かつての『ドラゴンボール』読者にこそ観てほしい、最高傑作『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』

これまで表現できなかった大迫力の戦闘シーンを3DCGで実現!

まさか『ドラゴンボール』でこんな素晴らしい映画が観られるとは。

これが2022年6月から劇場公開された『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』を観た正直な感想でした。そしてこうした感想は原作者である鳥山明氏も予想していたようで、完成作品を視聴した鳥山氏は「ひとことで言って、スゴいアニメ映画です!」「ドラゴンボールかあ…などと迷っている皆さんがいたら、ダマされたと思ってご覧になってください。」と本作にコメントを寄せています。

『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、筆者と同じように、かつては『ドラゴンボール』が好きだったけれども、もはやその新作に対して懐疑的なスタンスでいるにこそぜひ観てほしい映画作品です。

そんな方々のために、3つのポイントで本作の魅力を紹介しようと思います。

ポイント1:『ドラゴンボール』"本編" 以外の知識は必要なし

『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』ティザーポスター

©バード・スタジオ/集英社 ©「2022ドラゴンボール超」製作委員会

ひとことで『ドラゴンボール』と言っても、そこにはあらゆる『ドラゴンボール』が含まれる場合があります。原作漫画とそれをベースとしたTVアニメにはじまり、数々の劇場アニメやゲーム、TVシリーズ『ドラゴンボールGT』のようなパラレルワールド扱いの派生作品や、”正史”に組み込まれる後日談『ドラゴンボール超』などなど……。

ここで悩ましいのが『ドラゴンボール超』の扱い。『ドラゴンボール』本編における魔人ブウ編の決着後と、その10年後を描いた最終回。その間に起こった出来事を描いている『ドラゴンボール超』は、鳥山明氏が原案を務め、先述の通り『ドラゴンボール』正史に組み込まれる正当なシリーズ作品として扱われています。

さらに本作『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、タイトル通り『ドラゴンボール超』劇場版として制作されているため、『ドラゴンボール超』を”履修”した上で観るに越したことはありません。しかし、『ドラゴンボール超』アニメ版は現在131話におよび、漫画版は18巻まで刊行されているため、それらの制覇はなかなか大変。その上、「リアルタイムで鳥山明氏本人が連載していた『ドラゴンボール』本編までが正史」と考える方も少なくないでしょう。

ですが、本項の小見出しで触れている通り、本作を楽しむには『ドラゴンボール』本編の知識で十分。何人か『ドラゴンボール超』から新登場のキャラクターが現れるものの、話の本筋にはあまり関わらないため、無視しても問題ありません。

新登場のマゼンタは現レッドリボン軍の表向きの顔であるレッド製薬の社長

©バード・スタジオ/集英社 ©「2022ドラゴンボール超」製作委員会

というわけで、『ドラゴンボール』本編の魔人ブウ編までの流れをなんとなく把握できていれば大丈夫。要所要所でおさらい的なシーンも挿入されるので、映画に身を任せればすぐに『ドラゴンボール』の世界を思い出すはずです。

ポイント2:3DCGで更新する、日本的2Dアニメの未来

本作最大の特徴は、3DCGを中心に制作されたアニメーション作品であること。発表当時、3DCG作品であることについて多くの不安の声が聞かれましたが、蓋を開けてみればこれが大正解。慣れ親しんだ日本的なセルアニメ風の見た目(通称:セルルック)を維持しており、違和感はほとんどありません。

セルアニメ風の見た目で表現される『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』の世界

©バード・スタジオ/集英社 ©「2022ドラゴンボール超」製作委員会

そんな本作の監督を手掛けたのは、前作『ドラゴンボール超 ブロリー』3Dパートを担当した児玉徹郎氏。本作は3DCGと手書きの作画を組み合わせて使用しており、同氏はMANTANWEBのインタビューにて「CGのよさと、作画でしかできないことのいいところを寄せ集め」したと述べています。

これによって実現したのが、これまでの『ドラゴンボール』アニメ作品では実現できなかった迫力に満ちた戦闘シーン。縦横無尽に動き回るカメラワークと、格闘モーションの説得力は手書きでは現実的に再現不可能な領域です。

