ユーモアを交えつつ冷静に描写…相原コージ氏が描く「うつ病」で漫画が描けなくなった体験

まずはとにかく休養してほしい

2022年11月1日、れいわ新選組の不定期会見が開かれ、冒頭、代表の山本太郎参議院議員より水道橋博士参議院議員の休職が伝えられた。理由は「深刻なうつ状態」だという。

水道橋博士とは今年の参院選出馬以来、しばらく連絡をとりあっていなかったが、僕は10年以上もの間、水道橋博士が編集長を務めるWEBマガジンの副編集長として仕えており、人としても敬愛する人物である。僕を「原カントくん」と名付けてくれたのも彼だ。

影響を受けた漫画家が「うつ病」に…

その日以来、自分もなんだか水道橋博士の不在に引っ張られていくように鬱々した気持ちになっていたところに、ネットでみつけた漫画が『うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編』。

『うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編』表紙 ©️相原コージ/双葉社

知らなかった。あの相原コージが「うつ病」でマンガを描けなくなっていたとは。

相原コージといえば、『コージ苑』『かってにシロクマ』『ムジナ』など、最先端のギャグで平成を突っ走っていた僕にとって特別な作家だ。

特に、竹熊健太郎氏との共著である『サルでも描けるまんが教室』(通称『サルまん』)は、広告会社で働く僕にとって、ある種の教科書的な作品でもあり、今の仕事に多大な影響を与えてくれた一冊でもある。

「負の連想」に陥る模様をユーモア交えつつ冷静に描写

そんな相原コージ氏が、ケガやコロナ禍により「うつ病」を発症。精神的に追い詰められていくなか、家族に支えられつつもクリニックに通い閉鎖病棟へ至るまでの記録が本書である。

それにしても心の病は怖い。目に見えないだけに、何がきっかけになるかわからない。

相原コージ氏の場合、心を患う前兆は、家の階段を踏み外し右足を骨折したこと。骨折の後に続いたギックリ腰が完治した矢先にコロナ禍が発生し、半年近く家篭り生活を送っていたところ、眠れぬ日が続くことに。薬を処方してもらったはいいものの、今度は食欲もなくなり、以前のように満足なコンディションで漫画を描くことができなくなったという

『うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編』より ©️相原コージ/双葉社

そこからは、不安が不安を呼び、悪い方悪い方へ意識がつながっていく。散歩で外出した際に、何故か「自分は間違いなくコロナに感染してしまったに違いない」と確信するようになり、自分の見舞客との接触すらも拒むことになる。

最終的には「自分が死にさえすれば誰かにコロナをうつすこともない」というシンプルすぎる理由によって、最悪のシナリオに片足を踏み込みそうになるのだ。

『うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編』より ©️相原コージ/双葉社

相原コージ氏ならではの表現で「うつ病」というテーマを料理してくれているのだが、「面白いので是非!」と誰かに単純に薦めることもしにくい。そんな悩ましくも読み応え抜群の作品が本書だ。作品といっても、完全ドキュメンタリーなのだが。

しかし、さすがはベテランギャグ漫画家。ユーモアを交えながら自分が「うつ病」にいたるプロセスや、「うつ」というヤツの習性はなんなのか、を冷静に描いてくれている。

『うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編』より ©️相原コージ/双葉社

なるほど。「うつ」は、いわば「負の連想ゲーム」なのだな。同じ体験をしていても、突飛なほどに悪い方向に物事を連想していく様子が本書から見てとれる

うつ病は大人が一度は体験するもの?

プロインタビュアー吉田豪氏の著書で、『サブカル・スーパースター鬱伝』という本がある。

吉田豪・著『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)

「サブカル男は40歳を超えると鬱になるのか!?」というテーマで、リリー・フランキー、大槻ケンヂ、杉作J太郎、菊地成孔、みうらじゅん、松尾スズキ、唐沢俊一などなど、錚々たるクリエイターへのインタビューをまとめた一冊なのだが、この本のなかに、以下のような言葉がある。

川勝正幸:鬱って言葉がこのところポピュラーになっただけで、厭世観って言い換えれば、昔から大人の通過儀礼というか、文化系男子のたしなみですよね。

リリー・フランキー:鬱は大人のたしなみですよ。それぐらいの感受性を持ってる人じゃないと、俺は友達になりたくないから。こんな腐った世の中では少々気が滅入らないと。社会はおかしい、政治は腐ってる、人間の信頼関係は崩壊してる、不安になる。正常でいるほうが難しいですよ。

もしかしたら「うつ」というヤツは、程度の差こそあれ、大人が一度は体験するものなのかもしれない。

相原コージ氏も水道橋博士も、まずはとにかく休養してほしい。相原コージ氏の「サルまん」に続く「うつマン」、2023年には続く「入院編」が出るということらしいが、いつでも大丈夫。ゆっくり待ってます。