『ドラゴンボール』『幽☆遊☆白書』と並び、90年代『週刊少年ジャンプ』の黄金期を作り上げた人気バスケットボール漫画『SLAM DUNK』。その連載終了から20年以上の時を経て、原作者・井上雄彦自らが脚本・監督を務めるかたちで『THE FIRST SLAM DUNK』として映画化されました。 あらすじ未発表のまま2022年12月3日に劇場公開された本作は、結論からいえばアニメーション史どころか映画史に残るべき大傑作。原作を予習する必要がない、それでいて原作ファンならより深い余韻を味わえる「一本の映画作品」です。 この記事では、ストーリーのネタバレを避けながら、いかにこの『THE FIRST SLAM DUNK』が今観るべき作品なのかを解説していきます。 ずばぬけた映像的快感!これは「アニメ版」ではなく「動く『SLAM DUNK』」 本作最大の特徴の一つが「『観たことのない映像』をこれでもかと見せてくれる」、破格の映像体験にあります。ベースはアニメーション作品ですが、その印象はアニメとも実写とも違う、「漫画『SLAM DUNK』が動いている」です。 その理由は、井上雄彦氏がこだわったと言われる、アニメとしては異例とも言える「彩度を抑えた色彩設計」 。そして「紙に描かれたようなザラついた感触を持った映像表現」にあると考えられます。 わかりやすく伝えるならば「2018年に発売された新装再編版『SLAM DUNK』の表紙イラストが動いている感覚」ですね。 そして、そんなキャラクターたちが、試合シーンでは3DCGとモーションキャプチャーによって縦横無尽にコート上を動き回ります。 コート上の全キャラクターが常に動いているだけでもアニメ映像として衝撃的なのですが、まるでコート上をドローンが飛んでいたり、バスケットボールにカメラがついていたりするような、大迫力のカメラワークも
2022年もたくさんのアニメが公開され、いくつものヒットや話題が作られました。 劇場作品では『ONE PIECE FILM RED』が180億円 を超える大ヒットを記録し、TVシリーズでは『リコリス・リコイル』『パリピ孔明』などが話題となり、現在も『チェンソーマン』『機動戦士ガンダム 水星の魔女』はじめ毎週SNSを賑わせる新作が放映中となっています。 そんな中、今回紹介したい作品が、Netflixの オリジナルアニメ『サイバーパンク: エッジランナーズ』です。これまでNetflixの日本オリジナルアニメにはおすすめしづらい作品が多い印象でしたが、本作は文句なしに「傑作」と推すことができる一本です。 Netflixシリーズ『サイバーパンク: エッジランナーズ』独占配信中 保証:『キルラキル』や『SSSS.GRIDMAN』のTRIGGER制作 参加スタッフの名前だけで「間違いない」と期待が高まるアニメ作品が年に1〜2本程度ありますが、『サイバーパンク: エッジランナーズ』は確実にその1本であり、実際に「間違いない」と言える作品でした。 アニメーション制作は、日本を代表するアニメスタジオであるTRIGGER。 TRIGGERはガイナックスの人気作品『天元突破グレンラガン』を手がけたメンバーが中心となって2011年に設立されて以来、『キルラキル KILL la KILL』『SSSS.GRIDMAN』『リトルウィッチアカデミア』『BNA ビー・エヌ・エー』など個性的な作品を制作し「ハイクオリティーかつオリジナリティーあふれるアニメを作るスタジオ」として、アニメファンの間では認知されています。 さらに本作の監督を務めるのは、同スタジオの今石洋之氏。1990年代にあの『新世紀エヴァンゲリオン』でアニメーターとしてデビューし、『天元突破グレンラガン』『キルラキル』『プロメア』などで
洋楽離れが叫ばれて久しい昨今、「洋楽が苦手」「邦楽しか聴かない」という人は少なくありません。筆者の身の回りにも、老若男女問わずたくさんいます。 まあ、コンテンツ供給量は増え続ける一方ですし、魅力的な日本の音楽がたくさんあるのも事実ですからね。 でも「洋楽は聴かない」と暗に自分を縛ってしまっているのなら、それはもったいない。何も「洋楽と邦楽のどちらが優れているか?」なんて話ではありません。シンプルに、好きなものが増えたら、そのぶん楽しいことも増えるじゃないですか。 …というわけで本稿の主役、英国ロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライターのリナ・サワヤマをご紹介しましょう。 © Thurstan Redding リナ・サワヤマは日本生まれロンドン育ちの日本人。今年の『SUMMER SONIC 2022』で来日し、テレビ番組『スッキリ』に出演していたので、ご存じの方もいるかもしれません。以前は『情熱大陸』でも取り上げられていましたね。 