また、日常シーンにおいても3DCGの効果は抜群で「喋っているキャラクター以外は静止している」という2Dアニメあるあるを見事に回避。聞き手のリアクションも細やかに描かれ、その背景にいる人物たちも常に動き回っており、これまで原作漫画読者の脳内にしか存在しなかった“リアル”な『ドラゴンボール』ワールドがスクリーンに描かれています。この臨場感は、主人公たちの背景でもサブストーリーが展開されている『踊る大捜査線』をイメージしてもらえばわかりやすいかもしれません。

さらに、3DCGのメリットとして背景など素材の流用のしやすさが挙げられます。一度作ったキャラクターや背景は、今後の映画作品あるいはTVシリーズでも使うことができるはず。本作を観る限り、シーンどころかカットごとに表情などを細かく修正していることが推測されるので、手間がかかっているのは間違いないでしょう。いまだ叫ばれ続けるアニメ業界の過酷な労働環境を改善する一つの希望の光となるのではないかと期待されます。

表情がうかがえる本作での悟空のアップシーン

©バード・スタジオ/集英社 ©「2022ドラゴンボール超」製作委員会

日本のアニメの歴史を作ってきた東映アニメーションが制作したことも含め、本作がエポックメイキングな作品であることは確実。

『ドラゴンボール』と並んで週刊少年ジャンプ黄金期の立役者となった『SLAM DUNK』(井上雄彦)の新作映画『THE FIRST SLAM DUNK 』も東映アニメーション制作で今年12月に公開予定。同作も3DCG作品であることが予想されるため、2022年はアニメの新たな歴史の幕開けとなる1年になるかもしれません。

ポイント3:『ドラゴンボール』で『ドラゴンボール』を更新する物語

かつて『ドラゴンボール』に夢中になっていたけれども、大人になった今『ドラゴンボール』を評価していない。

……おそらく、そんな元『ドラゴンボール』ファンも少なくないのではないかと思います。

ポリティカルコレクトネスが世界基準のエンターテインメントにおける前提となった2022年において、『ドラゴンボール』は作品世界における価値観や倫理観があまりにぶっ飛びすぎています。なにしろ約30〜40年前の作品ですので無理もないのですが、むしろ当時からファン層の親世代からは「暴力的だ」という批判があった作品でもありました。“怒りによる覚醒”という作品の重要要素も、メンタルヘルス問題が顕在化している現代の価値観からすると、受け入れ難いものがあるかもしれません。

本作での戦闘シーン

©バード・スタジオ/集英社 ©「2022ドラゴンボール超」製作委員会

また『ドラゴンボール』は良くも悪くも、週刊少年マンガの典型を作った作品でもあります。掲載誌『週刊少年ジャンプ』のアンケートシステム(読者からの投票による人気ランキングで下位が続くと連載打ち切りになるシステム)に対応したテコ入れ、編集部からの度重なる連載引き伸ばし要請などにより、本作のストーリーラインにはご都合主義と捉えられる展開や設定も少なくありません。

そして何より、さっきまで最強だったライバルが次のフェーズで雑魚扱いになったり、何度も覚醒を繰り返したりする“強さのインフレ”は、『ドラゴンボール』の象徴であり少年漫画のクリシェとされ、本作の物語的評価を下げている大きな要因でもあります。

ですが、本作『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、それらの要素を払拭した現代版『ドラゴンボール』になっているのです!……なんて単純な話ではありません。

それは半分正解で、半分不正解。

本作は、ぶっ飛んだ価値観と倫理観、ご都合主義や強さのインフレを今一度『ドラゴンボール』の魅力として捉え、その上で現代に通用する物語として更新した作品です。

強さのインフレの中で見捨てられてきたキャラクターや技の数々に新たな角度から光を当て、過去の主要人物たちの子孫らが親世代と同じ失敗を繰り返しながらも最終的にそれを乗り越える展開。

かつて主人公になり損ねた孫悟飯と、その事実上の育ての親であるピッコロをW主役に配し、血縁や種族を超えた親子の絆を会話ではなくバトルの中で描く物語。

メインビジュアルにも登場する孫悟飯とピッコロ

©バード・スタジオ/集英社 ©「2022ドラゴンボール超」製作委員会

これこそ、まさしく“『ドラゴンボール』のアップグレード”ではないでしょうか。

ぜひ、本編を観てその内容を確かめてみてください。

最後となりますが、本作は2016年に集英社内に設置された『ドラゴンボール』専門部署「ドラゴンボール室」発足後に企画された初作品であり、新作も制作中とのこと。 今後の『ドラゴンボール』の展開に期待が高まります。


Written by

照沼健太