もはや他人事ではない?ネットの誹謗中傷トラブル描く『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』

そのエンターキーを押す前に、一度深呼吸するのがオススメです。

「カタカタカタ・・・ッターン!」

一時の気の迷いで、あるいは積年の恨みを込めて、誰かへの非難をSNSに投稿した経験はあるだろうか。実名、匿名関係なく、そうした行為には常にリスクが伴う。ネットには様々な、「あなた」を特定するための情報が残されているからだ。

筆者も長らくインターネットサービスにかかわっているが、こうしたインターネットの仕組みを意識して利用しているユーザーは少ない。そんな現実を教えてくれるのが、漫画『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(原作:左藤真通、作画:富士屋カツヒト、監修:清水陽平)だ。

『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(1) ©️左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

ネット炎上、SNSでの誹謗中傷…もはや「他人事ではない」テーマ設定

物語は、ブログのコメント欄やSNSで誹謗中傷が寄せられた主婦ブロガー・桐原こずえのモノローグから始まる。いわれのない中傷に心をすり減らし、トラブル解決のために弁護士への相談を試みるのだ。

ネットでの中傷に思わず涙を流す依頼人の桐原こずえ ©️左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

SNSなどをはじめとしたユーザー投稿型のWebサービスが人気を博し、誰もが発信者となっている現代社会において、毎日のようにこうしたトラブルが起きている。だが、中傷されても泣き寝入りというケースが圧倒的多数だろう。この作品はそうしたトラブルへの処方箋(または予防薬)としても役立つかもしれない。

主人公の保田理は「他人事」をモットーとする弁護士。その一方で、依頼主が強い意志を持って問題解決に当たるのであれば、とことん「勝利」に向けて尽力する人物でもある。彼の下に、様々な依頼が舞い込むというのが、本作の主なストーリーだ。

普段は飄々としているが、依頼人が覚悟を決めれば誠実に対応する主人公の弁護士・保田理 ©️左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

こと法的リスクについて理解の薄い本邦ではあるが、ネット炎上、SNSでの誹謗中傷といったテーマを作品の主たる要素として取り込んだことで、読者にとって「他人事」ではない作品となっているのも、皮肉が効いていて面白い。

情報開示請求で発信者の身元は丸裸に?

主人公が主に使うのは、情報開示請求という手段だ。発信者情報開示請求ともいうが、サービス提供事業者に発信者情報を開示させ、その後ISP(インターネットサービスプロパイダ)を経由して誹謗中傷を行った個人を特定する方法となる。

最初の一手となるのが情報開示請求だ ©️左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

あいだにいくつかの事業者を経由することもあるが、きっちりとプロセスを踏めば、発信者(または契約者)の住所、氏名、メールアドレスなどを含んだ個人情報を手に入れられるというわけだ。

こうなってしまえば、あとは内容証明郵便→民事(刑事)裁判といった手法で、本人を公の場に引っ張り出すことができる。匿名で書き込んだつもりでも、弁護士が相手となれば、特定される可能性が高いと思っておいたほうがいいだろう。

ちょっとしたストレス発散のつもりが、手痛いお仕置きを受けることも

物語上、あっさりと敵役が反省するかと言えばそうでもなく、そこから更にトラブル処理は続く。なんせ、誰かに対する誹謗中傷をネットで行うような精神状態は、健やかとは言いがたい。「自分は悪くない」「みんなそう言ってる」そうした気持ちが安易な誹謗中傷をおこなわせるのは、説明するまでもないだろう。

©️左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

本作の中でも、誹謗中傷を行った加害者は、被害者を目の前に謝罪する場面ですらため息を吐き、「子育てが…」「ストレスが…」といった言葉を並べる。こうした状況を見て、読者はどのような感想を持つだろうか。

©️左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

本作はあくまでフィクションの世界ではあるが、「悪いのは自分だ」と認知できない加害者は、責任を誰かに求めるものだ。案の定、慰謝料の支払いを渋る加害者に対して、保田は「あと5〜10万 追加でいけますか?お仕置きできますよ」と持ちかける。果たして、その「お仕置き」とは———続きはぜひコミックで読んで欲しい。

手痛いお仕置きはぜひ本編で読んで欲しい。©️左藤真通・富士屋カツヒト・清水陽平/白泉社

ネットでの誹謗中傷が社会問題として取り上げられることも増えた昨今、この作品は誹謗中傷をする/されるリスクを提示するとともに、人はなぜ誹謗中傷をしてしまうのかという問いも投げかける。現代社会が抱える問題を、ある面では戯画化し、ある面ではするどく風刺する本作は、一読に値する。

何かにムシャクシャしているあなた、SNSで成功している誰かを妬ましく思ってしまったあなた。いままさに誰かを非難しそうになっているあなた。エンターキーを押す前に、ぜひ、この作品を読んでみてはいかがだろうか。


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