「バディ」ブームに先駆けること30年!みうらじゅんといとうせいこうは「レジェンド仲良し」

一体どんだけ仲いいんだよ……

近年、あちこちで「buddy=バディ」という言葉を目にするようになった。「仲間」や「相棒」を意味するこの言葉は、映画やドラマ、漫画や小説などのフィクションに登場する二人組に向けて使われることも多く、それらの作品は「バディもの」と呼ばれ、二人のコンビプレイや固い結びつきといった関係性に、多くの人が魅了されている。

先日、雑誌『anan』でも「バディの化学反応 2022」という特集が組まれ、私も巻頭言のインタビュー取材を担当した。インタビューに応えてくれたのは、ポッドキャスト番組『奇奇怪怪明解事典』のTaiTanと玉置周啓。

その取材の中で、バディという関係性に人々が惹かれる理由について、TaiTanは「この二人が出会えたことの奇跡」に対する「可能性への嫉妬」があるのではないか、と語っていた。また、玉置周啓は、バディの二人が築いた関係性は「恋愛関係の上位概念」なのではないか、と。

「仲良しの秘密」に迫るドキュメンタリー

バディと聞いて、私が真っ先に思い浮かべるのは、みうらじゅんといとうせいこうである。この二人は、まさに嫉妬してしまうほどのパートナーシップで結ばれている。各方面で活躍している二人だが、みうら・いとうのコンビ活動としてよく知られているのは、『見仏記』と『ザ・スライドショー』だ。

『見仏記』は、幼少期から仏像を愛するみうらじゅんと、同じく仏像好きな友人=仏友のいとうせいこうによって、1992年に結成され(Since 1992)、​宗教的な信仰や美術品としての価値などとは違う角度で仏像を見て回り、独自の視点で仏像の魅力を伝える活動である。活動の記録は、シリーズものとして書籍化されているほか、『TV見仏記』としてテレビ番組にもなっている。

写真:三浦憲治

そして『ザ・スライドショー』は、1996年に開始された(Since 1996)、みうらじゅんといとうせいこうのユニット「ROCK'N ROLL SLIDERS」によるトークイベント。みうらがライフワークとして撮りためているDS(どうかしている)写真がスライドで大きく映し出され、その写真にいとうがツッコミを入れていく。

2017年には、20周年を記念したドキュメンタリー映画『みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやってくる!「レジェンド仲良し」の秘密』が公開されている。

「みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやってくる!「レジェンド仲良し」の秘密」DVD好評発売中 発売元:WOWOW/販売元:TCエンタテインメント ©2017WOWOW INC.

タイトルにある「レジェンド仲良し」とは、もちろん、みうらじゅんといとうせいこうのことであり、映画ではその「仲良しの秘密」に迫る。このタイトルを命名したのは、みうらじゅん本人で、いわく「親友よりさらに上がレジェンド」だという。

みうらじゅんは、いとうせいこうだけを見ている

映画の予告編にも使われているシーンで、みうらはこう語っている。「今までは自分がおかしいものを撮っている意識があったんだけど、自分がおかしくなってた」「『異常だよね』って言ったら、いとうさんが『あんただよ!』って」。

『ザ・スライドショー』の公演は、渋谷公会堂など大規模な会場で全国ツアーをまわるほどの観客を集めているにもかかわらず、みうら自身は「バカな写真はいとうさんに見せるために撮っている」「いとうさんが笑ってくれたら、もうそれでいい」という意識を持ち続けている。事実、これまでの公演を映像で見直してみると、みうらは客席のほうは一切見ず、常にいとうせいこうのことだけを見ていることがわかる。

©2017WOWOW INC.

