伝説の編集者がぶっ飛びすぎ!!とにかく熱い回想マンガ『チャンピオンズ』

たぶんもうこんなデタラメな、マンガみたいな時代が来ることはないだろう…

『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』は2019年に創刊50年を迎えた秋田書店『週刊少年チャンピオン』の歴史を、歴代編集長を語り部にしながら振り返っていく回想マンガである。

創刊号の表紙が登場する『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』表紙

©️魚乃目三太(秋田書店)

1975年生まれの僕にとって、『少年チャンピオン』は、少年誌なのになぜか酒とタバコの匂いが漂うコミック誌だった。バブル前夜の80年代、『少年ジャンプ』が「友情・努力・勝利」全開の王道をひた走り、『少年サンデー』は、あだち充、高橋留美子を擁したラブコメ路線。そして『少年マガジン』はミスマガジンを中心にグラビアを押し出していく中、なんと『少年チャンピオン』では番長同士が殴り合いをしていたのだ。

ツッパリ高校生コンビの不良漫画『Let’s ダチ公』(原作:積木爆、作画:木村知夫)、本格的な極道漫画の『本気!』(立原あゆみ)、不良高校を舞台にした学園大河アクション『ドッ硬連』(松田一輝)・・・当時の連載タイトルを羅列しているだけでも男臭さにむせかえってきたが、それを創った男たちも熱かった。

『本気!』が表紙の号『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』より

©️魚乃目三太(秋田書店)

創刊は1969年。先行する少年画報社が出していた雑誌が『少年キング』だったので「『少年キング』がキング=王様だったら俺たちはチャンピオン=王者を目指すってのはどうだ?」と酒場で決まったらしい。創刊号の表紙が真空飛び膝蹴りのキックボクサー・沢村忠というのも、後に『少年チャンピオン』から板垣恵介による『グラップラー刃牙』が生み出されることを考えると興味深い。

後発の『チャンピオン』を発行部数トップに引き上げた伝説の編集者

本書で最大のキーパーソンとして描かれているのが、2代目編集長の壁村耐三氏である。

『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』より ©️魚乃目三太(秋田書店)

「ミスターチャンピオン」ともよばれ、後発であった『少年チャンピオン』を一気に発行部数トップに引き上げた伝説の編集者だ。『がきデカ』(山上たつひこ)、『マカロニほうれん荘』(鴨川つばめ)、『恐怖新聞』(つのだじろう)、『魔太郎が来る!!』(藤子不二雄A)という名作を立て続けに発掘・採用し、発行部数を一気に250万部まで押し上げたその剛腕は凄まじいが、残した伝説も凄まじい。その破天荒すぎるエピソードは、コンプライアンスという言葉が世の中に浸透する前の時代であることを加味しても私たちの斜め上を行く。

壁村氏の部下で秋田書店のヒットメーカーと言われた阿久津邦彦氏が担当した作品

『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』より ©️魚乃目三太(秋田書店)

部下が下手を打つと、殴る蹴るは当たり前。それどころか漫画家すら殴っていたそうな。あまりの原稿の遅さに腹を立て「マンガの神様」手塚治虫の頭を叩いたという話は伝説だ。その後、社長とともに謝罪にいったところ、以後、手塚氏は秋田書店の原稿を遅れることがなくなったらしい。

そして見た目も怖い。会社のデスクでウイスキーをストレートで吸飲。背広に袖を通さず、肩で風をきりながら歩く姿は組関係者以外のなにもんでもなく他社の編集者ですら恫喝する始末。

しかし、そのカリスマ性は類をみず「『セックスと殺し』以外なら何をやってもいい!」を掛け声に、さながら戦国武将のごとく部下を鼓舞。怒鳴る→飲む→怒鳴る→飲む→(たまに謝る)というムーブを繰り返した結果、『少年チャンピオン』は1977年には発行部数200万部を突破。後発でありながら、少年コミック誌ナンバーワンの座に躍り出るのであった。

壁村氏の剛腕スタイルには当然クレームも…

『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』より ©️魚乃目三太(秋田書店)

と、ここまでの話は出版業界では有名な話なので私も知っていた。

本書最大の読みどころは、1981年に壁村が体調不良を理由に編集長を退任。そこから徐々に『少年チャンピオン』の部数は低迷し、建て直しの最終カードとして1985年、壁村氏が再び5代目編集長として復帰する場面にある。

壁村&阿久津コンビの復帰、チャンピオン低迷を救う熱い展開

壁村氏の剛腕と実績は誰もが認める中、自身退任後の『少年チャンピオン』低迷の理由は若手漫画家など 「後進の育成不足」にあったことは壁村氏自身も自覚していたことであろう。

第一期・壁村編集長時代はほぼ「独裁」と言ってもいいくらい編集方針に口を挟ませなかった壁村氏が、第二期編集長時代になると、部下の感性を信じ、『少年チャンピオン』に新たな個性を肉付けしていくのであった。3代編集長の天才・阿久津邦彦が右腕として副編集長に加わる様は、まるで映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のような展開で胸が熱くなる。

かつての方針から大転換し号令をかける壁村氏

『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』より ©️魚乃目三太(秋田書店)

そして、本書の著者である魚乃目三太氏が描くコマ割りと、暖かなタッチがなんとも言えん感動を呼び起こす。

特に、世間から「もう古い」とか「使えない」と言われ始めた手塚治虫氏に、あえてチャンピオン本誌で復帰の舞台をこしらえ、手塚治虫氏・後期の名作『ブラック・ジャック』を生み出した壁村氏が、晩年の手塚氏と病室で語り合うシーンは泣けた!秋田書店の代表としてただ一人、病室への面会が許されたとのこと。詳しくはネタバレになるので是非、本書を読んでほしい。

おそらく本書の実際の当事者や漫画家からすれば「こんな良い話ばかりじゃなかった!」と文句も言いたくなることもあろうが、たぶんもうこんなデタラメな、マンガみたいな時代が来ることはないだろう。是非、この熱い夏にこそ読んでみてほしい!