今回、紹介するのは、ティム・バートン監督の『ビッグ・フィッシュ』。私の好きな映画のひとつです。
出会いは20代前半でした。
自分自身の人生を面白おかしく、おとぎ話のように語るエドワードと、そんな父親に「ホラ話ばかりで現実を見ていない!」と嫌気が差している息子ウィルの物語です。
映画はエドワードが病に侵され先が長くないことが分かるところから始まります。
おとぎ話の場面はティム・バートン監督の独特な色彩美の世界で描かれ、現実の弱っていく父親と息子のシーンはリアリティーのある映像で描かれています。
エドワードの話にはユーモアと知恵がたくさん詰まっていて、彼はまさに夢の世界の主人公。
魔女から知った自分自身の死に方、謎の病気で3年間寝ていたという過去、巨人との出会いや嘘みたいな美しい町に迷い込んだこと、体がひとつにつながった双子、一目惚れした女性のためにサーカスで3年間タダ働きした話など……、どんなおとぎ話でも、聞いている人を楽しくさせ、幸せにしてくれます。
映画を観ている私自身も一緒におとぎ話を聞いている気持ちになり、どんどん話にのめり込んでいきます。
ホラ話でもいいじゃない。川村家の父は物静かなんです…
私の父親は寡黙な人で、小学4年ごろに「両親の仕事」がテーマの授業で父親に仕事の話を聞くまで何をしている人なのか全く分からず、「もし悪いことをしていたらどうしよう」、「朝のニュースで凶悪犯として顔が出たらどうしよう」と不安に思っていたくらいでした。
蓋を開けてみたら公務員で、ただひたすら毎日仕事に行っていたことが分かり、安心したことを覚えています。
寡黙な父親を持つ私にとって、『ビッグ・フィッシュ』に出てくるおとぎ話をしてくれるような、周りの皆を幸せな気持ちにさせてくれる父親を持つウィルが羨ましくありました。
エドワードの話はどれも人に話したくなるような話ばかりで、息子さんにちゃんと伝わったらいいなぁと思う気持ちと同時に、子供の立場としては近くにいる親のありがたさが見えなくなることってあるなぁとも感じます。
芸人になりたての私に大事なことを教えてくれました
私が『ビック・フィッシュ』を初めて観たのは、芸人を始めたばかりの頃だったかと思います。
将来の不安やら家族のありがたみやらを感じて生活している真っ只中で、米や野菜などたくさんの食料や母が作ってくれた巾着袋が入った段ボールに感謝していました。父からは毎年夏頃に「公務員試験の願書」が届いていました。
父が送ってきていた公務員試験の年齢制限は30 歳までだったため、私がその歳になるまで続きました。一緒に送られてきた「まだ間に合います」の一言が心に突き刺さっていました。
でも『ビッグ・フィッシュ』が、寡黙な父には寡黙な父なりの優しさがあることを気づかせてくれました。
感動のラスト。そして私は電話を手にとります
映画の終盤、病院でエドワードは「わたしの最期の話をしてくれないか」とウィルに頼みます。
ウィルが父のように想像を膨らませながらホラ話を語り始める場面から、エドワードのお葬式でウィル自身が真実に気付くまでのラストシーンは涙が溢れました。とても好きなシーンです。
生きている時に親孝行しなくちゃ! と心から思わせてくれます。
『ビッグ・フィッシュ』は DVD を持っていまして、年に一回くらい観直しております。
『ビッグ・フィッシュ』を観ても、『ビッグ・フィッシュ』をこうやって思い返しても実家に連絡したくなります。
それでは、そろそろ電話したくなってきたので今回はこの辺で、です。