『ONE PIECE』完結の前に!国民的漫画を今こそ読むべき3+1の理由

カラー版で読み進めて『週刊少年ジャンプ』本誌に移行するのがおすすめ!

2022年、尾田栄一郎氏による漫画『ONE PIECE』がついに最終章へ突入。これまでの進行スピードや作者コメントからは、最短で2024年に完結を迎えるのではないかと予想されています。

そうした原作の盛り上がりタイミングに加え、アニメーション映画『ONE PIECE FILM RED』公開に合わせ、2022年6月〜7月にかけて92巻までの内容がネット上で無料公開されていました。まんまとこの一大キャンペーンに乗​せられた筆者(空島編後に脱落していた30代)は、これを機に本誌連載の最新話まで追いつきました。

『ONE PIECE』103巻表紙 ©︎尾田栄一郎/集英社

ここから最終回に近づくにつれ、『ONE PIECE』の話題がSNS上にもさらに増えてくることが予想されます。ということで、最終章に突入したばかりのこのタイミングで、2022年的視点から『ONE PIECE』を読むべき理由を核心的なネタバレを避けながら3+1つ、そしておすすめの読み方を紹介しようと思います。

理由その1:時代を象徴する作品が完結し、"新時代"が幕を開ける

主人公ルフィら世界中の海賊たちが「ひとつなぎの大秘宝」を求めて世界中を旅する漫画『ONE PIECE』。その連載が開始されたのは1997年7月22日。

これは『新世紀エヴァンゲリオン』完結編となる映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』が上映された7月19日からわずか3日後であり、今となっては非常に象徴的なタイミングだったといえるでしょう。

『ONE PIECE』1巻表紙 ©︎尾田栄一郎/集英社

『エヴァ』ブームが90年代後半の日本カルチャー全体に大きな影響を与えたのはすでにあらゆるところで語られていますが、その象徴の一つがゲーム『ファイナルファンタジー』への影響です。

『エヴァ』的なるものが当たり前になった現在の視点からすると「どこが?」と思われるかもしれませんが、FFシリーズ屈指の人気を誇る『ファイナルファンタジーVII』(1997年発売)における主人公クラウドの内向的な性格や心理描写、精神崩壊を含む展開はまさしく当時の流行そのものであり、その他「Dガタ装備」などの直接的なオマージュを含む世界観構築(“壱”番魔晄炉などの名称もその一つ)などにもその影響が見て取れます。

続く「ファイナルファンタジーVIII」(1999年発売)でも主人公スコールのキャラ造形や考察を前提としたストーリーテリングなどにその残り香は強く表れており、エヴァがもたらしたトラウマの深さが伺えることでしょう。

しかし、そんな"『エヴァ』的なるもの"からの脱却をいち早く感じさせたのが、まさしく『ONE PIECE』のアニメ化(1999年)であり、FF7とFF8が嘘のように明るく活動的な少年を主人公とした『ファイナルファンタジーIX』(2000年発売)でした。

2000年前後は『エヴァ』以降の過剰にシリアスだったり精神世界に向かったりする流れに辟易した空気もあり、なおかつ新たなミレニアムと21世紀を迎えようとしていたタイミング。『ONE PIECE』の無邪気で快活な「海賊王に俺はなる!!!!」という宣言は、明確に次の世代、新しい時代の動きを感じさせるエネルギーを持っていました。

『ONE PIECE』1巻より ©︎尾田栄一郎/集英社

そして、実際に『ONE PIECE』はアニメ化をきっかけに更なる快進撃を始め、一時期は『週刊少年マガジン』に販売部数を抜かれていた『週刊少年ジャンプ』の新たな黄金期を作る国民的漫画となっていき、2000年代前半の一つのムードを体現した作品として記憶されていきます。

90年代以降あらゆる意味で終わらない傷跡となっていた『エヴァ』、3.11を経てテン年代を象徴する作品となった『進撃の巨人』が2021年に完結し、2022年には『ONE PIECE』が最終章に突入した。これは間違いなく、日本のカルチャー史にとって重大な出来事です。

