休みがとれたら、Netflix鑑賞にあてる人は多いだろう。同社の人気作の多くは、ポップで観やすい。それでいて、予想外で刺激的な側面、鑑賞後の考察をうながす深さも携えている。
それは、2022年にトップヒット 作でも同様である。ドラマに映画、ドキュメンタリー……今回紹介する3作は、ある種、硬派な内容を求める人にこそ観てほしい社会派作品だ。
ミステリー、ファンタジー、学園もの… 多彩な魅力盛りだくさんの『ウェンズデー』が大ヒット
日本でも話題のドラマ『ウェンズデー』は、今年のポップカルチャーを代表する作品だ。
Netflixでは、1週間で4億時間の累計視聴時間を達成した初の英語作品となった。
『ウェンズデー』大ヒットの理由は、ポップな見やすさにあるだろう。ティム・バートンが 監督し、『アダムス・ファミリー』シリーズの人気キャラクターを主人公にした本作は、ゴシック版『ハリー・ポッター』のごとき学園ドラマ。
「のけもの」と呼ばれる異能力持ちの生徒たちを育成する寮生学校ネヴァーモア・アカデミーには、人狼族やセイレーンなど個性が満載の生徒がつどう。
校内では、友情や敵対のみならず、多くのロマンスの可能性も交差する。それに加えて、メインストーリーは殺人事件。 ファンタジー、コメディ、学園、恋愛など、多様なジャンルの魅力も詰め込まれ、 『アダムス・ファミリー』ファンから新規の視聴者までどんな世代 でも楽しめる一品だ。
社会・歴史的問題も作品を楽しむ鍵に
気楽に観られる作品ながら、社会、歴史的な問題も鍵となっている。
残酷なことが大好きで皮肉屋な主人公、ウェンズデーは、持ち前の毒舌によって(劇中、学園のある村で歴史的な人物として称賛される)ピルグリム・ファーザーズが行った暴虐を指摘する。
これは1993年映画『アダムス・ファミリー2』の有名シーンと地続きだ。
旧昨版ウェンズデーも、出演した演劇でとりあげられた感謝祭の血塗られた歴史を糾弾し「ポカホンタス」役として入植者たちに火をつけていった。
クリエイターいわく『アダムス・ファミリー』の芯のひとつは「移民家族の寓話」だ。『ウェンズデー』にしても、旧作におけるラテン系キャスティングを重んじるかたちで、主演にラテン系のジェナ・オルデガを選出している。
「のけもの」の学生たちがマジョリティから受ける差別も鍵になっているため、マイノリティ問題を描くファンタジードラマとしても観ることができる。
ただし、それでも『ウェンズデー』は鑑賞しやすい作品だ。機能不全家庭の物語が多い印象のあるアメリカのTVドラマ界において、本作は「ちがいを認めあう健全な家族像」を一貫させるプロジェクトとされた。
孤独を好む主人公は、学友のみならず両親とも問題を抱えているが、そんな彼女があたたかい人々に囲まれて成長していく健全性こそ、Netflix的な「ポップな刺激」の魅力を担っている。
アメリカ社会の政治的分断に挑戦する『パープル・ハート』
2022年、大ヒットしたのが映画『パープル・ハート』だ。巨額の制作費を投入された大作ではないにもかかわらず、リリース後1週間で1億時間再生を達成するNetflix映画の新記録を打ち出してみせた。
ジャンルとしては、王道のラブロマンスだ。音楽スターを夢見る女性が、海兵隊員の男性と偽装結婚し、それぞれスターダム、戦地へと向かいながら愛をはぐくむ。
ディズニー出身の歌手ソフィア・カーソン主演の本作はライブシーンが豪華で、米軍の協力によりアーミー描写も本格的。『アリー/ スター誕生』と『トップガン マーヴェリック』をいいとこどりしたような一作だ。
しかし、記録級ヒットを達成した理由は、Netflix作品らしく視聴者の間で物議を醸す内容だったことにある。
本作のカップルは、政治的に敵対しているのだ。主人公キャシーは、人権意識が高いフェミニスト。相手役のルークは、彼女を「汚れ仕事をせず平和や権利を語るだけの偽善者」と考え、保守派として反論していく。
つまり、リベラル派の視聴者は女性主人公、保守派は男性主人公に共感しやすいようになっている。
党派敵対が深刻なアメリカでは、イデオロギーが異なるファンが議論を重ねていった。
そんな二人がなぜ偽装結婚に至ったかというと、軍の給付金でお互いの経済問題を解決するため。相性最悪な二人は、イデオロギーをめぐって口論しながら、理解を深めていき、惹かれていく……つまり、これは今日の 政治的分断に挑戦するラブストーリーなのだ。
鑑賞者のうち、多くのリベラル派はキャシー、保守派はルークに共感するだろうが、だんだんと二人の愛を応援するようになる。
政治に関心がある人にも勧めたい一品だ。
刺激的ドキュメンタリー『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』
刺激を追求する人には「恋愛ドキュメンタリーの『ジョーズ』」と評された『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』がいいだろう。
リリース後4週間で1 億視聴者数を達成した本作は、Netflixでもっとも人気のドキュメンタリーとしての記録を打ち立てた。
題材は、日本社会でも問題化している「ロマンス詐欺」。
デートアプリで出会いを求めていた女性たちは"ダイヤ富豪の王子"とマッチングし、初デートでプライベートジェットやロールスロイスに乗せられる。
ゴージャスな彼にすっかりゾッコンになるわけだが、やりとりをするうちに「宝石ビジネスで危険な目に遭っている」というSOSが流血写真とともに届き、お金を請求されるようになる。その男は、世界中を飛び回りながら女性たちから金をだまし取る凄腕の恋愛詐欺師だったのだ。
没入感たっぷりの114分で"万が一"への備えを
このドキュメンタリーのヒット理由は、映画的なエンターテインメント性にある。女性たちが夢のような「王子」に夢中になっていく前半では、マリリン・モンローの映像が引用されるなど、ロマンスムービーのようなトキメキの演出が散りばめられている 。
しかし、だんだんと状況は不穏になっていき、サイコスリラーへと変化。勇気あるジャーナリストも登場し詐欺師との闘いを繰り広げる。映画化の決定も納得の没入感を与えてくれるのだ。
ちなみに、Netflixのウェブページでは、専門家によるロマンス詐欺被害防止策も紹介されている。
曰く、オンライン恋愛をする場合、推奨されるのは、感情がヒートアップする前に直接会うこと。ビデオ通話では偽装される可能性がある。情報審査が厳しい有料マッチングサービスのほうが安全である。
対して、無料SNSは詐欺師が好む活動場だという。要注意なのは強引に迫ってくる者、金持ちや有名人を名乗る者、「あまりに良い人そうな者」……。
今では当たり前になったオンライン交流には、危険がいっぱいだ。
万が一にそなえて、観ておくべき刺激作が『Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む』だろう。