アクションも痛快!史実を巧みに織り交ぜた『満州アヘンスクワッド』

TVODパンス 漫画と史実から読み解く昭和日本のミステリアスな側面

前回は『風太郎不戦日記』をもとに、戦時中の東京、日本の本土においてはどんな日常が存在したのか、というレビューを書いた。それより少し前、1930年代の、日本の外、そして日本が実質的に支配していた満州を舞台としたコミックに触れてみたい。といっても、今回はあくまで史実を織り交ぜたフィクションである。

1932年、中国東北地方に「満州国」の建国が宣言される。よく知られている通り、この国は日本による中国支配の基点となりえる、傀儡国家として成立したものだ。歴史の教科書でもおなじみだが、それは決して古い出来事ではない。

僕はいま38歳だが、同年代だと、祖父や祖母が当時満州に住んでいて、終戦後に引き揚げてきたという話もちらほらと聞く。リアルタイムで当時を知っている人は現在も数多いのだ。そんな距離感ゆえ、あまりマンガの題材にされることはなかったと思う(ちばてつやや赤塚不二夫など、当時満州にいた人による回顧などはあるが)。

アヘンをめぐり抗争を繰り広げる『満州アヘンスクワッド』

そこで出てきたのが『満州アヘンスクワッド』。満州でしかもアヘンがテーマ、そしてどうやらエンターテインメント作品のようなので、あまりに荒唐無稽な物語だとセンシティブな問題も発生するのではないかと、一抹の不安を感じながらも手に取ってみたら、その危惧は良い意味で裏切られ、夢中で読み進めてしまった。

『満州アヘンスクワッド』2巻表紙 ©️門馬司/鹿子/講談社

端的に表現するなら、タランティーノばりのバイオレンスとアクションに彩られつつ、ストーリーはかつての「少年ジャンプ」のような活劇もの。二つが入り混じり高速で展開しながら、史実はしっかりと押さえている。

物語は満州に駐留する関東軍(大日本帝国陸軍の一つ)に所属する一兵士、日方勇から始まる。上官からのシゴキを受けた挙句、戦闘で負傷したため軍の食糧を作る農業義勇軍に配属された日方だったが、とある事情から大金が必要になり、そしてアヘン農園を発見する。

莫大な金を生み出すアヘンの販売は、中国のアウトローによる秘密結社・青幇(チンパン)と関東軍が取り仕切っており、日方は発見したアヘンを金にするために青幇に接触。取引の現場にいた女、麗華は、日方の持つ極めて上質なアヘンの販売を商売にするために日方と手を組み、自らの父親がボスの一人である青幇からドロップアウトする。

麗華は組織の呪縛から逃れるために日方と手を組むことを選択『満州アヘンスクワッド』1巻より ©️門馬司/鹿子/講談社

そこからアヘンをめぐり、彼らは青幇、関東軍、さらにはロシアン・マフィアまで参入する抗争に突入していく。

はぐれ者が続々…満州の史実を浮かび上がらせる巧みな展開

日方や麗華がアヘンの密売を繰り広げる中で、仲間も加わっていくのが少年漫画的である。日々抗争が巻き起こるわけだが、単に密売をめぐる争いだけでなく、それぞれに複雑で辛い過去を抱えた仲間たちの執念や義理が関わってきて、情報量が多いのだがスピーディーに読ませてくれるのはさすがの手腕。

仲間の構成はモンゴル、ロシア、中国、日本とインターナショナルな構成になっており、それが当時の満州の民族構成とリンクしてもいるのだ。そして、総じて皆、それまでいた場所からドロップアウトしているところも特徴。

加わった仲間はそれぞれの持ち味をいかして抗争に関わる『満州アヘンスクワッド』6巻より ©️門馬司/鹿子/講談社

はぐれ者たちが複雑な満州の社会を相手に戦うが、そもそもアヘンで成り上がろうとしている時点で「正義の味方」ではないのが物語に深みを与えている。むろんフィクションなのだが、彼らはぐれ者たちが位置付けられることによって、満州のこの時代の史実が浮かび上がってくるような、巧みな展開になっている。

実在の人物をモチーフにしたキャラクターも

史実と照らし合わせながら読むのもいいだろう。物語に出てくる里山柾という人物のモチーフは里見甫。関東軍と結託してアヘンを取引していた実在の人物だ。

里見甫と同じく阿片王と呼ばれる里山柾『満州アヘンスクワッド』3巻より ©️門馬司/鹿子/講談社

彼も含む「満州人脈」を追っていくと、かつてアナキストの大杉栄を殺害した甘粕正彦や、満州の産業開発を実施した岸信介など、見知った名前がたくさん出てくる。のちに岸が首相になるのはご存知の通りで、戦後日本の保守勢力にも通じる水脈がある。

記していけばキリがないのでおすすめ書籍を挙げておくと、太田尚樹『満州裏史 甘粕正彦と岸信介が背負ったもの』、佐野眞一『阿片王 満州の夜と霧』などを参照されたい。陰謀論ではない、昭和日本のミステリアスな側面を知ることができる。