なぜ12秒のAメロが大バズり? ぼっちぼろまる『おとせサンダー』から考える現代の音楽戦略

タイム・パフォーマンス時代のポップチューンに大切なもの

TikTokで話題となる邦楽は、サビの歌詞やメロディがキャッチーであることが多い。たとえば瑛人の『香水』やAdoの『うっせぇわ』、最近だと有華の『Partner』など。短く切り取られたサビをきっかけに話題となり、多くの人の心を掴む。

ところが最近、サビではなく、Aメロをきっかけに話題となっている楽曲がある。バーチャルYouTuber・ぼっちぼろまるの『おとせサンダー』だ。2022年6月末時点で、TikTokで公開されているAメロ動画は約19万いいねを記録、18万5千以上もの数の動画で楽曲が使われている。

『ビルボードジャパン』が2022年6月29日に公開したTikTok上の楽曲人気を測るチャート“TikTok Weekly Top 20”(集計期間:2022年6月20日~6月26日)によると、『おとせサンダー』は5週連続首位を記録。Aメロ前半12秒の歌詞に合わせて踊るダンスも生まれたことで、多くのTikTokerたちが楽曲を使用し、大きな話題となっている。

"12秒"でユーザーの「もっと聴きたい!」を生み出した

ご機嫌で心くすぐるギターリフ、夏に飲むサイダーのように爽やかで疾走感がたまらないメロディー、リズミカルで語感の良い歌詞。『おとせサンダー』には魅力的なポップチューンの良さが詰まっている。

TikTokやYouTubeなどで人気曲を生み出すぼっちぼろまろ ©︎ぼっちぼろまる

ただし今は、無駄なく効率的なコンテンツ消費を求める“タイパ(タイム・パフォーマンス)”の時代だ。魅力を知ってもらうためには、とっかかりの戦略が大事である。ただサビを切り出せばいいわけではない。

映画の予告編に複数のパターンがあるように、音楽もリリース前の切り出し方にパターンが生まれている。「もっと聴きたい」「もっと観たい」と思わせるような、入り口としての役割を担う要素が音楽においても重要な時代だ。

『おとせサンダー』が話題となった流れとしては、

  • 5月7日 TikTokでAメロ(前半の12秒)公開

  • 5月12日 ダンサー・振付師の中野亜紀さんのアカウントで振り付け動画公開

  • 5月13日 Aメロ後半からBメロ〜サビ公開

  • 5月25日 2番パート公開

  • 6月3日 配信リリース(フルコーラス初公開)

となっているが、実はAメロ公開よりも前の4月25日に、サビ前〜サビが公開されている。しかしこの動画は、いいねが1400しかついていない。

ところがAメロ(+ダンス)で話題になり、5月13日に公開された続き〜サビの動画は約22万いいねを獲得。同じ部分を公開しても、流れの作り方によって反応が大きく変わる。

音楽でこういったパターン実験をしている楽曲は『おとせサンダー』だけではないだろうし、ぼっちぼろまるだけでもないだろうが、少なくともTikTok文脈においてAメロで成功した事例はあまり見ない。

なぜ『おとせサンダー』はAメロが流行ったのか

では、なぜ『おとせサンダー』はAメロがとっかかりとして機能したのか。その理由のひとつとして、歌詞が挙げられる。

稲妻にうたれました

死にましたそして蘇りました

いたずらにその可憐さに

一撃必殺で燃やされてる

(ぼっちぼろまる『おとせサンダー』)

メロディーに乗せなくとも声に出して読めば、歌詞のリズム感の良さはわかるだろう。さらに特筆したいのが、「稲妻」「うたれました」「死にました」「蘇りました」「一撃必殺」といった言葉選びである。

TikTokでは、あらゆる人が楽曲に合わせた振付(ダンス)を考案する。踊りやすさや、かわいらしさ、みんなで踊る楽しさなど、観る人に刺さるポイントをうまく押さえることで人気が出て、多くの人が真似をし、ムーブメント化する。そのとき大事なのが、歌詞に登場する単語だ。

躍りやすさの鍵を握る要素のひとつがリズム感の良い歌詞だ:『おとせサンダー / ぼっちぼろまる (Music Video)』公式YouTubeより ©︎ぼっちぼろまる

中野亜紀さんの『おとせサンダー』振付動画は、稲妻を模したフィンガーダンスから始まり、稲妻に打たれたジェスチャーや、死んで蘇る流れがあり、最後は「一撃必殺」を彷彿とさせる銃を撃つようなジェスチャーで終わる(ちなみに、この振付を考案した中野亜紀さんは、TikTokで流行したいくつもの振付を生み出している)。

振付該当箇所はAメロ冒頭の12秒。Aメロはその約10秒のメロディーラインが2回ループする設計となっており、そもそも短く切り取りやすく作曲されている。

聴いてすぐ引き込まれるリズムと、歌詞の語感の良さがあり、楽曲として全体を通して素晴らしいのはもちろんのこと、ジェスチャーにしやすい単語が多く登場するため、結果として真似のしやすいダンスにつながった。以上の理由で非常に戦略的な楽曲だと感じる。

『おとせサンダー』を夏フェスで聴きたい

バーチャル空間だけでなくリアルのステージでも活躍するぼっちぼろまる ©︎ぼっちぼろまる

わずか12秒のAメロが、ダンスをきっかけに人々に聴かれ、話題となり、「もっと続きが聴きたい」という声に応えながら段階を踏んで、『おとせサンダー』は公開されていった。6月14日にはミュージックビデオが公開され、YouTubeでは1ヶ月で275万回以上再生されている。

これからもぼっちぼろまるがどのような実験をするのか観察し続けていきたいし、今年の夏はできることなら夏フェスで『おとせサンダー』を聴きたい。


Written by

鈴木梢