ツッコミをくれた初めての人

そもそも『ザ・スライドショー』の源流にあるのは、一人っ子であるみうらじゅんが幼少期から抱いていた、家に遊びに来た友人に帰ってほしくない、なんなら家に泊まっていってほしい、という切実な願いだ。みうらは帰ってほしくない一心で、家に来た友人たちに、集めたものや自作のスクラップブックなど、とにかくいろんなものを次々と披露していた。

それは大人になってからも続き、飽きて途中で帰ってしまう人もいれば、逆に「すごいですね」「おもしろいですね」と、賞賛の言葉をかける人もいた。

しかし、いとうせいこうは違った。初めて二人きりで過ごした日、嬉々として自作の仏像スクラップブックを披露するみうらに対して「あんた、どうかしてるよ!」と、ツッコミを入れたのだ。これがコペルニクス的転回だった。異常なのは、コレクションの数々ではなく、何十年にもわたって異常なほどの質と量を集め続けている、みうらじゅん本人だったのだ。

それまでみうらは、心血を注いで日本中からおかしなものを集め、「どうこれ? おかしいでしょ?」と披露する立場で、自分のほうがツッコミだと思っていた。自ら命名した「カスハガ」や「いやげ物」たちこそがボケであると。

それが、「おかしいのは、あんただよ!」という、いとうせいこうのツッコミによって、むしろ自分のほうがボケだったことに気付かされた。ボケる喜びを知った。これまで何十年と続けて来た行為に対して、初めて新しい視点と価値が付加された瞬間である。

正確には、みうらは最初からボケだったわけではなく、映画の中で語られている通り、おかしなものを集めているうちに、自分がおかしくなっていった。そのことを最初に指摘したのが、いとうせいこうなのだ。そんな二人のやりとりを、いとうがショーという形に仕上げ、やがて『ザ・スライドショー』に発展していった。

『ザ・スライドショー』の公演タイトルは、第1回「みうらさん、あんた、どうかしてるよ!」にはじまり、第2回「みうらさん、まだあんのかよ!」、第3回「みうらさん、もう勘弁してくれよ」と、すべて、いとうせいこうのツッコミから名付けられている。

みうらに対してツッコミを入れる際の心構えとして、いとうは「ボケであるみうらさんを大事にすることが前提」「受け止めたうえで、台無しにする」と語っている。

©2017WOWOW INC.

みうらじゅんにとっていとうせいこうは、ニッチな趣味を共有できる貴重な仏友であり、自分でも気づかなかった潜在的なキャラクターを引き出してくれた相方でもある。それはつまり、ありのままを承認するだけではなく、新しい自分を発見してくれる存在。この関係性こそ、真のバディであり、「レジェンド仲良し」たる所以だ。

時代は常にみうらじゅんの後追いでしかない

ありきたりな説ではあるが、みうらじゅんは、常に時代を先んじている。というか、時代の流行は常にみうらじゅんの後追いでしかない。1997年、みうらの造語である「マイブーム」が流行語大賞のトップ10に入賞したあのとき、時代との追いかけっこがはじまった。昨今のバディブームも、みうらにとっては30年前から続けていることであり、みうらじゅんの「マイブーム」だったのだ。

「継続」と「量」は、みうらじゅんにとって重要なキーワードである。インタビューなどで、本人はこんなことを言っている。「KEEP ON ROCK'N ROLLっていう言葉があるでしょ。言葉としてはROCK'N ROLLのほうがかっこいいから、ついそっちを目指しがちだけど、大事なのはKEEP ONのほうなんだよ」。

また、別の言い方として、短い期間で少ない量だと、まわりからは「またやってる」と呆れられるけれど、長い年月をかけて膨大な量に到達すれば、一転「まだやってる!」という、驚きと賞賛に変わるのだ、と。

<数って意外と大事で。一個一個は「なんだこれ?」というようなものだとしても、膨大な量があればみんな「あっ!!」と言いますから(笑)。同じことが、期間の長さにもいえて。「またやってる」が「まだやってる」に変わったとき、人ってちょっと認めてくれたりするもんですよ>

(2019/11/1『Hanako』インタビューより)

もう一人のバディ、安斎肇という存在

私は10代の頃から、みうらじゅんといとうせいこうを敬愛し、この業界に入って初めて文章を書いたときから、二人の影響でペンネームを平仮名にした。プライベートでも仕事関係でも、「何が好きなんですか?」と聞かれたら、迷わず「みうらじゅんといとうせいこうです」と答えてきた。その喧伝が功を奏した結果、映画『みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやってくる!「レジェンド仲良し」の秘密』は、私が構成と監督を務めている。

