プリミティブなギャグだけで30年。漫☆画太郎の偉大さ

伝統芸、ここに極まれり!

2018年から、毎年夏になると、世田谷パブリックシアターで『お話の森』という絵本の読み聞かせイベントをやっています。馬喰町バンドの演奏に合わせて僕が絵本を選んで、読む。昨年はコロナの影響で中止になってしまいましたが、今年は7月31日に開催しました。

それで、今年はどの本にしようかな〜と思って本屋さんに探しに行ったところ、見つけました。タイトルは『おきなかぶ~』。作者の名前はガタロー☆マン。そう、あの『珍遊記〜太郎とゆかいな仲間たち〜』などでおなじみの漫☆画太郎先生が、絵本を出していたんです。

©Gatarō☆Man

『おきなかぶ~』は、有名なロシアの昔話『おおきなかぶ』の漫☆画太郎先生バージョン。ほかにも、日本昔話でおなじみの『ももたろう』や、ウクライナの民話『てぶくろ』をテーマにした『てぶ~くろ』もあります。お話の内容はそのままに、画太郎先生の画風で、子ども向けの絵本にしているんです。ついにここまで来たか、と。

©Gatarō☆Man

この絵本シリーズはフルカラーで、そこがいいんですよね。あの独特すぎる線は、モノクロだからこそ魅力的だと思っていましたが、フルカラーもいい。漫☆画太郎をフルカラーで楽しむというのは、新しい発見ですよ。

パロディでこそ真価を発揮するオリジナリティ

画太郎先生はこの絵本シリーズの前にも、サン・テグジュペリの『星の王子さま』や、漫F画太郎名義でドストエフスキーの『罪と罰』を漫画化しています。

『星の王子さま』4巻表紙 ©️漫☆画太郎/集英社

​もはや内容がどんなストーリーでも、あの漫☆画太郎の画風に染めてしまえば、何でもいけちゃうってことに気づいたんでしょうね。あの画力や暴力表現によって、いくらでもオリジナリティは出せるっていう。むしろ、よく知られた作品を元ネタにして、それをパロディにするほうが、あの画風には合っているのかもしれません。そもそも長編デビュー作の『珍遊記』も、元ネタは『西遊記』ですし。

ページ丸ごとコピーが許される漫画家

画太郎先生の作風の特徴としては、漫画の外側を描いたメタ構造だったり、不条理というより、暴力的な血とかうんことかおならとか、非常にプリミティブなギャグです。『珍遊記』にはじまり、『まんゆうき 〜ばばあとあわれなげぼくたち〜』や『地獄甲子園』、雑誌『Quick Japan』に連載していた短編集『まんカス』など、いろいろ読んできましたが、すべてに通底しています。​

自宅のギャグ漫画本棚

僕が好きなのは、絶対に画太郎先生にしか描けない、あの線。だって、震えてるんですよ。線が頼りない。系譜としては、日野日出志先生や楳図かずお先生の絵の影響もありそうです。線の1本1本に一切のアシスタントワークが感じられない。アシスタントには描けない線だけで漫画を描き続けている、偉大な漫画家ですね。

ちょっとすごいことになってるぞって改めて思ったのは、『週刊少年チャンピオン』で連載していた、ピエール瀧さんが原作の『樹海少年ZOO1』。この漫画は、獣一という主人公の少年が秘密結社と戦っていくという大筋のストーリーは一応あるのですが、途中でそれまでのストーリーを全部なかったことにして、いきなり最初に戻ったりします。もう話の構造がめちゃくちゃ。

あとは、ひたすらコピーの多用。アニメや特撮で使われている、いわゆる「バンクシステム」ですね。コマをフルコピーするのは当たり前で、ページ丸ごとコピーしてセリフだけ変える。​こんなことが商業誌で許されるのは、漫☆画太郎先生だけです。

『星の王子さま』1巻より ©️漫☆画太郎/集英社

​こういうトリッキーな手法は、今思えば、ショートコントの技法なんですよね。”かぶせ”と”天丼”。なので、画太郎先生はお笑い好きだと思いますよ。芸人も画太郎先生のこと好きですし。それと画太郎先生は、トキワ荘に住んでいたレジェンド漫画家の先生たちや、往年の漫画のことが大好きなんだと思います。あんなにお下劣なことばかり描いているのに、根底にはちゃんと藤子不二雄A先生の『まんが道』や『魔太郎がくる!!』へのリスペクトが感じられます。そもそも名前が漫画太郎ですから。​

個性を漫画で表現するための絵

正直、最初に画太郎先生の絵を見たときは、下手なのかなって思いました。でも、やっぱり上手なんです。いや、上手というより、うまい。たとえば『進撃の巨人』の1巻を読むと、多くの人が絵下手だなーって思うでしょうが、結局あの絵がクセになるわけですよね。

なので、単純なデッサン力とか、絵の上手さではない、その作家の個性を漫画で表現するための絵というのがあって、その絵をちゃんと描けるってことが「うまい」ってことなんだと思います。描いているのは絵であって、字じゃないんだっていう。

画太郎先生の漫画は、どんなキャラクターも常に鼻水出てるし、よだれ垂らしてるし、うんこもちんこも出してる。それ以外の表現がありえない。ばばあとかじじいも同じ造形で、作品が違っても同じキャラクターが登場する。手塚治虫の「手塚スターシステム」に通じるところがあります。そういう意味で、漫☆画太郎先生は、最高にうまい漫画家です。

『星の王子さま』3巻より ©️漫☆画太郎/集英社

30年もじじいとばばあを描き続けてきたことを考えると、昔話シリーズは理にかなっていますよね。

破壊衝動とパンク精神

絵柄以外の特徴としては、最後がだいたい破滅的。それまで積み上げた物語を一気にぶち壊しちゃう。永井豪先生の『ハレンチ学園』や『デビルマン』に通じる破壊衝動。パンク精神を感じますね。

若い頃は続きがもっと読みたくて、「なんで途中で全部ぶっ壊しちゃうんだよ」とか思っていましたが、30年以上も画太郎先生が徹底してこの作家性を突き詰めていることがわかった今となっては、かっこいいな〜と思います。乳首とおならと血と暴力だけで30年以上も漫画を描き続けるなんて、最高にどうかしてますよ。もはや伝統芸。ここに極まれり。