なぜ私立恵比寿中学は数々のドラマを乗り越えられたのか?"転校"する柏木ひなたを支えた「大切な存在」

「自分で言うのもなんですけど、エビ中はすごく良いグループなんです!」

無邪気な笑顔でそう語るのは、人気アイドルグループ「私立恵比寿中学」の出席番号10番・柏木ひなた。

私立恵比寿中学、通称「エビ中」。

アイドルの枠を超えたパフォーマンス・歌唱力が話題を呼び、2021年7月に出演した「THE FIRST TAKE」の動画再生回数は合計300万回を突破。

メジャーデビュー10周年を迎える今年は、これまでの軌跡をたどったアルバム「中吉」をリリースするなど、各方面での活動を続けている。

柏木は、力強い歌声やダンスでグループを牽引してきた一人。人生の半分以上をエビ中に捧げてきた彼女が、2022年12月開催予定のライブをもって転校(卒業)する。

「転校っていうことで、自分がどれだけエビ中が大好きだったのか、逆にメンバーがどれだけ自分のことを必要としてくれていたのか、改めて感じることができて嬉しかったなって思います」

グループへの「愛」に溢れる柏木が、転校を決めた理由とは。そして、彼女から見たエビ中の軌跡とはどのようなものだったのだろう。


「自分をもっと大切にしてあげたい」

転校を決めた理由

「直接マネージャーさんに伝えたのは2020年8月でした。私が2020年で加入10年目だったので、節目として」

2010年、11歳でエビ中に加入した柏木は、学校などでもグループで活動するタイプではなく、加入当初はグループ志向が強くなかった。

「もともと芸能界に入ったのも"歌って踊れる人になりたい"と思ったことがきっかけ。でも、エビ中に入って仲間の大切さとかグループの楽しさをたくさん知って、色々考えたんですけど、改めて自分の夢を叶えてみたいなと思って転校を伝えました」

しかし、転校は延期に。柏木はその後も精力的にグループ活動を続けていたが、もともと「完璧ではなかった」体調が悲鳴を上げた。

「やりたいのにできない、楽しみたいのに楽しめないっていうか…心と体が真反対になっちゃって…。初めてマネージャーさんに休みたいと伝えました。そしたらマネージャーさんも同じことを考えていたみたいで、9月からお休みをいただくことになりました」

「私、周りのみんなを見て行動するタイプだったので、自分よりもメンバーみんなの体調を優先しちゃうんです。例えば、誰かが体調を崩していたら、自分の体調が悪くてもその子のためにスタッフさんを呼んでいたんです」

「でも今思うと、そんなことをしていたから、自分があまり良くない方向に向かってしまっていたんだなって」

柏木は2021年9月に行われた公演「ちゅうおん」から休養に入ることに。12月の公演で復帰するまでの3カ月が、自分を見つめ直す機会になったという。

「お休み中に改めて考えたら、今まで自分のことをあまり見ていなかったことに気付いて、もっと大切にしてあげたいと思ったんです」

「だから歌って踊るためというよりかは、今後は体調と相談しながら自分のペースで活動していきたいと思って、マネージャーさんに改めて転校を伝えました」


「残りの期間をとにかく楽しみたい」

柏木は「復帰から1年」というゴールを自ら設定し、2022年12月の転校を決めた。ファンにも、卒業8カ月前の4月にブログで発表した。

「メンバーに言うのも、今まで転校していった人の中で一番早く伝えていて。1年前に言う人なんていないですよ(笑)」

「ファンの方にも早く伝えたのは、私自身がファンである安室奈美恵さんが引退するとき、1年前に発表してくれたことで心の準備をすることができたから」

「安室さんが引退されるまでの間、ゴールを決めているからか、すごく良い表情をされているのが見えていたし、安室奈美恵っていう人物は偉大だったんだなと改めて思えた」

「だから自分も転校の時には短い期間じゃなくて、少しでも長い時間を皆さんと一緒に過ごしたいなと思って、春ツアー前の4月に伝えたんです」

「1年後」というゴール、ファンへの早めの発表。柏木が安室さんに感じたように、その思いは確実にファンに伝わっていた。

「何をやっても自分にとって"エビ中ラスト"になるとわかっていたからか、春ツアーは本当に楽しくて!」

「ファンの方からも『ひなたがすごく良い顔をしていた』とか『自分も悲しんでいるだけじゃなくて、一緒に楽しんでひなたの最後を見届けようって思った』みたいに言っていただけたんです」

