コロナに苦しんだ2年前  ROTH BART BARON『極彩| IGL(S)』が人生を変えてくれた

たんぽぽ・白鳥久美子の背中を押した一曲

ずっと、「自分の人生に影響を与えた一曲は?」という質問をされても「曲ごときで自分の人生変わるものかい。」と思っているような人間でした。

ところが、あの日確かに、私の中の何かが変わりました。

それは新型コロナウイルスが蔓延しはじめた2年前のこと。恐ろしい未知の感染症が自分たちの間近に迫ってきているという恐怖心から、日本中があらゆることに疑心暗鬼になっているような空気を感じていました。そんな時に、私はコロナウイルスに感染します。

著者近影

コロナで弱った心と身体に追い打ちをかけた“コロナ差別”

今でこそ、芸能人の誰かが感染してもそこまで大きく報じられることはありませんが、当時は、とにかくテレビなどでデカデカと取り上げられました。新型コロナについてまだまだ分からないことが多かったので、当事者の私から情報を仕入れようという空気もあり、私はどんどんメンタルがやられていきました。

相方や関係者の方々に迷惑をかけてしまっている心苦しさから、私は自分を責めました。さらに、マンションの住人からの嫌がらせもあって、いわゆるコロナ差別というやつが、弱っている心と身体に追い討ちをかけてきました。

今までは優しかった人が、コロナの恐怖ゆえに私へ投げかけてくる言葉の数々は、なかなか恐ろしいものがありました。戦争が始まる前ってこんなだったのかなぁ。そんな想像をしたりして。

そこから私は外からの情報をできるだけ遮断しました。テレビを消して、ネットニュースもSNSもチェックするのをやめました。ただ、ラジオだけは聴くようにしていたのです。そうしていると、気持ちが楽になりました。しかしそれと同時に、全てを失ってしまったような焦燥感にも駆られるようになりました。

この先、私はどうやって生きたらいいのだろう?

そんなとき、ラジオから流れてきた曲が、バンド・ROTH BART BARONの『彩| IGL(S)』だったのです。恥ずかしながら、その時初めて知った

アーティストでした。

ROTH BART BARON

『極彩| IGL(S)』の強いメッセージに思わず聴き入る

イントロが私の不安と同調していくように進んでいきました。不穏な響きにも聴こえる音の中を、真っ直ぐに進むリズムがあります。前に前に、進んで行く何か。私はそれに引っ張られるように耳を澄ませました。そして歌が始まりました。

「君の物語を 絶やすな 絶やすな」————冒頭から繰り返されるメッセージ。なんて力強さなんでしょう。

歌は「巨大なビル街を 歩いてゆけ 歩いてゆけ」と続きます。そんな所で心と身体を縮こませていないで、恐れすらもさらけ出して、新しい何かを産み出してごらん。私には、そんなふうに聴こえてきたのです。

やめるなよ。

進めよ。

自分で可能性を産み出せよ。

できるよ。

そう言われているようでした。命令調で投げかけられる言葉は、聴き手であるこちらの存在を信じてくれているからこその、強い言葉なんじゃないでしょうか? 

コロナに感染して、優しい言葉にすら疑心暗鬼になっていた私の背中を、何度も何度も叩いてくれているようでした。コロナ禍で、世界がどうなるか分からない現状がありました。価値観は以前とはすっかり変わってしまいました。

そんな中、つい分かりやすく手に取りやすいもの、例えばネットに溢れている情報に逃げたくなる自分がいます。でも違う。目を見開いて全部見なくてはいけない。そして考えて自分の答えを出さなくてはいけないんだ。そう思ったのです。

ラストに繰り返される、「祝祭が見たいんだ 極彩色の心で」という光りすら見えてくるようなこのメッセージとメロディーに、私は自分がさっきまでの自分とは違っていることに気付きました。

今は灰色の毎日でも、いつかやってくるかもしれない祝祭のその時を、私も色鮮やかな、豊かな心で見てみたいと思いました。その日のために、「君の物語を絶やすな」と自分に何度でも言い聞かせよう、そう決めたのです。

世界が鮮やかに…人生を変えてくれた一曲

自宅療養が明けて、初めて外に出たのは感染が分かって1ヶ月が経った頃でした。その時見たバラの色を私は一生忘れないと思います。淡いピンクが、とんでもなく鮮やかに見えたのです。

ああ、ここでいっぱい傷ついたけど

小憎たらしいほど世界はキレイだなぁ!

清々しく鮮やかにそう思えたのは、この曲が存在したおかげなのです。だからあの日の私に言ってやります。曲ごときで人生なんて変わるんだよ。それだけ世界は可能性に満ちあふれてる。ってことなんだよ。