ハチャメチャ設定でグイグイ読める!億万長者を目指す若者2人を描く『トリリオンゲーム』

TVODパンス「既存のルールの無視」にみる現代社会に求められるものとは

友人におすすめされて読んでみた『トリリオン・ゲーム』。

池上遼一のクラシックな劇画をフィーチャーしているのも興味深く、ちょうど暴力による日本制覇の野望を抱く2人の若者を描く『野望の王国』(原作:雁屋哲、作画:由起賢二)など昔のメチャクチャな劇画を読み返していたタイミングでもあり、現代に『野望の王国』と同様に「二人の男がタッグを組んで世界に挑戦する設定」をどう描くか期待して読んでみました。

『トリリオンゲーム』1巻表紙 ©︎稲垣理一郎・池上遼一/小学館

とはいえ、昭和の劇画にあったようなエキセントリックさはそれほどなく、実はすごくしっかりした物語のように思えます。

ただし、やはりこれが劇画調で描かれているのは面白い。同じストーリーをいかにも最近っぽいポップな絵柄にしても十分に成立するはずなんですが、ゴリゴリの劇画であることで、良い意味での違和感やファンタジー感を生み出すことに成功していると言えるでしょう。

1兆$稼いで全てを手に入れることを目指す2人の若者の物語

地味で真面目なギークのガクと、知識ゼロだけどテンションと営業力は抜群なハル。ガクが就活に失敗したタイミングで、「1兆を稼ぐ」とハルに誘われて2人で起業するのですが、そもそも何をする会社なのかも決まっていないまま走り出してしまう。

アパートの一室で夢を語るガクとハル『トリリオンゲーム』1巻より ©︎稲垣理一郎・池上遼一/小学館

とにかく資金を引っ張ってくるということで、投資家を当たってみるんですが、当然何度もピンチに巻き込まれる。しかし、ハルの思わぬアイデアによってなんとか切り抜けながら、どんどん規模は拡大していくーーひたすらそのストーリーで、ハチャメチャな設定の連続ながらきちんと伏線も張られていて、グイグイと読めます。

ルールの間隙をつくアイデアに現代っぽさ

ここで注目したいのは、ハルが脱法的......とまでは言わないけれども、しばしば既存のルールを無視したり、ルールの間隙をつくようなアイデアを繰り出していることです。ここに現代っぽさがあると思っています。

自分たちを売り込むために出場した”ハッカー大会”でもルールの間隙を突くハル

『トリリオンゲーム』1巻より ©︎稲垣理一郎・池上遼一/小学館

​これは、同じく池上遼一・作画の『サンクチュアリ』(原作は史村翔)と比べてみると面白いかもしれません。1990年代に連載された『サンクチュアリ』は、政治とヤクザという二つの領域から、日本という国を変えるために動き出すという話でした。

『サンクチュアリ』1巻表紙 ©︎史村翔・池上遼一/小学館

実際に当時の日本は、たび重なる汚職と並行しての政治改革などで、それまでの仕組みが大きく変わる機運に満ちた時代。すでに「革命」のような志向がマジメに唱えられることはありませんでしたが、「何か社会を変えたい」みたいな空気は持続していたと言えるでしょう。

『トリリオン・ゲーム』には「社会を変える」といった思考はほぼありません。あるのは「1兆を稼ぐ」という途方のない目標のみで、時として反則まがいのこともしながらもそこに向けて邁進していくのです。

現代にはひたすら明るいハルのような存在が必要?

そういえば東京国税局の職員を含む若者たちが給付金をせしめていた詐欺が最近話題になっていました。職員という仕事がありながらそんなことする必要ないじゃんと思うのだけど、それでも生き残れないという不安があるのか、刹那的な行為に及んでしまうのが現代的なのかなと考えました。

それもまた「既存のルールを無視」した行為なわけですが、どうも発想が暗いと感じます。

そんな時代だからこそ、特に根拠はないのにひたすら明るいハルの姿を見習った方が良さそうです。「社会を変える」ような長大な目標こそないものの、巻き込まれるガクやその他のキャラクターたちは、その魅力によってどんどん変わっていく。そんな存在が今は必要とされているのかもしれません。


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TVOD