愛を求めている間は幸せになれない。映画『コープスブライド』と懺悔

愛されたい?それとも愛したい?

『愛されるよりも 愛したい真剣(マジ)で』と歌ったのはKinKi Kidsだけど、この歌を口ずさむたびに思っていた。

え〜? そう? 愛するよりも、愛されたくない? 真剣(マジ)で。

幸せな恋愛・幸せな結婚って、めちゃくちゃに想われて、とんでもないくらいに愛され尽くされ、それこそお姫様みたいにチヤホヤされて死ぬまで暮らすやつじゃないの?それがいちばん、最高じゃない?って。……。私、愚かですかね?みんなそんな風に思ったことはないんですか?

愛の亡者と化し、恋人を振り回した過去を懺悔……

とにかく、そんな理想を描いていた学生時代の私は、愛を貪りまくる愛の亡者となった。

愛されたい、愛されたい、といつも思っていて、恋人ができれば必要以上に愛を求め(いや、強要し)、愛を証明させようと無理難題を突き付けたり、わずかでも自分への愛を疑うようなことがあれば不機嫌になったりと、情緒は完全に不安定。どんな流れだったかさっぱり忘れてしまったけど「明日の朝起きたとき、花束が欲しい。私が起きるまでに買ってきて」って言ったことがあるんですけどね、過去に戻って、頭をボコボコに叩きたいし、いにしえの恋人にはいまさら金一封でも送りたい。

恋愛において必要以上に愛されたがる人は、自己肯定感が低い……なんていう話もあるけど、私の場合、それにはあまり当てはまらない。ありがたいことに親からは愛されまくって生きてきた実感があるし、何を選んでも否定されずに応援してもらって、自分の存在と生き方をしっかりたっぷり肯定されてきた。それなのに、どうして悲しき愛の亡者になってしまったのか……?

たぶん、親からみっちりどっしり愛してもらった時期が終わって、東京で無数の人の中に放り込まれたとき、自分は大事にされるべき人間だという実感が急激に薄れたんだろうと思う。ねえ、私って大事にされるべき人間だよね? だってお父さんもお母さんもおばあちゃんもおじいちゃんも私を大事にしてくれたよ? なのにどうして、あなたはそうしてくれないの? ねえ私を愛してよ!! って感じで。

本来、自分を愛する姿勢は決して悪いものではないんだけど、まだまだ若かった私は「それと同時に、目の前にいる相手も、大事にされるべき人間である」という当たり前のことへの意識が薄れ、愛してくれ愛してくれと喚き散らすくせに、自分は誰かを愛そうとしなかった。欲しがるばかりで、与えない。ああ未熟な私。

で、その後は「私は、愛されてしかるべき人間だ」というバカでかい自己愛から一転、「自分なんて大した人間じゃない」という逆振りを経て、徐々に気持ちが安定してきたのだけど……、いま、夫と出会い、結婚して、犬を愛し、子を愛していると、すこしずつ愛の正体とやらが見えるような気がしてくる。KinKi Kidsは正しかったってことだ。「愛されるよりも、愛したい真剣(マジ)で」である。

たぶん、愛されるよりも、愛しているときのほうが、満たされる。不思議なもので、愛は渡せば渡すほど心にあたたかさが溜まっていく、物理の世界からはかけ離れた性質を持っているんじゃないか、と私は思うのだ。

結婚に憧れる死者と婚約 映画『コープスブライド』のラストに心を掴まれた

さて。

そんな風にまだまだ愛を学んでいる途中の私だけども、それでも昔よりも今のほうがずっとずっと「ラスト」に心を掴まれるようになった映画がある。

それが、『ティム・バートンのコープスブライド』

『ティム・バートンのコープスブライド』©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』『チャーリーとチョコレート工場』『シザーハンズ』など、異形へ並々ならぬ愛情を注いでいる奇才ティムバートン監督による作品で、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』同様に全編ストップモーションアニメ(!)で撮影された本作は、すこしだけ不気味な人形たちと、ダークな世界観が特徴的。

お話のあらすじは、強烈。

現実世界に息苦しさを感じている主人公が、死者である花嫁と“誤って” 結婚してしまう……というもの。

なよなよ主人公の声は、ジョニーデップが演じている。なよなよしすぎて腹立たしくなるが、ティムバートン監督の映画にはよく出てくるタイプの男なのよね…。 ©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

金持ち夫婦の息子である主人公のヴィクター・ヴァン・ドートは、親が決めた結婚相手ヴィクトリアとの式を執り行うべく予行演習をしているが、大失態の連続。何度繰り返しても、誓いの儀式が、うまく行かない。失意の中、森をさまよい、奥へ奥へ……。誓いの言葉の練習を繰り返しおこない、木の枝を指に見立てて、結婚指輪をはめると……。なんとそれが、地面に埋まって白骨化した死体の指だったのである。

