時代はいまフォークロック! たけとんぼの懐かしくて新しいファーストアルバムを聴こう

シティポップの時代にウェストコーストから届いた紙飛行機

冒頭、期待を煽る長いイントロからドラムスティックのカウントを挟み、軽快なフォークロック『紙飛行機』へと雪崩れ込む。繊細なコーラスワークが、雨上がりの青空へと放たれた紙飛行機を運んでいく。昭和からやってきたような風貌の二人は、まだ20代。しばし時を見失うが、たしかに未来を目指す先端はいまここに辿りついたところ。

ギター&ヴォーカルの平松稜大とドラムス&ヴォーカルのきむらさとし。たけとんぼは二人組のフォークロックユニットである。

CS&N(クロスビー、スティルス&ナッシュ)のライブ会場のフロアで、観客が中年ファンばかりのなか、数少ない若者たちが出会って結成されたバンド、という触れ込みもある(いま私が触れ込んだ)。もっとも、このときのメンバーで残っているのは平松のみ。その後、幾度かのメンバーチェンジを経て、2017年より平松ときむらの二人組となった。

オールドタイムなルックスの二人はまだ20代

私が初めてたけとんぼを見たのは、2019年夏のこと。関西のフォークシーンでなにかが蠢いていることを直観した私は、そのショウケース的役割を果たしていたイベント「NEVER SLEEP」の東京版が開催されることを知り、下北沢HALFというライブスペースに足を運んだ。

フロアには30人ほど入っていたが、おそらく純粋な客は十数名ほどで、残りはみなライブに出演するミュージシャンたちだった。とりわけテンション高くおしゃべりな客がいると思ったら、それがたけとんぼのきむらだった。なにより平松も、きむらも、この日、他のミュージシャンのサポートに入りまくっており、ステージと客席を何度も行き来するものだから、ほとんど彼らのホームパーティにお邪魔したような感覚すらあった。たけとんぼとしても、二人で弾き語りを披露したが、その時点ではまだそれほど強い印象を持たなかった。

その後、「NEVER SLEEP」周辺のミュージシャンのライブに足を運ぶたびに、いちやなぎのライブに行けば平松が――、ぎがもえかのライブに行けばきむらが――、といった具合で、サポートに引っ張りだこの彼らを観ることになる。アコギで悠々とソロをとる平松、タイトなリズムをパワフルに刻むきむら、それぞれの演奏に徐々に魅了されていく。

パワフルなライブでたけとんぼの魅力に開眼

2021年春、再び「NEVER SLEEP」でたけとんぼのライブを観た。会場は下北沢SHELTER。ベースに映像クリエイターでもある葛飾出身を迎えたトリオ編成だ。ここでただしく、たけとんぼショックに遭う。たけとんぼは力強いライブバンドでもあった。日本語ロック黎明期のオーディエンスもこのような衝撃を受けたかもしれない、といったら言い過ぎだろうか。あのいくつかのひらがな表記バンド名を挙げてみたくなるほど、当たり前が当たり前でないフォークロックだった。

ロックバンドの魅力溢れるステージング(筆者撮影)

懐古趣味ではない。90年代のサニーデイ・サービスがそうであったように、時空を超えて若者の普遍へとダイブするのだ。その音が体現するのは、いまであり、明日であり、これからくる未来だ。たけとんぼのファーストアルバム『たけとんぼ』が、曽我部恵一主宰のROSE RECORDSからリリースされたことに、ある種の必然を感じる。

色褪せないフォークロックの魅力が詰まった名盤

これまでライブや自主音源、コンピなどで聴かれた現時点での代表曲が、新たなるレコーディングのもと収録されている。サポートで参加したのは、ヒロヒサカトー(井乃頭蓄音団)、谷口雄(ex.森は生きている)、菊地芳将(いーはとーゔ)、和泉眞生、Jin Nakaoka、葛飾出身。いずれも気心の知れた腕っこきたちだ。

レコーディングに臨むたけとんぼの2人 ©️西邑匡弘

さっちゃんこと安延沙希子の手による『風と首飾り』や、解散した盟友バンド・バレーボウイズに寄せた『VBに捧ぐ』といった曲からは、在りし日のローレル・キャニオンの交歓が聞こえてくるかのようだ。

ご存じのように、近年も、例えばはっぴいえんどフレーバーを感じさせる人気バンドはいくつかあるが、たけとんぼに感じるのは、かぐや姫〜風(つまりは伊勢正三)やガロなどの匂いだ。日本的抒情が、西海岸の陽射しにさらされている。ウェストコースト・ロックを代表するポコやアメリカ、イーグルスなどの名盤を思い出してもいいかもしれない。抜けのよいコード感が、「青空」や「次の季節」を待っている。「今夜町を出よう」と永遠の若者が語りかける。

すでにバンドアンセムとも言える『恋をするなら』『春はまだか』といった曲では、平松の歌謡曲的センスがいかんなく発揮されており、いつヒットしてもおかしくない。きむらが歌う『花工場』もCSN&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)のアルバム『デジャ・ヴ』収録の『Our House』といった趣きで、いいアクセントとなっている。それにまさしくCS&Nのごとく、たけとんぼも、全員がシンガーソングライターであり、自作曲でヴォーカルをとるバンドが理想だと平松は考えているようだ。

……と言っているそばから、きむらさとしの脱退が発表された。けして暗いニュースではない。以前からファーストアルバムのリリースできむらが卒業することを決めていたという。たけとんぼだけに予想のつかない飛び方をする。二人の絶品なコーラスワークが聴けなくなるのは残念だが、まずは名盤が一枚。さあ、これからが楽しみだ。


Written by

九龍ジョー