AKB48初の"現役30代"、動画では素の自分を見せ…柏木由紀はなぜ型にとらわれないのか

「30歳までAKBにいたメンバーは今までいなかったので、30歳の前に何かしら考えることがあるんだろうなって思っていたんですけど…」

2021年に30歳を迎え、グループ初の"現役30代"となったAKB48柏木由紀。

ステージに立てば人を引きつけるパフォーマンスを見せ、ソロではテレビやYouTubeで生き生きと立ち振る舞う。

10月19日リリースの60thシングル「久しぶりのリップグロス」でも選抜メンバー入りするなど、中心的な存在として活躍を続けている。

今年で加入16年目。30歳になる直前には難病、手術も経験した。

最も長くグループを見てきた彼女から見た"AKB48"とは?そして、彼女がアイドルを続ける理由とは?


"一番大きなきっかけ"

総選挙3位の躍進

柏木がAKB48に加入したのは2006年。

小学生の頃からアイドルにハマり、客席から見る景色の「"逆側"ってどんな気分なんだろう?」と気になった。

秋葉原の劇場で公演を毎日行っていたAKB48が目に留まり、オーディションを経て加入が決定した。

「公演はもうめちゃくちゃ楽しかったです。アイドルってやってみたら大変なんだろうな、とか想像していたんですけど、やっぱり楽しかった。『アイドルいいな、最高だな』と思いましたね」

加入した翌年に初めて選抜メンバー(以下「選抜」)入りすると、その後も選抜として活躍。

ファン投票で選抜を決める「選抜総選挙」では、2009年の第1回で9位、第2回で8位となるなど、グループに欠かせない一人となった。

そんな柏木の名を世に知らしめたのが、2011年に行われた第3回選抜総選挙だ。

投票開始の翌日に発表された「速報」で3位にランクインすると、そのまま最終結果も3位に。

前年の8位から大きく順位を上げ、いわゆる「神7」(第1・2回の上位7人。同じ顔ぶれだったことから、ファンの間で呼ばれていた)の牙城を崩した。

「速報で3位だった時は、スタッフさんも『名前が知られてラッキーだね』っていう雰囲気だったんですよ。私もそう思っていたので、嬉しいというよりもとんでもないところに来てしまった…みたいな感じ。『ファンの人、ちょっと頑張りすぎじゃない?』という気持ちでした(笑)」

「『神7』の人たちがほとんど先輩で、すごくリスペクトしていたので…いつかは自分も入りたいって思っていたんですけど、自分の実力が伴ってないと感じていたし、プレッシャーとか申し訳ない気持ちが大きかったですね」

「でも今振り返ってみると、一番大きなきっかけだったなと思います。より多くの人に知っていただけましたし、メンバーがたくさんいる中で3位になったことで自分の居場所が作れた。それまではいてもいなくても変わらないと思っていたんですけど、自分のポジションを確立できたと感じました」

ちなみに、柏木が見ている"客席の逆側の景色"とは、どのようなものなのだろうか。

「会場によって違うんですけど、ファンの方の想像より顔が見えます。他のアーティストさんが『ステージからも物理的距離は同じなので、同じサイズで見えます』って言っていたんですけど、本当にそれなんですよ!」

「見えているよと言っても、ファンの方は『いやいやどうせ』って言うじゃないですか。でも、なんなら目線もわかりますから。自分のグッズを持っている方が違うメンバーを見ているのもわかりますよ(笑)」


握手会で大事にしていた

"ファンとの関係性"

躍進の原動力となったのが、握手会での"神対応"だろう。

総選挙で3位になった際には、ファンの間で「どうやら握手で3位になった人らしい」と囁かれていた。

「総選挙のためとは思ってなかったんですけど、握手会はチャンスとは捉えていました。当時は先輩とペアでやっていたんですけど、自分のファンじゃない方にも必ず見てもらえる機会じゃないですか。どうにか印象付けようって考えていましたね」

「心掛けていたのは、"ファンとの関係性"を築いていくこと。前から、握手という"接触"が目的になってしまうと、長くは来てもらえないと思っていて。その場だけ喜んでもらうんじゃなくて、ちゃんと会話をして、自分が言ってもらえたら嬉しいことを考えるようにしていました」

「コロナ禍で握手会がオンラインのお話し会になっても、会話をしたい、顔を見せておきたいって思ってくれる人はオンラインになっても参加してくださっているので、関係性を大事にすることを心掛けていて良かったなって思います」


頭をよぎった卒業

AKB48を続けたいと思った理由

2015年の総選挙では2位を獲得、同年には小嶋陽菜とのWセンターを経験するなど、長期間にわたって中心メンバーとして活躍していた柏木だったが、2021年6月に「脊髄空洞症」の疑いと診断された。

