フィクションを超えるドラマが…!実在した日本人捕虜を描いた『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』

『ジョジョの奇妙な冒険』のあの名セリフは、この人のためにある気がする…

20年ほど前、新人サラリーマン時代にたまたまオフィスで観たテレビ番組『知ってるつもり?!』が、何故かずっと忘れられずにいた。

『知ってるつもり?!』は、かつて日本テレビ系列で放送されていた、毎回、実在の人物の人生を掘り下げていくドキュメンタリー教養番組なのだが僕が観た回は以下のようなエピソードだった、と思う。

記憶の片隅にいた日本人捕虜とまさかの"再会"

第二次世界大戦の敗戦後、ある男がシベリアの強制収容所に不当に捕虜として抑留された。その男は、劣悪極まる環境下で日本人捕虜たちが次々と倒れる中でも自己犠牲の精神で仲間達を叱咤激励。終わりの見えない絶望の日々を、短歌・俳句といった文学の力で鼓舞し続け、自らの死の直前まで日本人捕虜たちの精神的支柱として勇気を与えた…という話だったと記憶している。

まさにと書いてオトコ!と呼びたい人物なのだが、とにかく彼の写真がインパクト十分で、てっきり苦み走ったマッチョマンかと思えば、テレビ画面に写っていた写真は、水木しげるの漫画に出てくる日本兵のごとき、弱々しい丸メガネのオジサンだったのだ。

当時、モバイルPCもスマホもなく、広告会社の入りたての自分はマジで仕事が終わるまで家に帰れないという”プチ抑留”状態自分にとっては実にタイムリーな話であり、それからも、いろいろしんどい場面に何故かふと思い出す人物だったのだが名前は完全に忘れていた。

ところが「あれ誰だったんだろなー」と思い出すこともなくなってきたつい先日、映画館で観た予告編に思わず声をあげてしまった。

今年12月に公開予定の映画『ラーゲリより愛を込めて』。主演の二宮和也が演じるその人が、まさにそのだったのだ!

「知ってるつもり」になっていた…日本人捕虜をめぐる奇跡の実話

名前は山本幡男(やまもと・はたお)。1908年島根県生まれー1954年シベリア没。ネットで軽く情報を調べてみたところ、たぶん僕が途中で番組を観るのをやめてしまったんだろう。彼がシベリアの強制収容所で命を落とした後のストーリーこそが、フィクションを超えるドラマチックな展開だった。

映画のネタバレになるので詳しくは書かないが、シベリア抑留中、「書くこと」によって仲間達に希望を与え続けた山本幡男さんが死んだ後、彼の魂を受け取った強制収容所の仲間達が自らの命を賭けて、彼が「残したもの」を日本に持ち出そうと試みるのだ。

「こりゃ観るしかない!」と思いつつも、原作を漫画化した作品を発見。映画の公開を待ちきれず、ポチッとしてみたのがこれ。​

『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』表紙 ©️辺見じゅん・河井克夫/文藝春秋

『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』(原作・辺見じゅん 漫画・河井克夫)。

ストーリー詳細は省くが、本書を読んで改めて伝わってくるのが、シベリア強制収容所(ラーゲリ)における日本人捕虜の壮絶な生活である。

ナメたこと言ってすみませんでした…想像以上に過酷な収容所生活

ある収容所では、ツルハシとシャベル、鉄棒だけを与えられて1日10時間を超える労働を強いられ、冬は極寒の中、凍傷と隣り合わせで日本人の労働力なんて、ほぼ使い捨て状態。

 

食事といえば、1日に黒パン350グラム、朝夕は野菜の切れ端が浮かんだ塩スープ。黒パンのきれっぱしを巡って日本人捕虜同士が殴り合いの喧嘩が起きるのは日常茶飯事だったという。

ノルマを達成できないと作業は夜間まで持ち越されることも…©️辺見じゅん・河井克夫/文藝春秋

まさに人間性ゼロとも言える暗黒地帯であるが、さらに、嫌いなものが「寒いところ」と「暗いところ」と「狭いところ」である自分にとって最悪とも言えるトラウマもんの拷問シーンが本書で描かれていた。

その名は「棺桶」。細く縦長のロッカーのような箱に入るだけなのだが、その箱の中に入って扉が閉められると、ただただ真っ暗闇のなかひたすら立っているだけの状態で身動き取れず放置される。これをやられると精神的にも肉体的にも著しく衰弱するそうだ。

棺桶内には「南京虫」も…©️辺見じゅん・河井克夫/文藝春秋

今これを書いているだけで、あることないこと自白しかけている自分がいるが、この拷問すらもサバイブし、自分どころか仲間達に希望を与え続けた山本幡男さんの精神力は奇跡というほかない。

本書を読み進めるうちに山本さんの丸メガネ姿が、まるで映画『インビクタス/負けざるたち』のモーガン・フリーマンのように思えてきた。山本さん、この原稿の冒頭にナメたこと言ってホントすみませんでした。

とにかく、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の名セリフ「人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ!! 人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!」は、この人のためにあるのではないか!と言いたくなる一冊なので、今冬公開の映画『ラーゲリより愛を込めて』の予習がてらにでも是非チェックしてみてほしい。