通点もあり、2人はその後も東京や大阪でイベントに参加するたびに交流を深めた。

R-指定:話していくうちに「不良ではないこの人格とこの自意識のまんまでは、ヒップホップはできないのか?」というジレンマを、お互いに抱えているところも似てるなって感じて。​

DJ松永:上板橋の居酒屋でお茶を飲みながら「こんな内省の話できるんだね」ってお互いに驚いた記憶がある(笑)。

R-指定:あったね(笑)。

DJ松永:点や線じゃなく"面"で合ってるっていう感覚があって、どんどん距離が近くなって「一緒に音楽やるー?」みたいな話になっていったんですよね。

Creepy Nutsを組んだことで起こった変化

それぞれがソロで活動していた頃にリリースした「トレンチコートマフィア」や「R.I.P.」などの楽曲では、とげとげしい言葉で攻撃的に歌うことが、内に秘めていた思いを吐き出す唯一の方法だった。

R-指定:「自分が何者なのか、分かってもらえていない」みたいな感情を、攻撃性に転換する手段しか持ち合わせていなかったんです。「分からせるためには、刃を鋭利にするしかない」って、自意識をとがらせていました。

しかし、Creepy Nuts結成後にリリースされた「スポットライト」や「助演男優賞」で、その刃先は丸みを帯びていく。

R-指定:似たような内面を持った2人が組んで、Creepy Nutsというフィルターを通すことで、これまでとがらせていた自意識をまろやかに、ファニーに表現できたんですよね。

「スポットライト」「助演男優賞」収録のアルバム「クリープ・ショー」ジャケット

2人に大きな影響を与えたのが、オードリーの若林正恭と南海キャンディーズの山里亮太による漫才ユニット「たりないふたり」だ。

人見知りで社交性・恋愛・社会性の"たりない"ふたりが、各々のたりない部分を暴露し合いながら、笑いに変えていく姿に感銘を受けたCreepy Nutsは、2016年に「たりないふたり」という楽曲を制作。同名のミニアルバムもリリースしている。

ミニアルバム「たりないふたり」ジャケット

R-指定:俺らが持ってる内面を、救いのない攻撃性で表現するのではなく、ファニーに笑い飛ばすことで、アートにできるんだと教えてもらったんです。

「俺らみたいな人は多い」と気付いた

2020年にリリースされた「かつて天才だった俺たちへ」。人々がそれぞれ持っている可能性を肯定するこの楽曲は、Creepy Nutsの2人にとってのターニングポイントといえる作品だ。

ミニアルバム「かつて天才だった俺たちへ」ジャケット

R-指定:これまでは今の自分や過去の自分に向けてメッセージを書いてたんです。いわば自分自身を肯定するために歌詞を書いてきたわけなんですけど、初めてほんのちょっとだけ外に向いたのが「かつて天才だった俺たちへ」なんです。

R-指定:「方向は違えど同じような道を通ってる人が他にもおるかもしれへんな」みたいに想像を膨らませて書くことができて。

歌詞にする対象が他者へと広がった背景には、ラジオ出演の増加があった。番組でDJ松永の感情が言語化される機会が増えたことで、R-指定の書く歌詞に新たな視点が生まれた。

DJ松永:自分の置かれている立場とか、やり方とか、自分の意志とか…言葉になってない部分をR(-指定)がラップにしてくれている場合もあるし、俺がラジオなどで言葉にした部分をRも歌詞で書いていて、勝手に会話になってると感じる場面もたくさんあります。​

R-指定:ラジオが始まってからはよりそのラリーが濃密になってきましたね。松永さんのラジオでの言葉がヒントになって、歌詞を書くことがめちゃくちゃ増えました。

R-指定:松永さんの言葉を聞いて、ライブでもいっぱいお客さんが来てくれて、「思った以上に俺らみたいな内面を抱えている人は多いし、そうじゃない人でも俺らの内側から出る言葉に耳を貸してくれるんや」って気付けたんです。

2021年11月 横浜アリーナ公演の様子(Photo by: Rio Nakamura)

R-指定:「のびしろ」や「かつて天才だった俺たちへ」は、そんな気付きがあったからこそ生まれた曲なんですよね。

今までの作詞を続けて、待っているのは"死"

2人は作品のリリースを重ねるたび、お互いの理解を深め、表現の幅を広げてきた。しかし、楽曲制作の過程で生じるのはポジティブな影響だけではない。

DJ松永:Rの作詞って、命を削っていく作業だなと横で見てて思うんです。俺もエッセイ書いたりするけど、かなり身を削る作業だなって。このやり方を続けると、めちゃくちゃいい作品はできるかもしれないけど、待っているのは"死"だと思うんですよ。

DJ松永:Rは過去の自分を遡って、間違ってた自分を回想して、書き出すわけですよ。「R.I.P.」とか「トレンチコートマフィア」とか、初期の楽曲で外に向けてた"刃"を回収しに行って、その"刃"を自分に向けるんです。​

