楽しさよりも、プレッシャーのほうが強かった…。声優・花澤香菜、"アーティスト"としての10年

「もともとは、自分の声の研究にも役立つかなって思って」。

アーティストデビューのきっかけをそう語るのは、「鬼滅の刃」の甘露寺蜜璃や「STEINS;GATE」の椎名まゆり、「PSYCHO-PASS サイコパス」の常守朱など、数々の人気キャラクターの声を務める声優の花澤香菜。

高い演技力はもちろんのこと、その甘くて澄んだ声は唯一無二で、ひとたび耳にすれば決して忘れることがない。

また花澤本人の可憐な容姿や飾らないキャラクター性も注目され、今やバラエティ番組にも引っ張りだこ。まさに人気と実力を兼ね備えたトップ声優のひとりだ。

そんな花澤が今年、音楽活動10周年を迎えていたことをご存知だろうか?

5月に行われた「HANAZAWA KANA Live 2022 "blossom"」東京公演(提供写真

これまでに15枚のシングル、6枚のフルアルバムをリリースしてきた彼女の音楽活動の変遷は、声優としての認知度と比べると、もしかするとあまり知られていないのかもしれない。

知れば知るほど沼にハマる、アーティストとしての花澤香菜の歴史を掘り下げていく。


「可愛すぎるー!!」花澤を世に知らしめた一曲

「〈物語〉シリーズ」の千石撫子として歌ったキャラクターソング「恋愛サーキュレーション」(2010年)は、当時、声優としてメキメキと頭角を現してきていた花澤の美声をいち早く世に知らしめることとなった曲だ。

「最初にこの楽曲をいただいた時には、『なんかセリフがいっぱいあるな』って(笑)。当時は私のなかにラップという概念もなかったので、セリフと歌の中間というイメージで歌いました。撫子ちゃんはあざとい一面があるので、そこは意識しましたね」

TVアニメ「化物語」のOPテーマの1曲であるこの曲は、中毒性の高いトラックと言葉遊び満載な歌詞で、瞬く間にアニメファンのあいだに浸透していった。

「恋愛サーキュレーション」ジャケット(提供写真)©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

それは花澤自身も予想だにしなかったことだという。

「すごく可愛らしい曲ですし、いつかイベントなどで歌えたらいいなとは思っていましたけど、ここまでの反響をいただけるとは思っていませんでした」

「ただ、オンエアを観た主人公・阿良々木暦役の神谷浩史さんから『可愛すぎるー!!』みたいなメールが来て(笑)。そんなリアクションをもらった経験はなかったので、単純に嬉しかったですね」

この現象は日本国内だけにとどまらず、TikTokなどのSNSの普及により海外にも波及していく。

なかでも中国での人気は凄まじく、その結果として2019年には自身初の海外公演として広州、上海の2カ所でライブを行うまでとなった。

「最初は『まさか』って思っていたんですが、実際に中国でステージに上がったら、すごい熱量なんですよ。みなさん日本語で歌詞を口ずさんでくれますし、喜びの感情をストレートに表現していて」

その熱狂は、謙虚な花澤ですら「あれ?私ってもしかして人気者なのかしら?」と思わせたほどだという 。さらに花澤は2018年と2019年の2年連続で中国の年越し特番に出演。中国での人気と知名度は今でも上昇中だ。

ちなみに、花澤香菜の「香菜」は中国語で読むと「シャンツァイ」で、その意味は「パクチー」。「あだ名として覚えてもらいやすいというのはあるのかも」と本人が語る通り、中国のTV番組ではパクチーを持って写真撮影が行われるなど、愛嬌たっぷりに愛されている。

今では花澤も中国語を習い始め、自らの楽曲を中国語バージョンでリリースするなど、中国との交流は深い。

中国語の勉強はゆるく続けているというが、その実力のほどは?

「……全然話せません(笑)。ごく簡単な日常会話ならなんとかっていうレベルです。それでも、中国語で歌を歌うということにはかなり慣れた気がします」


「私が歌う意味は…」アーティストとしての葛藤

「恋愛サーキュレーション」をはじめ、数々のキャラクターソングでアニメファンを虜にした花澤は、2012年に満を持して「星空☆ディスティネーション」でアーティストデビュー。

当時のレーベルはアニプレックスで、サウンドプロデューサーは北川勝利が務めた。

「『私の声を生かした音楽作りをしてみたい』という提案をいただいて、私自身も自分の声の研究に役立つかなと思って始めました。音楽活動をすることで、声優活動にも繋がると思ったんです」

「星空☆ディスティネーション」ジャケット(提供写真)©2012 Aniplex Inc.

