ハンパじゃない熱量で漫画を研究し尽くした、パロディ全開の『サルまん』

漫画を徹底的にイジり倒す「メタまんが」の傑作!!

とんねるずとパロディコントの時代

『サルでも描けるまんが教室』、通称『サルまん』を最初に読んだのは高校時代。のちに単行本も買いましたけど、「ビッグコミックスピリッツ」の連載で読んでました。連載がはじまったのは1989年なので、僕は16歳ですね。

「まんが教室」というタイトルの通り、章ごとに「基礎テクニック」から「ジャンル別傾向と対策」、漫画家デビューにあたっての「タイプ別編集者対策」まで、漫画にまつわるあらゆるノウハウをおもしろおかしく解説している漫画です。

連載当時は全3巻で刊行。改訂された上下2巻の「21世紀愛蔵版」が配信されています。

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』表紙 ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

しかも、そのひとつひとつが超具体的で、抜群におもしろいだけじゃなく、普通にめっちゃ参考になるのがすごい。例として描かれる絵はパロディ全開で、当時第一線で活躍していた、いろんな漫画家のタッチを再現しています。

この頃の自分は、まだお笑いをやろうとは思ってないですが、サブカルに傾倒していたので、パロディとかメタ視点は大好き。

お笑いで言うと、ダウンタウンの黒船は関東にも上陸していたけど、まだ爆発はしていない時代。埼玉県の高校生にとって、最強のお笑いはとんねるずでした。とんねるずは、漫才師とかのザ・芸人というより、お笑いタレントという感じで、世の中のあらゆることをパロディにしてコントをやっていたんです。

わかりやすいのは、仮面ライダーをパロディにした「仮面ノリダー」とかね。だから『サルまん』にも当然ハマりました。

あらゆる“漫画あるある”がここに!

「ジャンル別傾向と対策」のレッスンで解説されているのは、少年まんが、少女まんが、青年まんが、レディースコミック、ファミリー4コマ、幼年まんが、サラリーマンまんが、風刺まんが、麻雀まんが、ギャグまんが、動物まんが、エスパーまんが、学習まんが、PRまんが。……全部じゃん!

あらゆるジャンル漫画について、基本的な構造、絵の特徴、キャラクターの作り方など、類型とポイントが事細かに記されているのです。

ほかにも「持ち込み雑誌別攻略法」というレッスンでは、「少年ジャンプ」「少年マガジン」「少年サンデー」「少年チャンピオン」と、雑誌ごとの特徴がグラフ付きで1ページにびっしり書いてあり、ストーリー例まで載っているんですが、それがまーいちいち的確。​

桃太郎を題材に、それぞれの雑誌のカラーの違いを掲載

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

さらに、「タイプ別編集者対策」では、原稿を持ち込んだ先に待ち受ける出版社にいがちな編集者の特徴が丁寧に解説されています。

「元全共闘タイプ」「文芸くずれタイプ」「マン研出身タイプ」と、3つのタイプが紹介されていて、それぞれのビジュアルも、漫画家に言いそうなフレーズまで完璧。30年も前に描かれたものなので、さすがに時代を感じさせますが、今読んでも笑っちゃう。

タイプ別に用意すべきラストシーンまで網羅

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

芸術ほど手に負えないものはない

具体的なキャラクターの解説では、たとえば少年漫画に登場しがちな「メガネくん」。主人公とヒロインの陰で目立たない存在のメガネをかけたキャラクター。

メガネくんがいかに重要な役まわりかを解説

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

いるな〜。

なんならメガネをかけてなくても、主人公や敵の能力を解説したりするキャラクターって必ずいますもんね。『ジョジョの奇妙な冒険』でいう広瀬康一とか。ヒーローが読者の憧れであるのに対して、メガネくんの立ち位置は「“読者”そのものなのだ」と書かれています。納得。

「麻雀まんが」のレッスンでは、なにはともあれ「麻雀まんがは顔が命!!」と。その通りですよ。本気で麻雀の勝負を見たい読者はほとんどいないでしょう。キャラクターの顔しか見てない。

喜国雅彦先生の『mahjong まんが王』『mahjong まんが大王』なんて、麻雀雑誌で連載されていたのに、ナンセンスコメディですからね。麻雀ほぼ関係ない。

登場する「麻雀まんが」の作例、3つのハッタリが重要だという

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

このページでパロディにしているのは『麻雀飛翔伝 哭きの竜』でおなじみ、能條純一先生のタッチ。ちなみに、「青年まんが」のエロコメの解説ページは、当時流行っていた『ANGEL』とか『校内写生』の遊人先生のタッチです。​

あと、芸術をくさしているのもいいんですよね。ここでいう「芸術」は、商業主義に毒されず、人間の内面と真実を追求し、大衆に媚びない表現を追求するのだ、とか言っちゃう"あれ"です。

「芸術」を語り出した相原に、竹熊が体を張って喝を入れる

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

曰く<大ヒットまんが家を目指す過程で、お子様が「芸術」を口走ったら要注意。「芸術」は思春期の精神的ガンであり危険思想の中でも最も恐ろしいものです>と。いつの時代も、若気の至りで芸術を目指してしまうことほど手に負えないものはありません。