そんな彼女のデビューアルバム『SAWAYAMA』はエルトン・ジョンら大物ミュージシャンからも称賛され、英音楽賞であるマーキュリー賞のノミネートでネックとなっていた国籍の条件も彼女のSNSでの働きかけにより変更されるなどの成功を収めました。また世界屈指の野外フェスとも称される米『コーチェラ・フェスティバル』にも出演しています。 そんな世界的評価を集めている彼女が作った新作アルバム『Hold The Girl』こそが、洋楽に苦手意識を持っているあなたにこそ聴いてほしい作品です。 リナ・サワヤマ『Hold The Girl』 前提:洋楽を苦手と感じてしまう2つの大きな理由 注:本記事で紹介する邦楽と洋楽それぞれの特徴は、あくまでもメインストリームのポップスにおける傾向です。いくらでも例外があること、時代やジャンルによっても変
2022年、尾田栄一郎氏による漫画『ONE PIECE』がついに最終章へ突入。これまでの進行スピードや作者コメントからは、最短で2024年に完結を迎えるのではないかと予想されています。 そうした原作の盛り上がりタイミングに加え、アニメーション映画『ONE PIECE FILM RED』公開に合わせ、2022年6月〜7月にかけて92巻までの内容がネット上で無料公開されていました。まんまとこの一大キャンペーンに乗せられた筆者(空島編後に脱落していた30代)は、これを機に本誌連載の最新話まで追いつきました。 『ONE PIECE』103巻表紙 ©︎尾田栄一郎/集英社 ここから最終回に近づくにつれ、『ONE PIECE』の話題がSNS上にもさらに増えてくることが予想されます。ということで、最終章に突入したばかりのこのタイミングで、2022年的視点から『ONE PIECE』を読むべき理由を核心的なネタバレを避けながら3+1つ、そしておすすめの読み方を紹介しようと思います。 理由その1:時代を象徴する作品が完結し、"新時代"が幕を開ける 主人公ルフィら世界中の海賊たちが「ひとつなぎの大秘宝」を求めて世界中を旅する漫画『ONE PIECE』。その連載が開始されたのは1997年7月22日。 これは『新世紀エヴァンゲリオン』完結編となる映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』が上映された7月19日からわずか3日後であり、今となっては非常に象徴的なタイミングだったといえるでしょう。 『ONE PIECE』1巻表紙 ©︎尾田栄一郎/集英社 『エヴァ』ブームが90年代後半の日本カルチャー全体に大きな影響を与えたのはすでにあらゆるところで語られていますが、その象徴の一つがゲーム『ファイナルファンタジー』への影響です。 『エヴァ』的なるものが当たり前になった現在の視点
今なによりも“リアル”な作品。 今回紹介する劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』を観た多くの人が、きっとそんな感想を抱くのではないでしょうか? そもそも本作は、2011年に放映されたTVアニメ『輪るピングドラム』の10周年を記念し、その全24話を前後編の2部構成で再編集&新作シーンを追加した劇場作品。 劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM [前編]君の列車は生存戦略』キービジュアル ©2021 イクニチャウダー/ピングローブユニオン オリジナルから10年以上の時を経て映画化されるというのもかなり異例なことですが、それでも個人的に驚きはありませんでした。むしろ納得する気持ちの方が強くありましたし、同じように感じた作品ファンも少なくないでしょう。 なぜか? それは10年以上経っても消化できない何かを、視聴者に強く残した作品だったからです。 そして、『輪るピングドラム』という作品の重要性は、劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』が例え存在しなかったとしても、2022年の今こそピークに達しているように思えます。 本作は、双子の男子高校生・高倉冠葉と晶馬が、不治の病で余命わずかと宣告された妹の陽毬の命を救うため、謎の”ペンギン帽子”から受けた「ピングドラムを探せ」という命令に従い、ほん走する物語。冠葉と晶馬を導く謎のペンギンや、それぞれの運命と大切な人のために“ピングドラム”を追う個性的なキャラクターたちが登場し、「ピングドラム」を中心とする謎が謎を呼ぶ展開が、放送当時大きな話題を集めました。 この記事では極力ネタバレを避けながら、主にオリジナル『輪るピングドラム』も劇場版のどちらも観たことがない人へ向け、その魅力を伝えられればと思います。 ポップカルチャーの宿命。現実とリンクするストーリー