22年前、大学に入学し上京した私はある女性と出会い、地元福島とは全然違う階層の人が東京にいることを初めて知りました。 いわゆる「お金持ち」は福島にもいました。でもその上の層があるとは。 その彼女は、政治家やら財閥やら、一族が国の根幹に関わっているという家の娘らしいのですが、具体的な話を聞いても階層が高すぎてなのか、私にはさっぱり理解できませんでした。 福島の高校時代、お金持ちの"さらに上の層"があるなんて夢にも思いませんでした 彼女は部屋着にブランド服をまとい、待ち合わせの時はホテルの「ラウンジ」というところで一杯1500円もするコーヒーを飲む娘でした。大学生ならチェーン店でしょ! いや、ガードレールに座って缶コーヒーでいい。 でも彼女には、上層階の住人であることをひけらかすような嫌らしい態度がまるでないのです。 これがハイクラスということなのか… と驚愕したのを覚えています。 一方、私といえばバイトに明け暮れてばかりで、彼女を前にどんどん卑屈になっていました。 私と彼女の間に流れる空気の違い。言葉にこそしないけれど、階層違いの風がぴゅうっと吹くあの瞬間。 映画『あのこは貴族』を鑑賞したとき、私の中にその時の思い出や、あの“階層違いの風”が蘇りました。 『あのこは貴族』 監督・脚本:岨手由貴子 Blu-ray&DVD発売中 発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス ©️山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会 門脇麦さんと水原希子さんが演じる対照的なセカイの2人 結論から言うと、こちらの映画、すごく面白かったんです。 まさに「階層違いの風」がぴゅうっと吹く瞬間が見事に映像化されていて、「ああ!そういうことです。そういうことなんです!」と何度も頷いてしまいました。 主人公は門脇麦さんが演じる榛原華子。渋谷区松濤の実家暮らしで父親は
今回は、私の大好きな三宅乱丈先生のSF漫画『イムリ』をご紹介します。 本作は、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門において優秀賞を受賞している作品です。 三宅乱丈先生といえば、お寺を舞台にしたコメディ作品『ぶっせん』のイメージが強かった私。ギャグ漫画の先生だと、勝手に思い込んでいたので『イムリ』を読んで、作風の違いにびっくりしました。 まず、はじめにお伝えしておきます。 私の語彙力で、『イムリ』の世界観を説明するのは大変難しい! 「好きだけど上手く説明できない……だって、この想いを伝える言葉が見当たらないから!」という乙女心を抱いて、この文章を書いていると思って読んでいただけると幸いです。 やかましいわい! 『イムリ』1巻表紙 ©三宅乱丈/KADOKAWA ふたつの惑星で繰り広げられる3つの民族の物語 本作では、「ルーン」と「マージ」というふたつの星が舞台になっています。 惑星ルーンは、かつて支配民族「カーマ」による大きな戦争がありました。最終的にカーマは星全体を凍結し、彼らは隣星であるマージへ移住します。 そこから4,000年が経った現在から物語が始まります。 惑星カーマで育てられた少年の物語 ©三宅乱丈/KADOKAWA さらに『イムリ』の世界には、3つの民族が存在し、民族間での争いが物語のカギになっています。 カーマ…… 支配民族。「侵犯術」という他者の精神をコントロールできる力を使って、身分制度を作り上げ、政治を行っている。 イコル…… 奴隷民族。カーマの侵犯術によって奴隷化させられている。 イムリ…… かつてカーマと争った惑星ルーンの原住民。必ず双子で生まれ、お互いに夢を見合うことができる能力を持つ。 私は、漫画に出てくる「侵犯術」という他者の精神をコントロールできる力に最も惹かれました。 すべての生き物は「彩輪」とい
映画『さかなのこ』を観てきました。 本作は、さかなクンの自伝『さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!〜』を、フィクションを織り交ぜながら映画化した作品です。主人公のミー坊を演じるのは、のんさん。この原作はすでに読んでいたので、すごく楽しみにしていました。 『さかなのこ』9月1日(木)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー 配給:東京テアトル ©️2022「さかなのこ」製作委員会 さかなクンならではのポジティブなメッセージ 原作の中の、さかなクンのお話で印象に残っているものがありました。 それは「さかなの世界にもいじめはある」から始まります。 