『パターソン』のアダム・ドライバーが、どんな映画の主人公よりも幸せに見えるのはなぜだろう

映画と愛犬が教えてくれた"生活の愛し方"

『パターソン』を観たのは、コントを作っていた時だった。

ジム・ジャームッシュ監督の新作で、アダム・ドライバー主演の映画って聞くだけで観たくなる。

『パターソン』Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

初めてアダム・ドライバーを認識したのは『スターウォーズ/フォースの覚醒』(2015)のカイロ・レン役。少し影のある演技が印象に残っていた。

だいたいコント作りに煮詰まると映画を観る事が多い。今までも何本かコント作りの参考にしたが、『パターソン』もそのひとつだ。映画に出てくる「ある日本人」をモチーフにコントを一本作った。

設定は全然違うけど、『パターソン』からヒントをもらった

そのキャラクターがやたら言う「アーハー」という発音が面白くて、コント衣装も同じようなものを用意した。詩人のフリをした変態詐欺師が登場するコント。映画に出てくるキャラクターは全く違うんだけどね。

生まれ育った街と同じ名前を持つ主人公

この映画は、アメリカのニュージャージー州パターソン市に住むバス運転手のある一週間のお話。

一日が17分くらいで描かれ、月曜から火・水・木……と進んでいく構成になっている。

このバス運転手の名前がパターソン。パターソン市に住むパターソンさんが主人公。

パターソンは、バス運転手をしながら詩を書いている。

毎朝6時過ぎに起きて、シリアルを食べ、妻ローラから今朝見た夢の話を聞き、キスをして仕事へ行く。

『パターソン』

Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

バスの運転をしながら、乗客の何気ない会話に耳をすませてそっと微笑む。

昼には、滝を見ながら妻の作ったご飯を食べ、合間に詩を書いたりする。

家に帰り、妻と食事をとりながら今日あったことを話し、愛犬ブルドッグのマーヴィンと夜の散歩をする。途中で馴染みのバーに寄り、ビールを飲んでマスターと話をして、帰って必ず妻と一緒に寝る。

こんな毎日が一週間繰り返えされていく。

何気ない日々にこそ面白さが隠れている

淡々としているといえば淡々としている。『スターウォーズ』と比べたら何も起きない映画ともいえるかもしれない。

何気ない毎日。でもパターソンは、どんな映画の主人公よりも幸せそうに見える。

パターソンに足りないものは何もない。愛する妻がいる。犬もいる。仕事がある。話ができる仲間がいる。そして詩を書くという趣味もある。他に何もいらないのかもしれない。

『パターソン』

Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

繰り返される毎日だけど、必ず面白い事は起きる。例えば、妻が「双子の子供が生まれて一緒に暮らす夢を見たわ」と言った日から、街なかでいろんな双子を見かけることが増えるみたいな、ちょっとした些細なこと。とても個人的で面白い。

誰かを笑わすわけではない、ひっそりとした面白さを見つけられる目線さえあれば、すべて愛おしくなるものだ。

どれだけ似ていても決して同じ日はない。詩人は、日々の中に喜びを見つけては、言葉としてその瞬間をスケッチしていく。象徴的に何度も映るパターソン市の滝。同じようにそこにあるけど、決して一緒ではない。

まさに、『方丈記』の「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。 よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」だ。

パターソンは、その生活を愛している。詩を発表して有名になろうとも思っていない。都会に行って何かしてやろうとも思っていない。生まれた場所で仕事を見つけて生活をしている今を愛している。

愛犬がいる、それだけで幸せなんだな

この映画では、滝と同じように愛犬も大事な登場人物として描かれているんだけど、まさに犬から教えられる幸せを描いているようにも見えた。

主人公の愛犬マーヴィン 『パターソン』

Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

僕もパターソンと同じ家族構成で、妻と犬と三人で暮らしている。

今年、詩ではないけど犬について本を書いた。

本のタイトルは『うちの犬がおじいちゃんになっちゃった 愛犬こぶし日記』(カンゼン)

本には、犬を飼っていると起こる事件をまず書くことにした。

例えば入院したり、ご飯を勝手に沢山食べちゃったり、大事な物を壊されたり……。

でも、そんなに大きな事件が沢山あるわけではないから、すぐに行き詰まってしまった。

そこで、犬と暮らす幸せってなんだろうと考えてみたら、書くほどじゃない日常こそが幸せなんだなと気づいた。

これってパターソンと同じだ。

犬の生活も同じことの繰り返し。朝起きてご飯を食べて、昼寝して遊んで散歩して、夜ご飯を食べて寝る。ご飯も散歩も、いつやってあげても100%嬉しそうだ。そんな犬の姿を見て僕も幸せになる。

犬を見ているとご飯が食べられて、眠れるところがあって、運動する元気と仲間がいれば、それだけで充分幸せなんだなと気付かせてくれる。それがわかったらあっという間に書けてしまった。

そんな幸せを描いていた映画だったんだなと、今回の文章を書くために見直してみて改めて気付いた。

一見すると変わらないように思える日々から、丁寧に面白さを見つけ出して生きていきたい。

『パターソン』を観ると、そう思う。