『俺レベ』『女神降臨』『喧嘩独学』…ヒット作が知らしめたウェブトゥーンの面白さ

「マンガ好き」以外にもウケたヒットの秘密とは

クリエイターエージェンシー・コルクの代表兼編集者の佐渡島庸平が、現代のエンタメを紹介するコラム。今回も、日本ではまだ馴染みが薄い縦スクロールカラーマンガをテーマにしようと思う。

今、マンガは、日本を中心とした見開きモノクロマンガと、韓国・中国を中心としたウェブトゥーンと呼ばれる縦スクロールカラーマンガに分かれている。この様相について、IT業界の人は、ソーシャルゲームの勃興期と全く同じだと表現する人もいる。確かに、気軽に遊べる携帯のソーシャルゲームと、よりリッチな体験を追求したPCゲームにゲームが分かれていったのは記憶に新しい。

約1億円の大ヒットで注目を集めた『俺だけレベルアップな件』

縦スクロールマンガというジャンルを作ったのは、韓国のマンガ家たちだ。もしも1作品だけ、縦スクロールのマンガを読むのだとしたら、僕はまず『俺だけレベルアップな件』(通称、『俺レベ』)をおすすめする。

人類最弱兵器と呼ばれていた主人公のE級ハンター「水篠 旬」が、死の直前に授かった特別な能力を生かし活躍する『俺だけレベルアップな件』©DUBU(REDICE STUDIO), Chugong, h-goon

この作品は、2019年3月にマンガアプリ「ピッコマ」で連載が開始され、その後急成長。2020年3月には、月間販売金額が9,800万円と、約1億円に到達したことで話題になった。この大ヒットよって、ウェブトゥーン業界が確立した。ヒット作品が生まれるかどうかで業界の行く末は決まる。その意味で、『俺だけレベルアップな件』は大きな役割を果たしたと言える。しかし、先日、作家のチャン・ソンラクが、37歳という若さで急逝してしまったのが、非常に残念だ。

「マンガ好き」ではない人が見出したウェブトゥーンの面白さ

スマホの外、リアルでは、そのジャンルを愛してやまない人たちが業界を作っていく。釣りの業界は、釣りの沼にハマった人たちが、こだわりの道具を生み出して生まれていく。スマホの中は、その逆だ。

ソーシャルゲームは、ゲーム専門店に行って、ゲームソフトを買わない人を対象として作られた。スマホ上でSNSの誰かの投稿や広告を偶然見かけて、隙間時間にゲームをはじめる。そういう人たちが業界を作っていったのだ。

同じように、縦スクロールというジャンルを韓国・中国で生み出した読者は、書店に行ってマンガを買わない人たちだ。彼らはスマホの中でTikTokやYouTubeを無料で見る代わりとして、マンガを選んでいる。いわば、「マンガ好き」ではない人々が主な読者となるため、そこに強い愛着はない。

だから、マンガを読むことが習慣となっている人が国中にいる日本では、縦スクロールがメジャーになりづらい。見開きモノクロマンガを読み慣れている人には、物足りなくて、チープに感じてしまうのだ。そのチープさゆえに、批判してしまうところも、ソーシャルゲームの時と全く同じ流れと言える。

ウェブトゥーンのヒット作に共通する、タイトルの仕掛け

そんな中、縦スクロールならではの描写をたくさん使用し、「あれ、面白いかも」と縦スクロールマンガの可能性に多くの人を気づかせたのが、チャン・ソンラクの『俺だけレベルアップな件』だった。他にもおすすめするとしたら、LINEマンガで配信されている、『女神降臨』『喧嘩独学』の2作品をあげる。

『女神降臨』©yaongyi/LINE Digital Frontier(左)、『喧嘩独学』©PTJ cartoon company・金正賢スタジオ/LINE Digital Frontier(右)

ヒットしたウェブトゥーンは、ライトノベルと同じように、タイトルが作品の全てを表す。『俺だけレベルアップな件』は、一人だけ特殊な能力を持つ主人公がみんなを助ける話だし、『女神降臨』は、普段は冴えない女子がメイクの力を借りて女神になる話。『喧嘩独学』は、架空の動画配信サイト『ニューチューブ』で学んだ喧嘩術で、配信者として活躍しようとする話だ。

YouTubeやTikTokは、サムネから予想できるものがたくさん見られる傾向にある。同じようにタイトルから予想できて、予想通りに気持ちがいい作品が全体的にヒットする傾向があり、上に上げた3作品も例外ではない。

日本で言うならば、『ONE PIECE』と『NARUTO -ナルト-』と『ドラゴンボール』を読むといいよとすすめているようなものなので、編集者としてわざわざあげるのは少し恥ずかしいのだが、まず読むのであればこの3作品がいいだろう。

次回は、なぜ、日本で縦スクロールマンガがそこまで流行ってこないのかをもう少し詳しく分析する。