「私の転校が、皆さんの中で少しずつプラスに変わっていく瞬間が見られてすごく嬉しかったです」

転校の実感はあまりなかったというが、8月末に行われた新メンバーのオーディション合宿中に「急にきた(笑)」とのこと。

「1回実感すると、やっぱり寂しくなっちゃうんですよね。だから、ちょっと寂しいっていう気持ちはあるんですけど、残りの期間をとにかく楽しみたい。とにかく楽しんで、12月までやり切りたいなと思います」


「3人がいてくれたから…」

メンバーとの絆

加入当初グループ志向の強くなかった柏木がここまでエビ中を続けられたのは、メンバーの存在が大きかった。

ただ柏木の加入直後には、人見知りゆえの"ある事件"が起こっていたという。

11歳だった柏木は当時最年少として加入したのだが、その目つきがあまりにも鋭かったため、メンバー間で"緊急会議"が行われたのだ。

「別に睨んでいたつもりはなかったんです!なのに、みんなからしたらすごく怖かったみたいで、『やばいヤツ入ってくる』ってずっと言われていたらしくて(笑)」

「私も人見知りだし一人っ子なので、上のお姉ちゃんたちがいっぱいいるのがちょっと怖かったのはあったんですけど…」

当時を知る現メンバーは真山りか、安本彩花、星名美怜の3人。加入時から過ごしてきた3人には特別な思いがある。

「もちろん、続けられた一番の理由はグループが大好きだからなんですけど、3人がいてくれたからここまで続けてこられた、とも思います」

「真山と美怜ちゃんは本当にお姉ちゃんみたいな感じで、唯一甘えられるメンバー。彩花は同い年でもあるし、お互い歌うことが好きで、ステージ上で表現することが好き。いろんなことを一緒に乗り越えてきたし、仲間とか友達っていうよりかは戦友っていう感じかな」


「ひなたがいないとエビ中じゃない」

忘れられない言葉

もう一人、柏木の大きな支えとなっている人物がいる。

2017年2月8日に亡くなったメンバーの松野莉奈さんだ。姿が見えないだけで、今も近くにいるような気がしている。

「本当に人を笑顔にさせる天才で、あの子の無邪気さで助けられていた部分がすごくあった。私たちは今でも、莉奈の話をしているとすごく楽しいんですよ。莉奈、絶対『この曲好き!』って騒いでるよね、とか言うことも多くて」

「けど、2月8日だけはみんな泣くんです。それ以外はあんまり泣かないんです。ずっと寂しい気持ちはあるんですけど、その気持ちを爆発させていいのはその日だけって、何も話していなくてもみんなの中で決まっていて。本当に莉奈の存在は大きいんですよ」

柏木には、忘れられない松野さんとの会話がある。

2016年冬、番組の企画で松野さんと2人で観覧車に乗った時のこと。柏木は当時、突発性難聴から復帰した直後だった。

「私が難聴でお休みしている時、グループはどんどん進んでいって。でも、自分は復帰したけど体調が万全じゃないし、大好きなエビ中に迷惑をかけないためにも辞めた方が良いのかなって悩んでいたんです」

「そのことを莉奈に話したら『ひなたがいないとエビ中じゃないでしょ』って言ってくれて。それがすごく大きくて、その言葉があったからここまで続けてこられた」

「あの子のおかげで、今自分と関わっている人や、今一緒に過ごしている時間が当たり前じゃないんだなって思います。『手をつなごう』の歌詞にあるんですけど、"生きてることのよろこび 今忘れちゃいけない"って本当にその通りだなって思っていて…」