理由その2:人種差別や気候変動も…アクチュアルな現代エンタメとして手を抜かない「本気の少年漫画」

『ONE PIECE』63巻より ©︎尾田栄一郎/集英社

もしかしたら、あなたは『ONE PIECE』を『エヴァ』や『進撃の巨人』と並べて語ることに違和感を抱くかもしれません。「時代を象徴する作品としては、ある種の"シリアスさ"が足りないのではないか?」と。

実際、00年代前半に『ONE PIECE』から脱落していた筆者も、この2022年に全話読破するまで「"ネクスト『ドラゴンボール』"的な王道少年漫画である」と認識していました。

もちろんその認識も間違っていませんが、『ドラゴンボール』とそれ以降に始まった『ONE PIECE』とでは、大きく違う部分があります。それは、『ONE PIECE』の物語や世界観には、私たちが現実社会で直面している数々の問題がこれでもかと盛り込まれている点です(とはいえ、実は『ドラゴンボール』にも、ナメック星の描写を中心にそういったニュアンスは見え隠れしています)。

『ONE PIECE』前半の基本フォーマットは、ルフィ率いる麦わら海賊団が新たな島を訪れ、腐敗した支配層とそれに苦しむ市井の人々を目の当たりにし、(正義感ではなく個人的な恩義をきっかけに)その解決に挑むというもの。

『ONE PIECE』19巻より ©︎尾田栄一郎/集英社

もちろん、それ自体は黒澤明『七人の侍』に代表される王道展開です。しかし、そこで描かれる問題は「人種差別」「気候変動」「先住民問題」「奴隷問題」「公害問題」「薬物」「人体実験」「化学兵器/生物兵器」「格差社会」「傀儡政権」など、アクチュアルなものばかり(旅の過程でさまざまな問題を抱える島に辿り着くという点では、松本零士『銀河鉄道999』との類似性も感じます)。

そして、ストーリーが進むにつれて明らかになるのは、『ONE PIECE』世界を支配する「天竜人」と呼ばれる特権的な既得権益者の存在と、歴史が改竄されてきた痕跡があるということ。そして世界のシステムの転覆を狙う革命思想が広まりつつある……という通奏低音。そのどれもが私たちが日々直面している、この社会全体を覆う空気とビビッドにシンクロしています。

しかし、その上で『ONE PIECE』は、あくまで王道の少年ジャンプ的バトル漫画であろうとします。「社会的イシューを描くことを目的とした作品」ではなく、あくまで「現代人がリアリティーを持って読むことができる、エンターテインメント作品」。

このさじ加減や、描く問題の類似性は『進撃の巨人』や海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』といった作品群と比較してもいいでしょうが、根底に感じられるのは、あの『ドラゴンボール』への憧憬と敬意と挑戦です。​

理由その3:"ジャンプ漫画"のその先へ…『ドラゴンボール』を乗り越える物語はどこへ行き着くのか

『ONE PIECE』カラー版 23巻より ©︎尾田栄一郎/集英社

事実『ONE PIECE』作者の尾田栄一郎氏はインタビューにおいて『ドラゴンボール』が一つのマイルストーンであることを明かしています。

そして読者としても、『ONE PIECE』には『ドラゴンボール』を越えるための意識を強く感じられるポイントがいくつも存在しています。先述した、現代社会が抱える問題を盛り込んだ世界観構築もその一つ。80年代〜90年代前半にかけて『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』が読者を惹きつけた”イノセンス”は、00年代以降の世界にとってはあまりにリアリティーに欠けてしまうでしょう。

それ以外にも、『ONE PIECE』が示す『ドラゴンボール』を乗り越えようと姿勢が顕著に表れているのが、"強さ"の描き方にあります。その代表例が「強さの指標」の違い。

『ドラゴンボール』における「戦闘力」という概念はキャラクターの強さを数値化した"発明"でしたが、強さを画一的な指標で縛ることになると同時に、さっきまでのライバルが次のエピソードではザコになってしまう、いわゆる「バトル漫画のインフレ」を誘引する諸刃の剣でもありました。

それに対して『ONE PIECE』が採用したのは「懸賞金」システム。純粋な戦闘力だけではなく、海賊団全体の武力、そして政治を含めた作品世界への影響力を加味した複合的な指標となっており、作中の"強さ"をより多層化させる仕組みとして機能しています。

