ウェブトゥーンのヒットは必然?歴史から紐解く、スナックコンテンツが受容された理由

環境に適応することで生まれた、スマホのためのコンテンツ

縦スクロール型のスマホ対応マンガ、「ウェブトゥーン(Webtoon)」。多くの人に親しまれている一方で、ウェブトゥーンは、見開きマンガに比べると内容が浅い、深みがない、「スナックコンテンツ」と呼ぶ人もいる。スキマ時間で楽しめるコンテンツなのだから、その意見に僕自身も反対するわけではない。

では、ウェブトゥーンを作っているクリエイターたちの技術が未熟だったり、幼稚だったりするのだろうか?僕は、そうは考えていない。

人の能力は変わらずとも、環境によって変化していく。昔のマンガ家と今のマンガ家の能力にも、大きな差はない。違うのは、環境だ。

この連載は、マンガ編集者である僕が、ウェブトゥーンについて語るのがテーマだ。今回はなぜウェブトゥーンがスナックコンテンツ的であるにもかかわらずヒットしているのか考えてみたい。

貸本マンガとアニメーションが生んだ、日本の見開きマンガ

人のことを知る時に、その人のことだけを観察していてもわからない。その人の周りにいる人も一緒に観察してやっとわかる。場合によっては、親を見る方がその人がよりわかる時もある。では、日本で主流の「見開きマンガ」の親は誰になるのだろうか。

見開きマンガの親は、貸本マンガだ。貸本マンガは、単行本として一冊にまとまった形で発売され、「貸本」という形でレンタルされたことで、終戦後、多くの人に親しまれた。その後、週刊マンガ雑誌が発売され、週刊連載が主流になるにことで日本のマンガは発展していった。

ところが、週刊連載は、コンテンツが細切れで、ヒキが強くないと読み続けてもらえない。だから、どんどんヒキが強いマンガが増えていった。貸本マンガを知っている世代はその様子を見て、週刊マンガが幼稚だと嘆いた。今、ウェブトゥーンに起きているとの全く同じことが、50年前にも起きていた。

当時のマンガ家たちは、小説家たちよりも価値がないものを作っていると社会からみなされていた。そのため、貸本でマンガを読んで育った人たちが、文学をライバルと感じながら作ったのが週刊連載マンガだった。その上、週刊で、読者の興味を引きつけないといけない!そう考えて、刺激的な展開をしながらも、マンガを社会に認めさせるために文学的要素をマンガに取り込んだ。手塚治虫の『ブッダ』や『火の鳥』は、そんな風にして生まれていったのだ。

もうひとつの親が、アニメーションだ。貸本が広く普及した1950年代、日本でもディズニー映画が公開され、その品質は多くの人を驚かせた。前述の手塚治虫はディズニー映画を愛好しており、その影響はいくつもの作品で見ることができる。手塚以外の多くのマンガ家たちも、ディズニーの影響を受け、作品を創り上げていった。

貸本とアニメーションという親、文学というライバルがいて、日本のマンガは育っていった。マンガ家たちの才能だけで、これだけの優れたマンガが出来上がったわけではない。土壌と環境があったのだ。

見開きマンガを親とした日本のウェブトゥーンにも変化の兆候?

では、日本のウェブトゥーンの親とライバルは誰なのか。

もちろん親は、日本のモノクロ見開きマンガだ。そして、ウェブトゥーンのライバルは、スマホの中の他のアプリだ。SNSもYouTubeもTikTokもNetflixも ソーシャルゲームも、みんなライバルなのだ。ライバルたちは、忙しい現代人のスキマ時間を狙っている。1分だけ、暇な時間がある時に、どのアプリを開いてもらうのか。そんな時にコース料理のような重厚長大な作品を出せば、読者の期待を裏切ることになってしまう。コース料理の内容に問題があるわけではない。その場に相応しい分量であることが大切なのだ。

『女神降臨』©yaongyi/LINE Digital Frontier(左)

『喧嘩独学』©PTJ cartoon company・金正賢スタジオ/LINE Digital Frontier(右)

『喧嘩独学』でも『女神降臨』でも、ウェブトゥーンの代表的な作品を読んでみてほしい。1話を読むのに2分ほどしかかからないはずだ。同じように日本のマンガの1話を読んでみてほしい。3分から4分かかるものが多い。もしも、2分で読もうとしたら、内容を捉え損なってしまう。

異なった環境で育った親(見開きマンガ)からすると、スナックコンテンツは、安っぽい、価値がないものにみえる。しかし、子からすると、スナックコンテンツは、ライバルと闘える、誇りを持てるものなのだ。はたして、子は親を乗り越えることができるのだろうか。

一方で、韓国で生まれたウェブトゥーンが急激に日本に入ってきている。こうした状況を受けて、日本の見開きマンガを参考にするのではなく、韓国のウェブトゥーンを参考にしたスナックコンテンツが大量に作られようとしている。

今後、韓国のウェブトゥーンを親として作られたスナックコンテンツが、日本の見開きマンガをライバルとした時に、どんな子が育っていくのか。きっと、見開きマンガを親とする日本のウェブトゥーンとは、また違う形で成長していくはずだと考えている。

今、日本でウェブトゥーンを作っている人たちは、ゲーム会社出身の人たちだ。編集者の人数が少なくて、流動性が少ない。だから、ゲーム会社の人たちが独自のやり方で試行錯誤している。日本のウェブトゥーンは、まさに今、どんどん進化してきている。