「多分今もグループのことは見守ってくれていると思うので、あの子がエビ中でやりたかったことは、私が転校してもどんどん叶えていってほしいと思います」


「これがエビ中だ」

実感した瞬間

2021年7月16日。

松野さんの誕生日でもあるこの日に、1本の動画が公開された。エビ中が初出演した「THE FIRST TAKE」だ。

歌った楽曲は「なないろ」。松野さんが亡くなった後に制作された、彼女への思いが込められた一曲。ライブでは、会場が松野さんのイメージカラーである青色のペンライトで染められるなど、ファンにとっても大切な楽曲だ。

なないろ - From THE FIRST TAKE(提供写真)

この日は、2020年10月から病気療養していた安本の復帰のタイミングでもあった。

「彩花は歌うのは久々だったし、私たちも彩花と会うのは久々だし、『なないろ』だし、いろんな想いが詰まったTHE FIRST TAKEだったんですけど、全員ガチガチで(笑)。私も前後の記憶はすごくあるんですけど、歌っている時の記憶があんまりなくて」

収録が始まると、メンバーはお互いの存在を確かめ合うように目を合わせながら、一つ一つの言葉を大切に、まるで語りかけるような優しい声で歌い上げた。歌唱後には安堵感と達成感に満ちていたが、安本が一言。

「あー緊張した」。メンバーにどっと笑みがこぼれる。

「実は終わった後もどうしたら良いかわからなくって…なんかしゃべった方がいいのかな?とか思っていたら、彩花はそんなこと何も考えてないから(笑)。でも、あの一言でうちらは『ああ、戻ってきた。これがエビ中だ』って感じられました」


「本気?」

エビ中史上一番難しい曲

「エビ中って、追い込まれた時の歌の表現とかパフォーマンスとか爆発的にすごかったんですよ。ライブも気持ちだけでやっていた時期があって、それが良かったと思います」

エビ中の魅力といえば、"パフォーマンス力"やアイドルの枠を超えた楽曲。この路線が確立されたのは、2018年1月〜2021年の6人体制(真山、安本、星名、柏木、小林歌穂、中山莉子)の時だ。

2018年1月、6人体制での初ライブ「大学芸会2018 in 日本武道館 新春大学芸会〜ebichu pride〜」(提供写真)

「6人の時はアーティストっぽいというか、アイドルがほぼ歌わないような楽曲がたくさんあって、エビ中の強みである楽曲の幅広さを大事にしていました」

中でも2019年リリースのアルバム「MUSiC」に収録された「星の数え方」は、3声でのハモリを取り入れるなど、挑戦的な一曲。柏木は「すごく難しかった」と振り返る。

「星の数え方」が収録されているアルバム「MUSiC」(提供写真)

「エビ中史上一番難しい曲をやる、限界を超えてみようというのがテーマだったんですけど、最初に聴いた時は、静かにイヤホン置きました(笑)。本気?って思って、どうしたらいいんだろうってすごく考えました。けど、この曲のおかげでメンバーの技術がレベルアップしたと思います」

「ダンスと違って、"歌"って指摘しづらかったんですよ。その子の歌い方や癖があるので。でもハモるってなると、お互いのことをわかってないと揃わないじゃないですか」

「その頃から、そんなに言葉を詰めなくていいとか、もう少しピッチをあげてほしいとか言い合えるようになった。みんながお互いの歌に関心を持って、分かろうとする姿勢が見えたのは大きかったですね」


メジャーデビュー10周年

9人体制となったグループの今

2022年、エビ中はメジャーデビュー10周年を迎え、9月にはアルバム「中吉」がリリースされた。

ファン投票で選ばれた人気曲が収録されているほか、メジャーデビューシングル「仮契約のシンデレラ」などの代表曲が再レコーディングされた。エビ中の歴史と、"今"が詰まったアルバムになっている。