手術と治療のため入院し、休養することになった。

「コロナ禍でしばらくシングルが出せてなくて、やっと新曲を出せるっていうタイミングで病気がわかったんです。レッスンや新曲の初披露に参加できなくて不安もありましたし、体力も落ちちゃって…」

「コンサートで長時間踊ることも難しいかもと思って、『もしかしたら卒業かも』って頭をよぎりました」

「でも、入院中にAKBが音楽番組に出ているのを見て『早く戻りたい!』と思ったんです。それをきっかけにすごく回復して、数日で退院しました。こんなに大きい病気になって大変な時も、AKBが救ってくれるんだって思いました」

「今までに経験したことのない形でやっぱりAKBが好きなんだって実感して、この気持ちがある間は続けたいって思う大きなきっかけになりました」

闘病を経て、30歳の誕生日に復帰。AKB48としては初の30代メンバーとなったが、年齢を気に留めることはない。

「30歳までAKBにいたメンバーは今までいなかったので、30歳の前に何かしら考えることがあるんだろうなって思っていたんですけど…私は卒業を意識することがなかったんです」

「AKBにいたら達成できない夢とか目標が見つかった時には卒業するんだろうなと思っていたし、やりたいことはたくさんあって大変だけどAKBと両立できるんですよ。今のところは楽しいですし、応援してくれている人もいるから続けたいですね」

「あと、意外と世間が優しい(笑)。年齢のことで勝手に肩身が狭い思いをしていたんですけど、『好きなことを続けていてすごい』『ここまできたら40歳まで頑張ってほしい』って応援してくれる。びっくりというか、嬉しいですね」


「これ勝負曲だな」

AKB48が変わった一曲

2022年、AKB48に加入して16年目。

これまでの活動で印象に残っている曲を聞くと、挙がったのは2009年リリースの「RIVER」だった。「メンバーの気合がすごく入っていた」と振り返る。

「RIVER」ジャケット ©You, Be Cool!/KING RECORDS(提供写真)

当時のAKB48は「大声ダイヤモンド」や「言い訳Maybe」など "王道"アイドルソングを次々とリリースしていたが、「RIVER」はその路線とはまったく異なるものだったのだ。

"応援"をテーマにしたメッセージ性の強い歌詞と力強いダンスが特徴で、AKB48の新たな一面を表現する一曲だった。

「"AKB=制服を着て歌って踊る"っていうイメージが付いて、ちょっとずつ知っていただけるようになってきた時に、アイドルが歌わないような曲がきた。『これ勝負曲だな』ってみんな思っていましたね」

「初披露の時、誰が言い出したわけでもないのに集まって円陣を組んだんです。それまではあんまりなかったことで。この曲が世間に届いたらAKBが変わるんじゃないかってメンバーみんなが思っていて、すごく頑張っていました」

結果、「RIVER」はグループで初めてオリコン週間ランキング1位を獲得。

「自分たちの道は間違ってなかったんだなと思いました。挑戦することや、とにかくがむしゃらに一生懸命頑張る、というAKBの方向性が決まったような気がします」


再び感じた「RIVER」の雰囲気

「『RIVER』の時の雰囲気を、久しぶりに『根も葉もRumor』で感じたんです。曲がきっかけでグループが変わるんだって思いました」

「根も葉もRumor」は2021年にリリースされた58thシングル。

「根も葉もRumor」ジャケット ©You, Be Cool!/KING RECORDS(提供写真)

「RIVER」から12年、メンバーもガラリと異なるが、この曲も新たな一面を表現した楽曲である。

AKB48でこれまで見られなかったような高難易度なロックダンスに挑戦し、ダンスプラクティス動画は590万再生を突破するなど話題を呼んだ。

「メンバーの意識がすごく変わりました。映像を撮りあって振りを揃えて、みんなで練習をたくさんした。この曲のおかげでチームワークが生まれて、先輩・後輩関係なく意見を言い合えるようになったので、すごく大事な期間だったなと思います」


AKB48初の試み

「ひとりひとりが映るMV」

「根も葉もRumor」、さらに59thシングル「元カレです」と、ハードなダンス曲を続けたAKB 48。

10月19日にリリースした節目の60thシングル「久しぶりのリップグロス」は一転、ポップなイントロから始まる"王道"アイドルソングだ。

「久しぶりのリップグロス」ジャケット ©You, Be Cool!/KING RECORDS(提供写真)

柏木も「本当にAKBらしい」と笑みがこぼれる。

「久しぶりにAKBの夏曲っていう感じで、ダンスをメインにしていたからこそ"これがAKB"って引き立っている。『ポニーテールとシュシュ』とか『Everyday、カチューシャ』みたいな夏曲で、当時を知る私としては大好きな曲です」

