恋の暴走機関車がアラフィフに…『後ハッピーマニア』が描くリアルな人間模様

恋の暴走機関車・シゲカヨが帰ってきた!

惚れた男に前のめり、やばい相手にもガシガシ突っ込んでいく恋の暴走機関車・シゲタカヨコが帰ってきました。『ハッピー・マニア』のその後の物語を描いたのが、『後ハッピーマニア』です。

前作「ハッピー・マニア」時の主人公・シゲカヨ。理想の恋人を追い求めて突っ走っていた ©安野モヨコ/Cork

『ハッピー・マニア』当時20代だったシゲカヨの恋愛観は全然理解できなかったけれど。

恋愛市場から退き、45歳となった『後ハッピーマニア』のシゲカヨの行動はわかる部分もあるし、真面目でシゲカヨに一途だったはずのタカハシの浮気(むしろ本気)相手が本当にリアル。その他の夫婦事情も、生々しくて容赦ありません。

「続ハッピーマニア」では多くのキャラクターが既婚に。それぞれのパートナーとの課題をリアルに描いている 

©安野モヨコ/Cork

ある家庭では、不倫開始後、香水やメイクが変わっていく……という描写も。妻の趣味が突然変化し、「ブルベ夏なのに黄色いアイシャドウとかつけている」ことで「他の男ができたな?」と気がつく40代夫の解像度の高さ、すごすぎる。そして「ブルベ夏」とかパーソナルカラーの概念を完全に把握している夫にももちろん、若い愛人(それも8人!)がいるという……。

また別の家庭でも、普段きちんと靴を揃えたり、服をかけたりする夫の行動がだらしなくなったら、とことん尽くして甘やかす世話焼き系の愛人が出来たサイン……ってのもまたリアル。夫婦の地獄図鑑なのに、どこか笑える作品になっているのが、安野モヨコさんの凄さです。

シゲカヨの親友・フクちゃんは事業で成功を収めるも、夫が愛人によってだらしなく変わってしまう

©安野モヨコ/Cork

「男一瞬、ダチ一生!」も大人になるとなかなか難しい問題

読み進めていて、それぞれの夫婦関係に震えてしまったのですけれども。それ以上に「『男一瞬、ダチ一生!』ってプリクラ書いてたあの頃の感覚に戻りたい!」という気持ちが芽生えたのでした。

数々の男性とすったもんだしてきたシゲカヨ。「もはや、どの男性がどの順番で出てきたっけ……?」と、読者も混乱するくらいですが、最強の女友達フクちゃん(50)との関係性はずっと揺るがないんですよね。

1巻冒頭でタカハシ(夫)に突然離婚を切り出されたシゲカヨは、呆然として着のみ着のまま新幹線に乗り、大阪に住むフクちゃんの家を訪ねます。ショックなことがあったとはいえ、部屋着のままノーアポで大阪まで会いに行けるくらいの関係性の友達、います?私はいないです。少なくとも事前にLINEするし、いきなり押しかけるのは無理。フクちゃんがいるシゲカヨは崖っぷちのようでいて、実は素晴らしい人生なのでは。

シゲカヨはタカハシ(夫)を手放しても多分なんとか大丈夫。だけど、フクちゃんと仲違いしたらかなりしんどくなるのでは?シゲカヨ!フクちゃんは絶対に離さないで!

『後ハッピーマニア(1)』 (フィールコミックス)安野モヨコ

お互いにとって圧倒的おもしれー女だからこそ続く、シゲカヨとフクちゃんの関係性

フクちゃんとシゲカヨの関係性って、本当にすごい。ライフステージや収入、社会的責任や地位などが違っても若い頃と変わらないやりとりができるのって、もうそれ自体が素晴らしいことだと思うんです。

友情って、育むもの。塩漬けにはできないんだな。適切な水やり、ときには剪定も必要で、連絡頻度とかも人それぞれだから維持するのは難しい。もちろん、結婚・出産・仕事環境などが違っても仲良くなれるけど、経済感覚などが完全に異なる相手との友情維持は、お互いが気を遣わないと、かなり大変なんじゃないでしょうか。

オタクや趣味の仲間なら「推し」という強固な媒介があるので、私生活がどうであれ続きやすい。シゲカヨとフクちゃんはもともとはバンドの追っかけ仲間のようだけど、社会人になった「ハッピー・マニア」時点では、もはやオタク文脈での友達じゃないし……。

私がシゲカヨだったら、フクちゃんに気後れしちゃいそうなところがあるけど、全然遠慮しないでズケズケ行くのもすごい。そしてそのシゲカヨの図々しさが、孤独なフクちゃん(経営者なので弱音を吐きにくいうえに、夫と息子が愛人の家に入り浸っているハードモード!)の心の支えにもなっているという……。なんなんだ、この素敵なタッグは!

私自身、人付き合いにおいて「おもしろ(orやすらぎ)の等価交換しなきゃ」の気持ちが割と強くあります。「おもしれー女と仲良くしていけるように、自分自身がおもしれー女として生きていかねばな」と、日々前向きにどうにかやってきております。まさにシゲカヨは、フクちゃんにとって、手がかかる以上に「圧倒的おもしれー女」なんでしょう。

そして改めて驚くのが、フクちゃんの厳しさです。無印ハッピーマニアの時点では、シゲカヨに自分の職場を紹介してあげていたフクちゃん。しかしシゲカヨがスキルなし(しかも勤怠最悪)&ブランクありとなってからは、泣きつかれても、うちは仕事できない人雇う余裕ないからって、ビシッと断ってるんですよ。

親友とはいえ、シゲカヨを雇うことにはきっぱりNOを突きつけるあたり、年月を経た大人の関係を感じさせる

©安野モヨコ/Cork

恋愛の大事なシーンでも、ビシッと喝を入れてくれるし。なあなあにしたり甘やかしたりしないで友人やってけるの凄すぎるぜフクちゃん……。

キャラクターのリアルな美容事情にも注目

さてさて、『後ハッピーマニア』、各キャラクターの愛用コスメの描き込みが細かくて最高なんです。化粧品事業を立ち上げて大成功した経営者のフクちゃんの家には、洗面台にズラリとデパコスが並びます。

一方、テキトー崖っぷち専業主婦シゲカヨは無印良品の化粧水+ニベア、ユースキン、などを愛用しているようで、スキンケア事情も庶民的でリアル。キャラクターの経済状況や価値観の差がわかるネタが散りばめられています。 

シゲカヨの洗面台には庶民的なスキンケア製品がずらりと並んでいる ©安野モヨコ/Cork

というわけで、女友達との感想戦が止まりません。新巻が出るたびにLINEのやりとりが増え、友情維持にも効く『後ハッピーマニア』。ぜひご一読を。