R-指定:「トレンチコートマフィア」とかの歌詞で、自分を分からせるための比較対象として使った人や物たちにも、自分と同じように心があったし、同じようにぬくもりがあった。そこに"刃"を向けたってことは、もちろん自分にも返ってくるよね、みたいに思っていて。

R-指定:「かつて天才だった俺たちへ」とか「のびしろ」とかで自分を肯定できるようになったからといって、「自分のことを分かってもらえたから、スッキリできた」では終わられへんよなっていう。

DJ松永:そういう姿を横で見てて、これを続けていくと死ぬんじゃないかと思う。死なずに富や名声を得たとしても、幸せかどうかは別な気がするんですよ。かなりしんどい人生になるだろうなって。

R-指定:特にガチンコで向き合って作詞したのが前回のアルバム「Case」で。「のびしろ」とかが前向きであればあるほど、「デジタルタトゥー」とか「15才」とか、とんでもなく内向きな曲があって。

R-指定:今、意気揚々と歩いてるけど、ちょっと後ろ見てみて?自分が通ってきた道振り返ってみて?これまで誰を踏みつけて、誰を刺して、誰を足蹴にしてきた?みたいな。前作ではそういう葛藤も含めてお茶を濁すことなく全部しゃべったんですよね。​

「Case」で自分の過去、かつての過ちに誠心誠意向き合ったからこそ、作詞に新たな道が開けていく。

アルバム「Case」ジャケット

DJ松永:このタイミングでRが物語を書けるようになって…。もともと物語を書ける人だったと思うんだけど、ついにそこのフィールドに手を出して。

R-指定:今は、前作よりも先のところにいるから、いったん自分のことよりも、他人のことをメインに書いた曲が多くなってる感じはしますね。これからは物語だったり、自分以外のことを書くことが増えていくのかな。​

DJ松永:物語って無限じゃないですか。作品の幅がものすごく広がるし、Creepy Nuts的にも進化できるし。​

DJ松永:なにより、Rが心身ともに健康で創作活動を行える選択肢ができたと思うんです。だから、うれしいしホッとしたし…本当に良かったなって。

自分を証明できたから、物語は面白くなる

作詞のあり方が変わったことで、9月7日にリリースするニューアルバム「アンサンブル・プレイ」の方向性も固まった。これまで実体験をベースに楽曲を作ってきた彼らだが、新作の縦軸となるのは"フィクション"だ。

DJ松永:本人の経験と言葉で書いてるから、どうしてもドキュメントの部分は入り混じるし、100%フィクションにはならないと思うんです。今までの作品と違うのは、物語が入ってくることですね。

DJ松永:ヒップホップ=ドキュメントみたいな風潮があるけど、そうじゃないヒップホップもありなんだと気付いて。がんじがらめになってた考えが解けたのが今回のアルバムです。​​

R-指定:ヒップホップの中で一番多いスタイルはドキュメントだけど、いろんなラッパーがストーリーテリングをやったり、他の人の話を歌ったりしていて。改めて考えてみると、"自分は何者か"を証明した人がドキュメント以外をやってるケースが多いんですよね。

R-指定:そういうラッパーが他の人の話をすると、またひとつ面白くて。今まで必死に自分たちを分かってもらおうと曲を書いてきて「俺といえば」「松永といえば」「Creepy Nutsといえばこういうやつら」っていうのは分かってもらえたかなっていう実感がある。だからこそ今、自分たちにやれることはこれなんじゃないかなって思いますね。

DJ松永:最初からフィクションを書こうって発想は出せなかったよね。いろいろ段階を経ないと。​

R-指定:うん。おかげで、初期の頃にサビだけ作ってた曲のデモ音源とかも、フィクションとして書けるようになったんですよね。

R-指定:当時は等身大で歌えた曲でも、「助演男優賞」「スポットライト」とリリースを重ねていくうちに「これは歌われへんな、あまりにも今の俺らと違うから」みたいな感じになっていったんですよ。逆にそれが「俺の話じゃないものとして」歌えるようになって。​

DJ松永:初期のデモ音源から作った曲がニューアルバムに入ってるよね。デモ見たら2014年とか15年とかのデータだったよ。

R-指定:やば!そんな前か。​

R-指定:当時は形にしきれなかったアイデアが「これ、逆に今書けるやん!」ってなったんですよね。

DJ松永:そうそう、フィクションを書けるタームに入ったからこそ、過ぎ去った自分のこともフィクションとして書けるっていう。面白いよね。

R-指定:うん、不思議。

楽曲制作を通して自らを見つめ直し、一段一段踏みしめながら階段を上り続けてきたCreepy Nutsの2人。その道の向かう先は"死"ではなく、輝かしい未来へとつながっていく。


Staff Credit

Text: 奥村小雪(LINE)

Photo: 大橋祐希

Movie: 二宮ユーキ

Edit: 前田将博(LINE)


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Written by

LINE NEWS編集部