「再レコーディングするときに、10年の重みを感じておきたいと思って改めて当時の音源を聴いてみたんです。こんなに歌が違うんだって実感しました」

「今は昔よりも音楽に対して真剣に取り組んでいるから、昔の自分に『ダメだぞ』って言いたくなるような感じ(笑)。頑張ってきて良かったなって思いました」

「中吉」には、2021年に加入した新メンバー(桜木心菜、小久保柚乃、風見和香)を含めた「9人体制」時にリリースされた楽曲も収録されている。

6人体制時の"アーティスト路線"から、グループの方向性も変化している。

「新メンバー3人は若いので、やっぱり他の6人との差が開いてしまう。でもデビュー当時のようなフレッシュさや、アイドルっぽさがプラスされて、パフォーマンス面でも大きく変わったと思います」

2021年12月、9人体制で行われた「大学芸会2021~Reboot~」(提供写真)

「6人時代のパフォーマンスは、6人だから成立していたと思っていて。3人がそれを見てライブをやってしまうと、基本を知らないまま、テンションで乗り切ろうというクセがついてしまうんですよ」

「私は3人のパフォーマンス教育係だったので、3人にはすごく厳しく言ってきました。でも3人が努力したから、年齢の差が開いていても成立するグループになったのかなって思いますね」


数々のドラマ

エビ中が見せてきた"強さ"

これまで数々のドラマがあったエビ中。

「試練が多い」「いろいろありすぎた」と言われることもあるが、メンバーが見せてくれたのは決して「可哀想」な姿ではない。

何があっても乗り越え、強くなって戻ってきた姿だ。エビ中としての"プライド"を胸に秘めて。

「今までもいろんな辛いこと、苦しいことがあったけど、絶対にそれを乗り越えてきたし、メンバー同士で励まし合って乗り越えられてきた」

「メンバーの病気とか怪我とかが本当に多いグループなんですよ。でも本人はもちろん治るって思っているし、待っているメンバーも絶対帰ってくるという気持ちだけで」

「彩花が病気で休養している時も本人はすっごく明るくて、早く戻ると言っていたんです。だから私たちは頑張ろうって思えたし、私たちがエビ中を守るからゆっくり休んで帰ってきてくださいって伝えていました」

「ただ、ファンの方は発表があるまで何もわからないから、すごく不安があるんだろうなって思います。私たちは直接、連絡取れたり会えたりするから"大丈夫"って思えるけど」

「だから、その不安をライブで少しでもなくせるように、ライブの時間はエビ中と楽しもうと思ってもらえるようにステージに立っていますね」


"パフォーマンス"というグループの強みを極め、共に乗り越えてきたメンバーたち。そして、エビ中に新しい風を吹き込んでくれた新メンバー。

全力で駆け抜けた10年。柏木ひなたにとって、「私立恵比寿中学」とはどのようなものだろうか。

「前までは『家族』とか言っていたんですけど、家族以上に時間を過ごしているから、『家族』って何ってところまで来ちゃって(笑)」

「全ての感情を出せて、共有できる人たちがいたっていうのはすごく大きくって、私自身もエビ中に励まされたり元気もらったりしていたので、『光』だったのかなって思いますね」

転校を機に、改めて理解できた。エビ中がいかに良いグループで、柏木も、メンバーもお互いにどれだけ大切な存在と思っているか。

「私が抜けてからもエビ中にはすごく期待しているんです。メンバーはすごく不安がるんですけど。私がいないことを考えちゃって。美怜ちゃんとか、目の前にいるのに『いなくなるじゃん』とか言っていて、かわいいなって思っちゃいます(笑)」

卒業後は一人の歌い手として活動するつもりだ。エビ中とも何かあった時にサポートできればと考えている。

「エビ中はすごく良いグループなので、もっと大きく羽ばたいてほしいですね。これからも私にとっての『光』であってほしいです」


Staff Credit

Text: 橋本嵩広(LINE)

Photo: 黒羽政士

Movie: 江草直人

Edit: 前田将博(LINE)


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