最大の武器である甘くて澄んだ癒やし系ボイスを、音楽にどうマッチングさせるのか。それを模索するためのトライアルが始まった。

「最初に北川さんが色々な音楽ジャンルのデモ曲を用意してくださって、それを順番にレコーディングしました。そのうちに、私にはこういう曲調や歌い方がしっくりくるなというところが分かっていって」

「結果的に私の地声のいちばん美味しいところを生かして作ってくださったのが『星空☆ディスティネーション』なんです」

キャラクターではなく、花澤香菜本人として歌うことの難しさもあった。

「声優のお仕事というのは、自分なりの工夫や表現ももちろんありますけど、基本的にはスタッフさんが求めている芝居ありきで、そこに向かってアプローチをしていくんです」

それに対して、アーティストとしての花澤香菜とはどうあるべきなのか?

もちろんそこに正解はない。

「私が音楽を通じて表現したいことって何なのかだったり、そもそも私が歌う意味はどこにあるのかというところまで遡って考えていって。そこを見つけて定めていくのはけっこう難しかったですね」


「勝手にプレッシャーを…」"花澤香菜"として歌うことの難しさ

そんなこんなで始まったアーティスト活動も、今年で節目の10周年。

続けられた秘訣を聞くと、その答えは「周りのみなさんが協力してくださったからとしか言えません」と、実にシンプルかつ謙虚なものだった。

一方で「自分自身と向き合い、自問自答を続けた10年間」だったとも語る。

「アーティストとしてどうあるべきかというよりも、ひとりの人間としてどうありたいのかというのは、私にとって音楽活動をするうえでは欠かせない要素かもしれません」

花澤にとっての音楽活動は、プライベートに密接に関わっている。それだけに、自然体や等身大で音楽と向き合うことができるまでには、やや時間を要したという。

「作品やキャラクターの力を借りず、"花澤香菜"として何ができるんだろうという気持ちはいつもありました」

「最初のうちはすごく緊張しちゃって、とんでもないパフォーマンスをしないといけないんじゃないかと、勝手にプレッシャーを感じることもありました」

「25」ジャケット(提供写真)©2014 Aniplex Inc.

人前で歌う際も楽しさよりもプレッシャーのほうが強かったという。変化が訪れたのは、2ndアルバム「25」(2014年)の存在だ。

「『25』は私の25年間の思い出や気持ちを反映させたアルバムということもあり、初めてありのままの自分で歌っていいんだと思えたんです。そこからは、よりみなさんの前で歌うことが楽しくなっていきました」


「とにかく新しいことだらけ」迎えた大きな転換点

アニプレックスからSACRA MUSICへとレーベルが移り、サウンドプロデュースも北川勝利から佐橋佳幸へ。花澤の音楽活動にとって大きな転換点となる。

「佐橋さんはすごく顔が広くてフットワークが軽いんです。色々なところに連れていってもらいましたし、色々な人に会わせてくれました。私はずっと社会科見学に来た小学生みたいなテンションで(笑)」

「プレイヤーとしてもすごい方なので、ライブでは一緒に弾き語りをしたりと、とにかく新しいことだらけで刺激的でしたね」

特徴的な声質を最大限に活かした楽曲作りから、より自由で幅広い音楽ジャンルに挑戦したアルバム「ココベース」(2019年)を経て、花澤の表現力は大きく成長した。

同作には槇原敬之、水野良樹(いきものがかり)、山内総一郎(フジファブリック)、岡村靖幸、真島昌利(ザ・クロマニヨンズ / ましまろ)ら錚々たるミュージシャンが参加している。

「ココベース」ジャケット(提供写真)