メジナというお魚がいて、広い海だと仲良く群れているのに、狭い水槽に入れたら、ある一匹を仲間はずれにして攻撃をし始めた……そんなエピソードが語られています。 傷ついたその一匹を他の水槽に移すものの、今度はまた別な一匹をいじめ始めます。広い海にいたら、こんなことは起こらないのに。 さかなクンはこう言います。 「広い空の下、広い海へ出てみましょう」 広い世界を知ったら、そんなことを思いつかないほど、楽しいものに出会えるから。 私もさかなクンの言葉に倣い大海原に まっすぐな主人公が問いかける「普通って何?」 そんな内容を知っていたこともあり、私は感動する気、そしてさかなクンを讃える気マンマンでこの映画を観に行ったのです。 ところが、思っていたのと違いました。 なぜそれに気づいたかと言いますと、さかなクンご本人が「ギョギョおじさん」という人物で登場しているのですが、これがまさに「変なおじさん」。言葉を濁さずに言ってしまうと「変質者」ではないか! ©️2022「さかなのこ」製作委員会 こんなふうにご本人を登場させる時点で、なんか思っていたのと違うぞ。 私が、いやらしくも予測すらして見ようとしたも
ずっと、「自分の人生に影響を与えた一曲は?」という質問をされても「曲ごときで自分の人生変わるものかい。」と思っているような人間でした。 ところが、あの日確かに、私の中の何かが変わりました。 それは新型コロナウイルスが蔓延しはじめた2年前のこと。恐ろしい未知の感染症が自分たちの間近に迫ってきているという恐怖心から、日本中があらゆることに疑心暗鬼になっているような空気を感じていました。そんな時に、私はコロナウイルスに感染します。 著者近影 コロナで弱った心と身体に追い打ちをかけた“コロナ差別” 今でこそ、芸能人の誰かが感染してもそこまで大きく報じられることはありませんが、当時は、とにかくテレビなどでデカデカと取り上げられました。新型コロナについてまだまだ分からないことが多かったので、当事者の私から情報を仕入れようという空気もあり、私はどんどんメンタルがやられていきました。 相方や関係者の方々に迷惑をかけてしまっている心苦しさから、私は自分を責めました。さらに、マンションの住人からの嫌がらせもあって、いわゆるコロナ差別というやつが、弱っている心と身体に追い討ちをかけてきました。 今までは優しかった人が、コロナの恐怖ゆえに私へ投げかけてくる言葉の数々は、なかなか恐ろしいものがありました。戦争が始まる前ってこんなだったのかなぁ。そんな想像をしたりして。 そこから私は外からの情報をできるだけ遮断しました。テレビを消して、ネットニュースもSNSもチェックするのをやめました。ただ、ラジオだけは聴くようにしていたのです。そうしていると、気持ちが楽になりました。しかしそれと同時に、全てを失ってしまったような焦燥感にも駆られるようになりました。 この先、私はどうやって生きたらいいのだろう? そんなとき、ラジオから流れてきた曲が、バンド・ROTH BART BARONの『彩| IGL
小学生の頃、近所のお姉さんの家にはたくさんの少女漫画があった。そこで出会った漫画たちが、私を立派な夢見る乙女にしたと言っても過言ではありません。 「現実はマンガのようにはならんぞ」本当の意味でそれに気づくのは、東村アキコ先生の『東京タラレバ娘」を読んだ時です。 しかしそれまでは、30歳を越えてもなお、雨の日にリーゼントの不良が捨て猫を拾ってやしないかと雑居ビルの裏を覗き、はたまたメガネを取ったら「お前かわいいじゃねえかよ。ムカツクな」と言われることを期待して生きていました。 今日は、そんな乙女モード全開だった小学生の頃に、どっぷりハマっていたバレエ漫画、『ユニコーンの恋人』をご紹介したいと思います。 筆者が大切に保存していた『ユニコーンの恋人』 ©星合操 天涯孤独、秘めた才能の持ち主…これぞ“ザ!少女漫画” 主人公は少女ハニー。唯一の肉親だった父親に先立たれると、ハニーの引き取り手としてやってきた父親の友人を名乗る男性にいきなりバレエ学校に入学させられるのです。 入学早々、意地悪な先生に何か演目を踊ってみろと言われるハニー。父親にバレエの手ほどきは受けていましたが、そんなものは知りません。バカにされ笑われる日々が続いた、ある日。心の支えにしていた、母親の形見の汚れたトゥシューズを川に投げ捨てられると、ハニーのなかの何かが弾けました。 「踊れるもん、オーロラ姫もシンデレラも、もう覚えたもん」 泣き叫ぶハニー。ハニーは人知れず練習をしていたのです。 「なら証明してみなさいよ」 ハニーは涙を拭って、みんなの前で踊って見せます。裸足で。え、裸足で!? はい。裸足でー!!そしてそこで証明されるのは、意地悪な先生も認めざるを得ない、ハニーの素晴らしいバレエの才能なのでした。 主人公・ハニーの才能に先生が驚くシーンは“ザ!少女漫画” ©星合操 いかがです? “ザ!少女漫