AKB48初の試みとして、ミュージックビデオ(SNS ver.)は縦型動画で撮影された。自撮り&メンバー間で撮影したようなシーンが多く、メンバーのワンショットが豊富だ。

「こんなにひとりひとりが映るMV久しぶり(笑)。メンバーも嬉しいし、ファンの方も喜んでくれるかなって思います。このMVを見たら、今回シングルに参加できてない子もいつかは参加したいって思うような本当に良い作品ができたかな」


「"AKBらしさ"を引き継げるのは私が最後」

MVのラストシーンでは、60枚目のシングルにちなんで60発の花火が打ち上げられ、メンバー全員でカウントしながら楽しむ様子も。

60枚のうち、現役メンバーの誰よりも多くのシングルを知る柏木は"過去"と"現在"の「架け橋になれたら」という。

「みんなには"今のAKB"の良いところを増やせるようにしてほしいし、昔から続く"AKBらしさ"を引き継げるのは私が最後だと思う。AKBとして残すべきものは伝えていきたいです」

「私が見てきた“AKBらしさ”って、どんなことでも一生懸命に、全力でやって楽しむこと。まずは私たちが体を張って、見ている人にも『AKBが頑張っているから、自分も頑張ろう』って思ってもらいたいんです」

「だからメンバーには『ここは一致団結して頑張ろう』とか、番組に出たら『AKBが一番盛り上げよう』って声がけするようにしています」


ソロコンで見せた

「やっていきたい二つのこと」

長らくグループをけん引してきた柏木だが、近年はソロ活動も重要視している。

「ソロにはソロの良さがあるんですよ。一人で歌をフルで歌えるし、コンサートも曲や演出を決めて、自己プロデュースができる。すごく楽しいので、今後も重点を置いてやっていきたいです」

2021年11月に行われたソロコンサート「寝ても覚めてもゆきりんワールド」(提供写真)

2021年11月には、パシフィコ横浜と神奈川県民ホールで趣向の異なる二つのソロコンサートを開催。柏木の思う「今後のアイドル像」を表現した公演になった。

「歌って踊って、可愛い衣装も着たいという思いがあるので、パシフィコ横浜ではそれをしっかり見せる公演にしました」

2021年11月に行われたソロコンサート「寝ても覚めてもゆきりんワールド」(提供写真)

「神奈川県民ホールではまったく同じセットリストで、アコースティックバージョンに変えたんです。歌に振り切ってファンの方に満足してもらえるかなって思っていたんですけど、意外と『良かった』と言ってもらえて、こっちもありなんだなと思いました」

「だからこの2日間は、私がやっていきたい二つのことを提示した公演。今後の一つの道として、もちろんアイドルに軸はおきながらも音楽的な表現をやってみたい。今後は今以上に、歌にも力を入れてやっていきたいです」

2021年11月に行われたソロコンサート「寝ても覚めてもゆきりんワールド」(提供写真)


感じていたギャップ

"素の自分"を見せる理由

"ソロ活動"といえば、YouTubeチャンネルも話題を呼んでいる。

すっぴんを披露したり、アンチコメントに反論したりと、垣間見える"素の柏木由紀"が支持を集めている。

「YouTubeを始める頃、"本当の自分"と"メディアを通して見られる自分"にギャップがあると感じていて。本当は言いたいこともあるし、中身まで完璧なアイドルだとは思っていないんですけど、"アイドルぶっている""ぶりっ子"とかよく言われていて…」

「だからYouTubeをやるなら、"素の柏木由紀"を見せる場所としてやっていきたいと最初に決めていました」

「ファンじゃない方にも見ていただいたり、YouTubeがきっかけで握手会に来てくれる方も増えたり、こんなに広がると思っていませんでした」

「しかも、ただただ自分を見せているだけ。それを受け入れてもらえたのがすごく嬉しくて、YouTubeを始めてから前向きな気持ちになりました」

「あと、今後はAKBに還元したいです。この2年くらいで人となりを知ってもらえたと思うので、グループのことをもっと発信していきたいなと思っています」


グループでも、ソロでも、さらなる活躍を期待させる柏木。

気になる今後について、具体的に決まっていることはないという。

「全然将来設計しないタイプなんですよ。いつ卒業するのかとか、どういう活動を10年後していくかとかは何にも考えていないんです」

「ただ、今やっていることが楽しいっていうのは事実。だから今後も型にとらわれず、とにかく楽しそうなことをいっぱいやっていきたいなと思っています」


Staff Credit

Text: 橋本嵩広(LINE)

Photo: 黒羽政士

Movie: 二宮ユーキ

Edit: 前田将博(LINE)


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