『ONE PIECE』カラー版 76巻より ©︎尾田栄一郎/集英社

同時に『ONE PIECE』では"大将戦"以外のバトルにも重きが置かれています。中盤以降の『ドラゴンボール』が基本的に主人公である孫悟空頼りになってしまい、仲間キャラが機能不全に陥りがちだったのに対し、『ONE PIECE』におけるルフィのバトルはいわば画竜点睛。海賊団の仲間や島の住民たちの奮闘によって傾いた勝敗、その最終局面における最後の一手なのです。

それらルフィ以外のキャラクターたちの戦いには、ルフィでは解決できなかったであろう場面も少なくありません。そうした従来作品ではインフレについていけない雑魚として切り捨てられていたはずのキャラクターが成長したり、自らの個性に活路を見出したりする展開は、冨樫義博『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編や、古舘春一『ハイキュー!!』などとのシンクロも見られる、『ドラゴンボール』以降を意識した少年漫画の流れといえるかもしれません。

その一方で、『ONE PIECE』には『ドラゴンボール』と共通の批判も寄せられています。それは「血統主義」。作中の主要人物が何かしら特別な血筋を持っており、それが強さの理由となっていることを指す概念です。

これは少年漫画では決して珍しいものではありませんが、近年では『スター・ウォーズ』新3部作がこの点で大きな批判を浴びていたのは記憶に新しいところであり、現実の格差社会化の進行が進むにつれ、フィクションの中での「血統」は嫌われる要素の一つとなりつつあります。

『ONE PIECE』 45巻より ©︎尾田栄一郎/集英社

事実、『ワンピース』も物語が進むにつれて主要登場人物の出生が明かされ、血統主義的な側面が強く見られるようになり、それを指摘する声も決して少なくありません。

しかし、その一方で『ONE PIECE』には孤児を引き取っての親子関係や、親子や兄弟の盃といった任侠映画由来の関係性など、血縁ではない疑似家族が多く描かれているのもまた事実。そして物語後半からは「血統因子」と呼ばれる概念が登場するなど、「血統主義」を相対化しようとする流れを感じ取ることも可能です。

いずれにせよ、『ONE PIECE』が名実ともに"『ドラゴンボール』以降"を指し示している作品であることは間違いありません。時代を象徴し、"少年漫画"の看板を背負ったこの物語がどこに行き着くのか。それを見守ることができるのは、リアルタイムの読者ならではの楽しみです。

理由その3+1:作者が明言。最終章は、過去最高の盛り上がり

と、ここまで長々と語りましたが、何より重要なのは「『ONE PIECE』、最後がめちゃくちゃおもしろくなりそう!」という点。これに尽きます。

2022年7月18日、『ONE PIECE』公式ツイッターにおいて尾田栄一郎氏の直筆コメントが公開されました。

また、『ONE PIECE』単行本97巻の読者参加型のコラム「SBS」では「誰も読んだ事ないような大興奮の物語、OP史上〝最も巨大な戦い〟を描く事になります。」との予告もコメントされていました。

これまでの25年間を"下ごしらえ"と表現し、すさまじい盛り上がりを見せた「頂上戦争編」を上回る展開を予告するこの自信っぷり。期待しかありません。

おまけ:『ONE PIECE』どうやって読むのがおすすめ?

『ONE PIECE』カラー版 51巻より ©︎尾田栄一郎/集英社

結論から言うと、電子書籍のカラー版で読み進めて、途中から『週刊少年ジャンプ』本誌に移行するのがおすすめです。

『ONE PIECE』は中盤以降1コマの情報量が増え、なおかつ悪魔の身の能力を活用したバトルが激化するため、キャラクターの判別や位置関係の把握などが難しく、何が起こっているのか理解が追いつかないコマも少なくありませんでした。しかし、カラー版は色でぱっと見のキャラクター判別が容易になるため、全体がスッとわかりやすくなります。

そして今回全話を一気読みして強く感じたのは、単行本よりも『ジャンプ』本誌で毎週少しずつ読む方がよりおもしろいということ。週刊連載漫画のスピード感、リアルタイム感はやはり本誌で読んでこそ。

現時点で全103巻続いている長編シリーズですが、おそらく完結は最短で2024年。今から読み始めても遅くありません。日本のカルチャー史におけるビッグイベントとなること間違いなし。ぜひ一緒にグランドフィナーレを目撃しましょう。


Written by

照沼健太