花嫁の死体が地面から飛び出し、こう返答をする。

「お受けします」。

死体の花嫁の声は、ティムバートンの奥さんでもあるヘレナ・ボナム・カーターが担当。©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

この花嫁の名は、エミリー。顔は腐って穴が空いているし、白骨化が進んでいるし、目ん玉は飛び出て虫が出てくるしで、非常に不気味なんだけど、開始数分後には彼女のことが好きになってしまうようなチャーミングさがある。無邪気で、純粋で、心に忠実で伸びやか。

そして、結婚に対する強い強い憧れがあるーー。

じつは彼女、恋に落ちた相手と結婚するべく駆け落ちをしたが、そこで相手(実は詐欺師!)に殺されて、結婚への夢が途絶えたという過去を持つのだった(切ない)。

と、そこからヴィクターは死者の世界に連れていかれるのだけど……、非常に印象的なのが、生者がいる現実世界よりも死者の世界のほうが、色彩にあふれてユニークでポップな世界だということ。死者たちは全員不気味でグロテスクではあるものの、みんな人生(?)を、とびきり謳歌している。

生者の世界が、ほぼモノクロな色味なのに対し、死者の世界のこの鮮やかさ。しがらみから離れて、楽しんで暮らしている様子が描かれるのが印象的。©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

この結婚はアクシデントの結果であると説明するも、死んだ花嫁のエミリーは「でも誓ってくれたじゃない」と、結婚を諦めない。ちょっと奇妙なほどに、聞く耳を持たない。しかし、現実世界にも婚約者であるヴィクトリアが待っており……、二人の花嫁に挟まれて、ナヨナヨofナヨナヨボーイの主人公は翻弄されるのであった。……というお話。

この三角関係はどうなるのか、死んだ花嫁と、生きた主人公の結婚は成立するのか?と、物語は進んでいく。

(※この先は一部ネタバレを含みます)

不気味な仲間たちは、三角関係にある生者の花嫁について「あの子の取り柄は生きてることだけ。あなたの方が性格もいいし、ピアノだって、ダンスだって上手」とはげましてくれるが、エミリーは「それでも、あの子は生きている」と一蹴。どれだけ死者の世界が楽しくてポップでも、やはり、息をしている(生きている=未来がある)ということには代え難いらしい。©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ずっと、結婚したかったエミリー。駆け落ちした夜に、花嫁衣装のまま殺されたエミリー。アクシデントとは言え、やっと結婚の夢を果たしたエミリー。ヴィクターとも心を通わせ、なんとか結婚生活を営むことだってできそう……。

それでもエミリーはヴィクターとの結婚を自ら諦めるのだった……(ラストシーンは、ぜひ作品を見ていただきたい……!)

愛されることよりも、人を愛することのほうが、ずっと満たされる

©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

そんなエミリーを見て、「いい子すぎるのでは?」「身を引くなんて切なすぎるのでは!?」と思っていた、昔の私。こんなにも切ない選択をしたにも関わらずエミリーは、なぜあんなに満足そうな顔をしていたのか? なんかラストだけしっくり来ないんだよなぁ、潔すぎるよ〜と思っていた、私。でも、いまならわかる。

そう、愛されることよりも、人を愛することのほうが、ずっと満たされるんだよね。

このお話は、自分の夢に囚われて、それを叶えることこそが自分の幸せなのだと思っていたエミリーが、愛する人を見つけて心が満ち、自由になるお話。心の穴を埋めるのは夢であった「結婚」ではなくて、「愛を知ること」だったわけです。そもそも、婚約者だった詐欺師のことも、エミリーは多分愛していなかったんだろう。結婚したい、その気持ちだけで突き進んだ。その彼女が、やっと、愛を知った。そのとき、自分はすでに死んでいたのだけど。

泣ける。身を引く形となり、自分の夢を手放すことになったわけだけど、エミリーは悲しくはなかっただろう。愛することができる人に出会えることも、奇跡のひとつだから。

一方、ナヨナヨボーイことヴィクターが、紆余曲折ありつつも(そして出来事に流される形ではありつつも)色味のない世界に戻っていく決断も良い。

愛してくれる、自分を必要としてくれる、誰かのためになれる場所に属することも大事だけど、自分が心から愛せる人がいる場所が、自分のいるべき場所。たとえそれが陰鬱な世界であっても、ともに生きる人がいる。それ以上に大切なことはないと思い知らされるのだった。

いい話だ!

©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

交錯しない愛。

悲劇に見える愛。

でも、それでも、満たされている。

愛の乞食マンである過去の私には、この物語の真髄はわからなかった。愛されたら幸せになれるなんて、そんな簡単なもんじゃないのよ。過去の私よ。KinKi Kidsを聴いて、エミリーを見て、懺悔しなさい。

『ティム・バートンのコープス ブライド』

ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)

発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

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