大好きな映画があります。 きれいな気持ちを取り戻したくなった時、心が荒んだ時に触れる、私にとって処方箋のような映画。 それが、『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』です。 ©️武内直子・PNP・東映アニメーション 本作は1993年に劇場公開された、ご存知『美少女戦士セーラームーンR』の映画で、テレビシリーズの延長としてはもちろん、単独の作品としても非常に完成度が高いのです。 何よりあの壮大な物語が1時間におさめられているのが大変素晴らしいと私は思っています。 人間は無気力なとき、長時間集中して物語を追い続けられないものだと思います。 この作品は限られた1時間の中で、起承転結がしっかりしていて、消化不良もない。物語の構成がこれほど素晴らしい映画はなかなかないと思います。 孤独な2人の少年の再会の物語 ご存知ない方に向けてあらすじを簡単にお伝えすると、物語はセーラームーンこと月野うさぎのボーイフレンドであり、タキシード仮面でもある地場衛の幼少期から始まります。 事故で両親を失い、孤独の身となっていた彼は、1人で宇宙を漂流していた異星人の少年フィオレに出会います。 孤独を抱えた者同士、心を交わす2人でしたが、やがて別れの時がやってきて…その際に衛はフィオレへ薔薇の花を手渡します。 感動したフィオレは、「今度は僕が君のためにいっぱい花を持って帰ってくるからね」と誓い、地球を去ります。 そして時が経ち、衛のもとに再びフィオレが現れたのです。 ©️武内直子・PNP・東映アニメーション 『美少女戦士セーラームーンR』の映画でありながら、軸になるのは孤独な異星人と地球人、2人の少年の物語です。 少年時代の衛との約束を大切に覚えていて、それを果たしたい一心だったはずのフィオレですが、悪が彼の孤独につけ込み、取り憑いてしまいます。 そして、成長して居場所を見つけた衛
「好きな音楽は何ですか」と聞かれたとき、皆さんは何と答えますか? 今の世の中は多種多様なジャンルの魅力的な音楽に溢れていますが、流行りや時代に囚われず、最も“音楽”を感じる存在は何かと考えると、私は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(J.S.バッハ)だという結論に至ります。ご存知の通り、バッハは「音楽の父」。教科書や音楽室で何度もお会いした、あのバッハさんです。 「平均律クラヴィーア」の自筆譜 私は大学で音楽を専門に学んだ身ではありますが、今となってはそれほどクラシック音楽に造詣が深いわけではありません。 しかしながら、年を重ねるごとにクラシック音楽の魅力を再確認し、中でも、当時は分からなかったバッハの魅力を強く感じるようになりました。 大人になってから聴けば聴くほど、その音楽の仕組み、楽器の使い方、ジャンルの幅広さ…など、まさに今の世で重視されている多様性のようなものを感じつつ、一方矛盾するようですが、絶対的なものも同時に、私は感じるのです。 真面目で探究心の強さゆえに衝突していたバッハ 何がそれほど凄いのかはあらゆるところで語られているので簡単にお伝えしますと、オペラ以外のあらゆるジャンルを作曲し、美しい旋律と複雑な理論を兼ね備え、シンプルでありながら高度に作り込まれた楽曲の数々から、彼は物凄く音楽というものを追求した人であるということが伺えるのです。 バッハは、音楽一家に8人兄弟の末っ子として生まれました。幼少期から勤勉家として知られていますが、作曲家である兄の秘蔵の楽譜をこっそり持ち出して書き写したり、成人してからは演奏家や宮廷関係者との衝突を繰り返すなど、非常に真面目でありながらも情熱ゆえに強く突出した部分がありました。 教会の合唱隊に入りましたが、声変わりを機に楽器の演奏に取り組み、その数年後にはオルガン奏者として仕事を始めるなど、環境に応じて学ぶ力
こんにちは、フリーアナウンサーの松澤千晶と申します。 この度、漫画についてコラムを書くことになりました。 大好きな作品は数あれど、何か新しいものに触れたいと思い、軽い気持ちでクリックしてみたところ、のめりこむように読み終え、日夜そのことしか考えられなくなってしまった作品があります。 それがこちら、ドラマ化もされ大ブームとなっている『明日、私は誰かのカノジョ(明日カノ)』です。 『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお) 1巻表紙 ©️Hinao Wono/Cygames, Inc. 少女たちの苦悩で紡がれる『明日カノ』の世界 流行に疎く、おばさんであることを楽しんでいる傍ら、若い人に人気の漫画はどういったものなのだろうと市場調査のような感覚で触れてみた『明日カノ』の世界。 本来は『ジョジョの奇妙な冒険』や『封神演義』といったバトル描写のある少年漫画が好きで、色恋沙汰やキャンパスライフを描く作品にはあまり関心のない人間でしたが、『明日カノ』は…現代社会における知られざる戦争なのだ…と衝撃を受けたのです。 『明日カノ』について簡単にご説明いたしますと、主人公は学生から社会人のような年齢まで様々な、どこか生き辛さを抱えた女性たち。各章で異なる主人公による物語が描かれるオムニバス形式になっていて、時にすれ違い交錯するゲーム『サガ・フロンティア』のように展開される作品です。彼女代行業、パパ活、整形依存、ホスト依存、スピリチュアル信仰…興味関心はあれど、通常はなかなか踏み出すことの出来ない世界が描かれています。 生々しさにコメント欄には主人公たちを心配する声も そもそも筆者の学生時代には『明日カノ』で描かれている彼女代行業やパパ活といったものはなく(援助交際のような近しいものはありましたが別物だと思いますので)インターネットで見聞きする最近の文化といった捉え方でした。 そ