衝撃的な「イヤボーンの法則」

なかでも個人的に衝撃だったのが、動物の擬人化キャラクターの一覧と、エスパー漫画における「イヤボーンの法則」、そして「ネタの『使い勝手』とは?」という表ですね。

動物の擬人化キャラクターは、たとえばフクロウは物知り博士、ヤギは古老、マンドリルは村長、ハゲタカは殺し屋、といった感じで、動物にはそれぞれキャラクターがすでに決まっていると。絵で見るとそれがはっきりわかるんです。

動物の性格役割設定の一覧『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

「イヤボーンの法則」は、エスパー(超能力者)が敵に追い詰められて、「イヤァァア!」と悲鳴を上げると、髪の毛が逆立って超能力が発動、敵が「ボーン」と爆発するっていう。

潜在的エスパーが「イヤボーン現象」によって能力に目覚める流れ

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

この描写、何度見たことか。『AKIRA』とかもそうだし。映画でいうとホラー映画の『キャリー』とか『炎の少女チャーリー』とか。漫画だけじゃなく、すべての表現に通じているんですよ。​

「ネタの『使い勝手』とは?」の表は、まずネタの前提として「A ポピュラーなもの」と「B マイナーなもの」から出発して、そこから「A-1 最近知られたもの」「A-2 昔から知られているもの(普遍性が高い)」に分かれて、その先で「a 誰もまだ使っていない」と「b もう使われている」に分かれるっていう。これも漫画に限らず、すべての創作に言えます。

判断に迷うネタの良し悪しを類型化『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

未来を予言、ギャグが現実に

「ウケるエスパーまんがの描き方」に書いてあったことで印象的なのは、1960年代に白土三平を頂点とする「忍者まんが」のブームがあって(小説だと山田風太郎も流行ってましたよね)、それが現代では「エスパーまんが」に形を変えて受け継がれていると。

「忍者まんが」は「エスパーまんが」と「カンフーまんが」に二極分解されたと分析

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

努力がダサいと思われるようになった時代には、努力のいらない忍術=超能力がウケるって。そして、絵のタッチをかつての劇画っぽい感じではなく、アニメ絵にすべしと。って……これ思いっきり『NARUTO -ナルト-』じゃん! 現実を徹底的に観察すると、未来も見えてくるのです。

未来を予言といえば、「ウケる老人まんがの可能性」というレッスンでは、人口の多い団塊の世代が老人になる時代に備え、これからは老人まんがだ!ってことで、未来の「ビッグコミック」を模した「週刊ビッグオールド」の表紙が描かれているのですが、そこに『会長 島耕作』って載ってるんですよ。

『ゴルゴ13』の連載継続も予測している『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

『サルまん』が描かれた当時はまだ『課長 島耕作』ですから、当然“会長”はギャグとして書かれているのに、いまや現実に『会長 島耕作』ありますからね。ギャグが現実になっちゃった。

連載漫画がたどる運命も描く

「21世紀愛蔵版」の下巻は実践編です。上巻で漫画を分析して、練りに練った対策をもとに漫画の連載をはじめるという、連載内連載のスタイル。タイトルが『とんち番長』という漫画なんですが、連載漫画がたどる運命を的確に描いています。

架空の雑誌で連載、アニメ化されるほどのヒット作品になった流れが描かれる『とんち番長』

『サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版』より ©️相原コージ/竹熊健太郎/小学館

人気が出たら過去編を作るとか、逆に人気が落ちてきたら路線を変えるとか、キャラクターを増やすとか。人気があると連載を終わらせてくれない『ドラゴンボール』の「もうちっとだけ続くんじゃ」とかも出てきます。

ただ、ここまで漫画のノウハウを解明していても、ヒット作が描けるかって言ったら、そういうことでもない。やっぱりノウハウに沿った型通りの漫画は、ある程度までは人気が出たとしても、爆発的なヒットにはならないですから。そこが漫画でも映画でも、お笑いでも何でも、創作のおもしろいところなんですよね〜。

あの頃は漫画が手の届く範囲にあった

今回、久々に『サルまん』を読み返してみて、つくづく感じたのは、この時代は笑いに対してピュアだな〜って。今は売れ線を考えることはもちろん、どう見られるかってことばっかり考えちゃう。今のほうが「好きなものを描こう」って、言葉としては盛んに言われているのに、実際は全然そうなってない。

90年代はむしろ、ありとあらゆる漫画が手の届く範囲にあったというか。この時代、コンピュータで漫画を描く人ってあまりいなかったんですよ。早くから漫画を描くのにコンピュータを取り入れていた漫画家の山本直樹先生や奥浩哉先生だって、取り入れたのは90年代の前半と言われています。手描きの時代だったからこそ、こういう類型化もできたんだと思います。

よくぞここまで漫画を研究し尽くしたな〜と頭が下がると同時に、もう描くことなくなっちゃうんじゃないの?って、読んでいて心配にもなりました。とにかく漫画に対する熱量がハンパじゃないので、漫画に興味がある方はぜひ読んでみてください。全力のパロディに圧倒されること間違いなしです。​