人間、自由、社会とは……? 「本当の心」について考えさせられる漫画『イムリ』

宿命に立ち向かう壮大なSFファンタジー

今回は、私の大好きな三宅乱丈先生のSF漫画『イムリ』をご紹介します。

本作は、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門において優秀賞を受賞している作品です。

三宅乱丈先生といえば、お寺を舞台にしたコメディ作品『ぶっせん』のイメージが強かった私。ギャグ漫画の先生だと、勝手に思い込んでいたので『イムリ』を読んで、作風の違いにびっくりしました。

まず、はじめにお伝えしておきます。

私の語彙力で、『イムリ』の世界観を説明するのは大変難しい!

「好きだけど上手く説明できない……だって、この想いを伝える言葉が見当たらないから!」という乙女心を抱いて、この文章を書いていると思って読んでいただけると幸いです。

やかましいわい!

『イムリ』1巻表紙 ©三宅乱丈/KADOKAWA

ふたつの惑星で繰り広げられる3つの民族の物語

本作では、「ルーン」と「マージ」というふたつの星が舞台になっています。

惑星ルーンは、かつて支配民族「カーマ」による大きな戦争がありました。最終的にカーマは星全体を凍結し、彼らは隣星であるマージへ移住します。

そこから4,000年が経った現在から物語が始まります。

惑星カーマで育てられた少年の物語 ©三宅乱丈/KADOKAWA

さらに『イムリ』の世界には、3つの民族が存在し、民族間での争いが物語のカギになっています。

カーマ……

支配民族。「侵犯術」という他者の精神をコントロールできる力を使って、身分制度を作り上げ、政治を行っている。

イコル……

奴隷民族。カーマの侵犯術によって奴隷化させられている。

イムリ……

かつてカーマと争った惑星ルーンの原住民。必ず双子で生まれ、お互いに夢を見合うことができる能力を持つ。

私は、漫画に出てくる「侵犯術」という他者の精神をコントロールできる力に最も惹かれました。

すべての生き物は「彩輪」というエネルギーを持っており、自らの彩輪を強化すると、他者の行動や精神を操れるようになります。それが「侵犯術」と呼ばれる力なのです。

©三宅乱丈/KADOKAWA

侵犯術にかけられた人は嘘がつけませんし、自分の意のままに他者を操ることも可能。最終的には意識を持たぬ奴隷にしてしまうこともできる恐ろしい力です。

そんな侵犯術のおかげで、社会の秩序が保たれていますが、カーマの世界では自分と同じ人間が、奴隷にさせられていることに誰も疑問を抱きません。

この「侵犯術」が日常的に存在して、社会を作りあげていることに、ゾッとしませんか?

主人公を悩ませる歪んだ社会構造

カーマの民であることを、誇りに思っている優しい少年「デュルク」が本作の主人公。

デュルクは、カーマの支配層である「呪師」になることを目指している学生です。学生の中でも、特別有能だったおかげで、惑星ルーンへの研修旅行へ行くことを許されました。

しかしそこで、隠されていたかつての戦争の記録や、カーマの民が作り上げた支配体制、さらには自分の出生にまつわる秘密を知ってしまい、デュルクは思い悩みます。

「本当の心」に気づいてしまったデュルク ©三宅乱丈/KADOKAWA

SF漫画と聞くと、宇宙船やらビームやら星が爆発……そんな単純なイメージを持っていましたが『イムリ』は、そんな固定概念をがらりと変えてしまいました。

この作品は、「本当の心」を描いた物語だと思います。

「人間ってなんだろう」「自由ってなんだろう」「人々が生きる社会ってなんだろう」と、あらためてそう問いかけられずにはいられないのです。

 

デュルクの悩みに、読み手も深く共感します。

どうして違う民族とはいえ、同じ生き物同士、ともに生きられないのか。

何を恐れて、何を守ろうとしているのか。

誰かの自由を奪ってまで守るものとは、はたして何なのか。

"双子"で生まれるイムリたちの運命

必ず双子で生まれてくるという「イムリ」という民族はお互いを「片われ」と呼び、分身のようにお互いを想い合い、片われに起きた出来事を夢で見合います。ふたりの絆は誰にも崩せないほど強いものです。

カーマの民であるはずのデュルクの夢にも謎の女の子が現れるが… ©三宅乱丈/KADOKAWA

双子にまつわるストーリーは、胸が締めつけられます。強く想い合うがゆえに、怒りや憎しみは恐ろしいほど悲しく感じます。

ただひとりで、ここに存在しているという寂しさ。それゆえに誰かの存在を求めてやまない人間の心の奥底にあって消えないもの。

そんな自分たちの根源を見せつけられるようなシーンもありました。

ずっと理解していたはずだった。この漫画に出会うまで……

私は『イムリ』を読んで、自分の心や行動を、抗えない暴力的な力で誰かに操作されてしまうことは、とても恐ろしいことだと、リアルに感じました。

デュルクも実の父親による「侵犯術」を受けていた ©三宅乱丈/KADOKAWA

頭では理解していたことを、心でも理解できたといいますか。

この作品を読んで「こんなに悲しくて恐ろしいことは、現実には起こらないよ。漫画だけのことだよ」とは、到底思えなかったのです。

人の心は危うく、私利私欲ゆえにいつでも間違えを起こしてしまう。

そんな私たちは、どうやって自分を守り、同じように誰かの自由を守れるのか。

そして、どうやって世界を築いていくのか。

ちなみに私は、24巻を何度も何度も、繰り返し読み、そこで大切な言葉を見つけました。きっとみなさんにとっても、『イムリ』は、大切な言葉を教えてくれるでしょう。

これからも、私は『イムリ』を読み続けると思います。そうやって、自分自身に刻み込んでいきたいと思う漫画なのです。