「これまで私が聴いてきた音楽や好きなアーティストさんにオファーするというスタイルだったので、クセや特徴もよく知っていることも大きかったと思います」

「たしかに挑戦でしたけど、どうやって表現しようかと考えるのはワクワクしましたし、得たものは大きかったなと思います」


「自分の歌声が変わって来た」さらなる挑戦へ

2021年、所属レーベルをポニーキャニオンに移籍し、サウンドプロデューサーに再び北川勝利を迎えて再始動する。

「上京して一人暮らしを楽しんで、また実家に戻って来た感覚です(笑)」としながらも、そこにはたしかな自信も感じていた。

「2020年にミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』に出演したことで、また自分の歌声が変わって来たことを実感したんです。痒いところに手が届くようになってきたんですね」

「今の自分が北川さんとご一緒できたら、以前とはまた違うものになるんじゃないかと思ったんですよ」

ポニーキャニオンから移籍第一弾としてリリースされた14thシングル「Moonlight Magic」(2021年)は、まさに進化した歌声を感じられる一曲だ。

「『星空☆ディスティネーション』のキラキラ感を残しつつ、年齢なりの大人っぽさもあって。全体的にすごくパワーアップしていて、北川さんの気合いをヒシヒシと感じました」

「Moonlight Magic」ジャケット(提供写真)

「Moonlight Magic」の歌詞は花澤が担当。実は花澤は1stアルバムから作詞に挑戦しており、これまで15曲以上を手がけている。大人になるにつれて、その内容も変化しているという。

「歌詞は自分の体験をもとに自分が感じたことを書くことが多いです。とくに3rdアルバム『Blue Avenue』(2015年)以降は、なるべく今の私が感じていることを書くように意識しているので、自然と年齢感は上がってきているなと思います」

北川勝利プロデュースによる再出発は、6thアルバム「blossom」(2022年)を経てさらに熟成していく。

7月20日リリースの最新シングル「駆け引きはポーカーフェイス」は、TVアニメ『それでも歩は寄せてくる』のOPテーマに起用。意外なことにアニメのOPテーマを担当するのはこれが初めて。

「アニメのOPテーマに相応しい、明るく元気な曲って実はあまり歌ったことがなくて、レアなんです」

「アニメは高校の将棋部を舞台にしたラブコメ作品なんですけど、楽曲も高校生のキラキラした恋愛模様が始まるぞっていうワクワク感を感じる作品になっていて、表情も豊かに、コーラスも多めで挑みました。ぜひアニメともども楽しんでください」


「また武道館で…」アーティストとしての野望

7月には神戸で「HANAZAWA KANA Live 2022 "blossom"」、9月には東京で「HANAZAWA KANA Live 2022 "Pokerface"」という2つのライブが控えている。

5月に行われた「HANAZAWA KANA Live 2022 "blossom"」東京公演(提供写真)

「個人的に神戸でのライブは初めてなので楽しみです。『神戸屋』っていうくらいだから、神戸には美味しいパン屋さんがたくさんあると思うので(笑)、MCでのパンの話も楽しみにしていてください」

「9月のライブは Pokerfaceにかけて何かゲーム的な企画がしたいなって思っています。本当は足つぼとかしたいんですけど、ビジュアル的に映えなさそうで、悩み中です(笑)」

無類のパン好きで、かつバラエティやお笑いが大好きな花澤らしい、なんとも楽しそうなライブ展望だ。

「コロナ禍でなかなかライブができなかっただけに、今はライブができることが本当に幸せで、楽しくて仕方ないんです」

5月に行われた「HANAZAWA KANA Live 2022 "blossom"」東京公演(提供写真)

最後に、アーティストとしての今後の野望について聞いてみた。

「ゆくゆくはまた武道館でライブがしてみたいです。ただ30代になってから体質が変わってきたなと感じることも多くなって。これから先も長くお仕事をしていくためにも、意識的にお休みの日を挟んで、しっかりと体のケアはしていきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いします」


花澤香菜

7月20日に最新シングル「駆け引きはポーカーフェイス」をリリース。

7月30日には、4月に行う予定だった「HANAZAWA KANA Live 2022 "blossom"」神戸公演の振替公演を開催予定で、本公演は生配信も決定。9月10日には、東京・中野で「HANAZAWA KANA Live 2022 "Pokerface"」を控えている。

詳しくは公式サイトまで。

https://hanazawa-kana.com/


Staff Credit

Text:岡本大介

Photo:飯本貴子

Movie:江草直人

Edit:前田将博(LINE)、橋本嵩広(LINE)


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Written by

LINE NEWS編集部