映画の構成を考えるにあたり、1996年の第1回『ザ・スライドショー』から、20年分の全公演の映像をひらすら見直し、構成台本を仕上げるときには、第何回の何分何秒に何が収録されているかを即答できるようになった。

映画の公開初日には、みうらじゅんといとうせいこうと一緒に各地の映画館で舞台挨拶もした。スタッフや関係者も多く同乗する移動のバスの中で、みうらじゅんといとうせいこうは、二人で後ろの席に座り、二人でずっとしゃべっていた。「一体どんだけ仲いいんだよ……」と、私ですら思ったほどだ。

二人の20年分の仲良しっぷりを浴び続け、間近でも感じ、頭の中をみうらじゅんといとうせいこうでいっぱいにしたからこそ、私にはどうしても気になることがあった。

みうらじゅんにはもう一人、忘れてはならないバディがいる。安斎肇だ。みうらと安斎は、1997年に『勝手に観光協会』というユニットを結成(Since 1997)。二人で全国各地を訪れ、ご当地マスコットやご当地ポスター、ご当地ソングまでを勝手に制作する活動をしている。観光地を訪れるときには、二人ともお揃いのネイビーのジャケットを羽織り、白いハットを被り、ペアルックで町を歩く。二人は同じ宿に泊まり、同じ風呂に入り、共同作業で曲を作っている。

もちろん、みうらじゅんフリークとして『勝手に観光協会』も大好きだ。でも、あまりにいとうせいこうとの2ショットを浴び続けたせいで、『勝手に観光協会』でみうらじゅんが安斎肇と楽しそうにしている姿を見るたびに、「みうらさんにはいとうさんがいるじゃないか!」と、胸がざわざわするようになってしまった。

あるとき私は思いきって、みうらじゅん本人に、いとうせいこうと安斎肇、パートナーが二人いることについてどう思っているのか、おそるおそる聞いたことがある。すると、少し気まずそうな表情を浮かべながら、ゆっくりと答えてくれた。「いとうさんと会っているときは安斎さんに対して、安斎さんと会っているときはいとうさんに対して、正直、申し訳ないような気持ちにはなるよね。浮気している気分だよ」と。……感激した。罪悪感、あるんだ。よかった。ならばもう、何も言うことはない。

BOY meets BOYの名曲『男キッス』

みうらじゅんは、愛情の発露に余念がない人だ。そして、愛情の総量が尋常ではない。ゆえに、エロスクラップは700巻を超え、天狗もゴムヘビもいやげ物も、異常な熱量でコレクトし続ける。『ぜったい好きになってやる!』と、自分を洗脳してまで、ひたすら愛情を持って執着する。

その愛情の発露がいかんなく発揮された場面を確認できる映像がある。みうらじゅんが作詞・作曲を手がけた『男キッス』という曲のミュージックビデオだ。長い付き合いなのに、手さえ触れたことがない、そんなBOY meets BOYを歌い上げた名曲。ミュージックビデオでは、みうらじゅんと友人たち(男のみ)がキスしている写真がひらすらスライドショーで映し出される。

みうらじゅんは『見ぐるしいほど愛されたい』人だ。だからこそ、深く人を愛することもできる。「レジェンド仲良し」はいとうせいこうただ一人だが、バディは何人いてもいい。なぜなら、バディは恋愛を超えた上位概念なのだから。そもそも、よく考えたら、みうらじゅんには、師匠である糸井重里をはじめ、山田五郎、田口トモロヲ、泉麻人、ウクレレえいじなど、数多くの盟友がいる。

©2017WOWOW INC.

映画『みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやってくる!「レジェンド仲良し」の秘密』のエンディングで、みうらじゅんは言う。「いとうさんには、できたら葬式にまで来てもらって、棺桶に向かって『死んでんのかよ!』って、ツッコミを入れてほしい」と。

「レジェンド仲良し」とは、死ぬまでどころか、死んでからもなお、続くのだ。