ロクデナシだけど憎めない!漫画家・あだち充を生んだ兄を描く『あだち勉物語』

あだち充さんの「ダメ兄貴」と言えば…

コロナによりステイホーム真っ只中の2020年、突如、30年ほど前に世に出たある漫画が再発見されてしまった。

その名は『連ちゃんパパ』(著/ありま猛)。パチンコをテーマにした漫画雑誌『パチプロ7』でかつて連載していた漫画だが、とにかく内容が凄まじかった。

清々しいクズっぷりの主人公にはモデルが…

ある日、主人公である高校教師の日之本進の妻がパチンコで300万円の借金を作ったまま、旦那と幼い子供を置いて失踪。進は妻を探す旅費を稼ぐためにパチンコにトライするも気持ちよく自分自身もパチンコ沼にのめりこみ、人生ダークサイドに突入。果てには、自らを借金取りの片棒から、地上げと悪事の連鎖に身を持ち崩していく、という…。

このストーリーを『パチプロ7』に連載していた事実もどうかしているが、これだけ救いようのない物語をホームドラマのような可愛らしい絵柄と『連ちゃんパパ』なる、うっかりオジサン並のほのぼのタイトルで連載していたインパクトによってSNS上では秒の勢いで拡散。

「狂っている」「ウシジマくんがいないウシジマくん」「読むストロングゼロ」と、一時期僕のタイムラインが、困惑と賛辞が入り混じったコメントで埋め尽くされたものだ。

しかしさらに驚く情報として、作者のありま猛さんのインタビューによると、この日之本進には実在のモデルがおり、それがなんと、あだち充さんのお兄さんだというのだ。

清々しいまでのクズっぷりを発揮している主人公・進のモデルが、あの『タッチ』『みゆき』『H2』の著者であり、"青春ラブコメ"の帝王である、あだち充先生の兄だったとは…。しかも、かつては弟を上回らんばかりの天才漫画家だったらしい。

あだち充は、兄と真反対のことをして成功?

俄には信じがたい話であるが、このたび作者である、ありま猛さんが満を辞してその人物を主人公にした漫画『あだち勉物語 〜あだち充を漫画家にした男〜』を描き始めているので是非ともご紹介したい。

『あだち勉物語 〜あだち充を漫画家にした男〜』1巻表紙 ©️ありま猛/小学館

本書のタイトルどおり、漫画家としてのあだち充先生を生んだのはこのお兄さん、あだち勉さんである。

この勉さんも、もとは漫画家で、しかも高校生でプロデビューするぐらいの天才的な才能の持ち主。弟の充さんは力ずくでそのアシスタントをやらされていたことから、漫画界デビューすることになる。

「少年サンデー」で連載していた勉さんの『タマガワ君』©️ありま猛/小学館

しかしある時、勉さんは、弟の圧倒的な才能に打ちのめされたからなのか、はたまた単に面倒くさくなったからなのか、赤塚不二雄さんのチーフアシスタントを経て、その後、弟である充さんのマネージャーに転身。2004年に亡くなる直前まで、弟の充さんを支え続けることになる。

勉さんがどんな人かと言うと、弟の充さんのイメージが「スマート・爽やか・穏やか」に対してお兄さんは正反対。一言でいうと破天荒でデタラメ。飲む打つ買うの三拍子がそろった遊び人であり、「あだち充は、お兄さんと真反対のことをしたから漫画家として成功した」っていう人もいるほどだ。

そして本作でも、主に酒とパチンコと麻雀しているシーンしか出てこない。しかも、ありま猛さんならではの、ほのぼのとしたタッチで。

弟子のありま猛さんも麻雀、パチンコ沼に引きずり込まれたという ©️ありま猛/小学館

だがしかし、このあだち勉さんは、いろんな人に迷惑かけながらも憎めない、愛すべき好人物であったことは間違いなく、作者のありま猛さん曰く「人たらしで淋しがり屋で、予測不能で大きな子供…好物は人が困ること どれだけの人が迷惑被ったことか。だが迷惑かけられたことを皆、楽しそうに話する。それが我が師匠、”あだち勉”です」とのこと。

赤塚不二夫と一緒にイタズラ、ギャグマンガのような人物

象徴的なエピソードとして、勉さんが赤塚不二夫さんのアシスタントをやっているときに、赤塚さんとグルになって編集者に仕掛けたイタズラが描かれている。

70年代の赤塚不二夫といえば超人気作家。彼が逃げないように複数の編集者がほぼ24時間、彼の家に泊まり込んで原稿があがるのを待ち続けているのだが、ある夜、「週刊少年マガジン」の編集者が赤塚さんの『天才バカボン』の原稿の受け取りに遅れて現れたそう。赤塚さんのスタジオには誰もおらず、書き置きと共に置かれていたのが、少年誌にはとても載せられない(青年誌でも)猥褻すぎる原稿。

締め切りもとうに過ぎ「これ以上は待てない!落ちる!」と極限状態に陥っている中、戻ってきた赤塚さんたちに「パパとママのセックスシーン少年誌に載せられる訳ないでしょ!!」と描き直しをお願いするも、赤塚さんは「イヤだ。作家としてこれは譲れない!」と頑な…。

ついには『天才バカボン』を降りると言い始めた赤塚さん ©️ありま猛/小学館

原稿を破られ、編集者が慌てふためき「バカ塚担当 辞めたるー!辞めだ!!辞めだ!!!」と自我崩壊した直後、赤塚さんと勉さんがゲラゲラ笑い出し、破った原稿はニセ原稿だったことを種明かし。しかもこのイタズラ、勉さんが発案したのだとか。

まさに、生き方そのものがギャグマンガのような人物なのだ。

コメントを寄せている充さんによると実際のロクデナシぶりは5割増しだとか…©️ありま猛/小学館

妄想せずにはいられない、不朽の名作のあの設定

そんな勉さんだが、弟の充さんは「バカあんちゃん」と言いながら、最後まで慕っていたそう。

「あだち勉を偲ぶ会」での充さんのメッセージ©️ありま猛/小学館

ここからは僕の勝手な想像だが…あだち充先生の不朽の名作『タッチ』。

この漫画の設定が、なぜ兄の達也がダメ兄貴に描かれており、弟の和也がなんでもできる優等生に描かれているのか。

そして、最後に輝きを見せるのはどちらだったか。

もしかしたら、あだち充さんは勉さんを想いながら『タッチ』を描いたのではないか、そんな妄想までさせてくれる作品なのだ。